パウロの腹が鳴る
「では、やはり超絶の人気劇団である鷲と白鳥一座の人気を妬んだ?」
「まだ確定はしかねますけど、とある貴族の屋敷にカルバン医師は逃走しました。現在、身柄引き渡しを申請中であります」
「そうですか。正当な理由なく引き渡しを拒絶するならば」
「姉ちゃん、カペラの兄ちゃんに頼むべ?」
カペラ。ペネの教育担当だった人物で、現在は司法院の最高峰。大法官の地位にある人物だ。
「まだ教官のお手を煩わせる場面ではありません。でも、高等判事の誰かに依頼しましょう。そうなる前に」
「相手側が、それほど愚かではないと夜警隊からも願います」
「で、姉ちゃん。どーして悪さ、しただ?」
「この一座を追い出して、別の施設を建造する計画があるのです。噂ですけど」
「で、なんで腹痛だへ?」
色々オカシイ言葉を使うパウロ。
「公演の中止で観客動員が激減しますし、食あたりの風評で、興行許可を取り消し、色々と作戦を練っていたのでしょう」
「興行許可」
「あれ?」
二言目には怒鳴るズィロ座長と違い、年長者の余裕を見せていたガッペンが声を荒らげた。
「この劇場を建設するのに、その前にどれだけナピと苦労したか」
「んだな。まだズィロの脚本はヘタだったし、役者が足りなくて姉ちゃん」
「それ以上は不許可です、パウロ」
「へぇ」
姉の怒声に首を引っ込める巨漢のパウロ。
「ああ、昔ペネ判事舞台に上がって」
「それ以上は不許可だと宣告してます。しょーーーねーーーんーーー」
「いたた、痛いよ」
ダイの頬はペネの人差し指ドリルのおかげで窪む。まあ、さすがに子供に対する遠慮はしてるってことで。
「ねぇ白ひげ。あのダイって年上殺し?」
「知らないってば。あんまナマ言ってるとテオが怒るよ」
「なによぉ。怒ってんの、白ひげじゃん」
「怒ってないってば」
「で、抜刀してリリュやパウロ判事に斬りかかった愚か者に尋ねたのですが、彼らもかなり驚いていた様子です」
「何の、ナニにさ。おっさん」
代役を果たした立ち位置のせいで、とても強気なテオ。猫の足跡団の首領さんだ。
「あのだな」
一度襟を正してから解説する夜警隊員。
「あいつらの誰とは特定できないのですが。なにしろ、実行組の主犯になりますから」
「「それで?」」
ペネとアーネスト。この場では公的な責任者の立場にある。ズィロ、ガッペンは当事者被害者でも。私的な位置にあるのだ。
「なんでも、数人死亡している予定だったそうです。そのくらいの危険なモノを弁当に仕込んだと」
「では、仕込みの実行はカルバンでしょうね」
「偏見や先入観は危険ですが、同意します。判事卿」
「卿ではありませんよ。続けなさい」
一番公的に偉いのはペネになるらしい。
「は。ですから、想定した人数の半分程度の食あたりで、しかも軽症ばかりなので、ダメだしでカルバンを呼び寄せたようです」
「それから」
別の隊員が前に進み出る。
「判事閣下から預かりました丸薬ですが、カルバンの馬に四分の一粒を与えたところ」
「馬が倒れました、か?」
頷く夜警隊員。
「それは食あたりを誘発する段階ではないな。毒物ではないか」
「さすがにヒトより身体の大きい馬ですから、死に至らないでしょうが、アレを服用したら」
「間違いなく殺害目的だった。カルバンは重罰を与えなければなりませんね」
「で、どうして大丈夫だったの?」
「あ、ダイ」
ついさっきまでカラスコの愚痴にうんうんと頷いていたダイがなぜなぜタイム。
「それがわからないと。だから自分たちの罪は軽いと」
「まあなんて往生際の悪い」
「ははははは、死刑にすっか、姉ちゃん」
パウロがまたチャチャを入れる。
「だから、貴方は黙っていなさい、パウロ」
「へぇ」
再度退場するパウロ。でも、その右手には絶世の美少女、大陸随一の美貌の歌姫の誉れ高いソシアの腕が絡まっているのだ。そんなに悪くないんじゃないのか?
「ねぇパウロさん」
「んだな?」
意味不明なパウロ語。
「なんだか、お腹が鳴ったけど、ペコペコなの?」
「んお? んーー減ってっかな?」
「「「腹が鳴る!」」」
ダイの何気ない発言に反省会全メンバーの注目が集まる。
「そうか、悪党の想定より被害が軽かった」
「で、無事だったソシア」
「まさか?」
大人たち。ま、ほぼ全員の視線はパウロから徐々に落下。パウロと密着している歌姫ソシアに注がれる。