ズィロのスカウト
なんだかんだでグダグダと朝は開ける。
「あれ、お出迎え?」
正門付近に黒い影が白い司法院の石畳に鮮やかに写っている。
「まさか舎監とか院長?」
お代わり自由な朝食をタップリ摂ってイザ帰還しようと馬車に乗り込んでいたマーサたち。
「ちがうよ、あれはズィロだよ」
「ああ、影がまるくて太いって、ダイ」
「あん、白ひげタラップで立ち止まらないでよぉ」
テオが『猫の足跡団』だから最初に馬車に乗車。以下、マーサの順番である発見をしたのだ。
「ダイ、どうしてあんた馬乗ってんの?」
「〝あんたとか乗ってんの〟ってマーちゃん相変わらずお嬢様の癖に口が悪いなぁ。これは〝とうちゃん〟。おれの馬だよ」
「だから、どうしてその馬が司法院にいるのよ。後マーちゃん禁止だってば」
「んーー。多分、お出迎えが連れてきてくれたんだよ。ズィロとアーちゃんは、もう顔見知りだから」
「ったく。ガキの癖に、どいつもこいつも」
「あ? 白ひげ、ダイとごちゃ混ぜでイヤミ?」
猫の足跡団分裂の危機か?
「多分ズィロはスカウトだよ」
「「「スカウト?」」」
大きく頭を上下したダイ。ナゼか愛馬も真似っ子をする。
「昨日のお芝居は〝大ウケ〟したじゃないか。猫の足跡団をスカウトするんじゃないかな」
「あのねぇ」
「ねぇダイ」
唯独り車内に腰掛けているテオが窓からご質問。
「あんたズィロと親しいんだろ。昨日のお礼ってどうなってんのさ?」
「ああ。多分、そのお礼とセットだと思うよ。お芝居にこれからも出演てくれるなら金額を増やすって」
「へぇ。いいじゃん、マーサ頑張りなよ」
恥ずかしくてセリフ覚えはマーサに任せる腹積もりだろ、テオ。
「いや、まてよ」
顎に手を当てて思案のポーズのダイ。
「お芝居の勉強が必要だら減額とか、しそうだよな、あのヒト」
ダイは納得しているけどお芝居の原案、三本で銀貨一枚って衣装よりもブラックなズィロの労働環境だった。ソシアが逃げ出したのも、ダイにはわからなくもないのだ。
「なにブツブツしてんのさ。たくさんお金、くれるの、くれないの?」
「こうしょう。次第じゃないかな?」
それがダイの結論だった。
でもスカウトの予想は正解。
「お嬢様方」
「お嬢様だから、私以外だね。頑張れよ、マーサ」
「あの、ズィロ。熱弁も過ぎると逆効果ですよ」
「おや、おはようございますペネ判事」
となると。
「ははははははは。ズィロ元気か?」
「パウロ? どうして?」
ズィロが呼び捨てでも大丈夫なパウロたち。
「あーー護衛が危なくて貴族が」
ぉぃ。
「どうして、かぁ」
カラスコが昨日、どうしてパウロが判事で自分は司法試験落ちたのかと愚痴っていた。