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鬼の女  作者: 詞記ノ鬼士
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003 復讐の始まり

 とある田舎の土地で茜は立派な家の娘として育った。

「お母さま、お父さま!」

 どこから親を呼ぶ声がする。

 その声はとても震えていた。

 それは小さな茜の声。

「お母さま、お父さま……」

 それに茜と同じく赤髪の母親は泣いていた茜にそのわけを聞いた。

「どうしたの、茜。また、いじめられたんですか?」

「はい……鬼の子が来たと言われました……」

「かわいそうに。ごめんなさいね。私の子に生まれたせいで、こんな髪にしてしまいまして、本当にごめんなさい」

「君のせいじゃないですよ」

 父親は母親に寄り添う。

 彼も赤髪を持った者だった。

 茜も彼ら懐へと寄って、話を聞いた。

「ねえ、なんで私たちはこんな髪の色をしているの? なんで私たちはみんなから嫌われるの?」

「それはね。私たちの祖先がこの国からずっと離れた場所から来た人だからなんですよ」

 母親は語っていく。

「外から来た私たちの祖先はこの国の化け物にちなんで〈鬼〉と呼ばれました。それ以来、うちの家系は鬼と呼ばれ続けているのです。この赤い髪は私たちが外から来た者の血を引いているという証なのです」

「他のアカカミの一族は度重なる村人たちの襲撃にあい滅びました。私たちの一族は唯一のアカカミの生き残りなのです」

「どうかそのことを誇りに思ってください」

「どんなにからかわれようと、バカにされようと我慢してください」

「はい……お母さま、お父さま……」

 理解はできても納得はできなかった。

 これでは、何もしていないのにうちの一族はやられっぱなしで、勝手に〈鬼〉と呼ばれて、かなったものじゃない、やり返したいと、子供ながらに茜は思った。

「きっと、村の皆もいずれ分かってくれるはずです。我々は鬼なんかではなくただの人間だってことを」

「はい」

そう返事するものの、母親が言う事と父親が言う事を聞き入れることができなかった。

きっと、これからも貶められていくのだろう、そう思ったのだ。

でも、父親と母親はいつかそういう日が来ることを願い続けている。

不用意にその夢を壊すような真似は茜にはできなかった。

そんな茜は虐めてくる子供たちにはかまわない、何もしない、ただ黙っている。

 これで、全ては平和のままだった。

 何もしなければ、滅んでしまった他の一族のようにはならないと思っていた。

 ある事件が起こるまでは……

茜が十歳のとなる夜のこと、屋敷を襲われたことを境に彼女の人生は一変した。

「きゃあ……」

物音に目覚めた茜は悲鳴の元へ駆け寄る。

母親と父親の元へと向かう。

「な、何者だ? うわぁあ!」 

 茜は戸を僅かに引き、見た。

 父親が何者かに切り付けられ倒れる姿とすでに血を流して倒れている母親の方を見た。

「お母さま、お父さま……」

 目の前でうろうろとする見知らぬ人影。

 その中に一人が言う。

「おい、子供がいるはずだぞ! 殺せ!」

「え……」

 茜はそれを聞き、後ずさる。

 そして、裏口からそっと逃げた。

その時、黒ずくめの男が目の前に立ちふさがり、一瞬動けなくなる。

再び動き出したのは、後ろから自分を見つけた男たちの声を聞いた時だった。

目の前の男の横を通り、できる限りの速さで走る。

最初は普通の道を通っていた。

 しかし、このままだと追いつかれるだろうと思い茜は森の中へと足を踏み入れた。

 すると、後ろから、

「夜の森は危ない。やめとけ」

「しかし」

「なに、放っておいいても獣にくわれて勝手に死んでくれるだろうよ」

「そうだといいがな」

 聞こえてくるそんな声。

どうやら、これ以上はおってこないらしい。

 夜の森の中は獣の鳴き声が聞こえてきてひどく怖かった。

 茜は足の震えを感じながら、それでも生き延びようと先へ進んでいった。

ふと、立ち止まる。

「なに?」

 何か来る。

近づいてくる。

「ウオォオオオオオン。ガルルルッ」

 獣の遠吠えがすぐ近くで聞こえた。

 どこにいりか分からない。

 でもこのままだと、確実に危ない!

 茜は聞こえてくる声とは反対のほうに走った。

 ガサガサガサガサと、後ろから迫る足音。

「やだ、やだやだやだやだ!」

 自分が食われる姿が頭の中によぎる。

 これ以上は早く走れない。

 一生懸命走っているのに、追いつかれていく感覚。

 恐怖が迫る。

「もうだめだ……」

 その時、茜は足元を崩した。

 倒れ込み、坂を転がった。

 その先で大樹の窪みへと入り込み茜は意識を失った。

 獣たちはその後、茜の姿をとらえることはできなかった。

 そして、目覚めた時には、

「朝だ……」

 朝の光が茜の頬を照らし、茜は自分がいま生きていることに安堵した。

夜とは違い朝は、輝かしい。

茜が朝まで生きていられたのはその大樹の窪みに身を隠していたおかげであった。

 それを実感し、茜は泣けてきた。

「うぅ……うわぁあああああ――」

緊張が解けた瞬間だった。

 それと同時に、憎しみ悲しみがこみあげてくる。

 やがて、泣くだけ泣いた茜は泣くことをやめた。

 そして、

「いつか必ず……」

 殺してやる。

親を殺され、彼女は復讐心を胸に隠し持っていた。

しかし盗みをする自分、やっと生きている自分。

そんな無力な自分では復讐なんて無理だろうと今の茜は諦めかけていた。

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