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『大盗賊ダイ』  作者: 提灯屋
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あの人を……していると


『とうとう。……都に着いてしまいました』

 半分以上をダイのプロンプターとリリュのフォローに頼るマーサ。それで観客が怒らないのだから、マーサ、マーちゃん。歌が上手だし、黙っていれば美少女なんだ。


『これから新しい生活が始まるよ。今は故郷のことは忘れて。でも』

 チラリどころかガン見。

 二代目ワガママ姫になっていたソシアを舞台に釘付けするために、パウロも舞台に残留させたのはズィロ座長の苦渋の決断だった。


『ほら、こうしていれば故郷の森を思い出せる』


「ソシアーー」

 頭を抱えるズィロ。

「いいじゃないか。今日は素直に芝居してる」

「まあ、そのためにパウロを舞台にあげましたから」

「木の役か。あいつにぴったりだな」


 田舎の樹木とは違う。その演出のためにパウロには色も形も最初とは違う枝葉にチェンジしたのだ。

 あーうっとーしい。


 時々プロンプターに確認と観客にはナゾな蹴りや足踏みを入れながら代役ヒロインは役目をこなして行く。



「ふぅ。やっと終盤ですオーナー」

「ああ。気のせいかいつもより投げられるコインが多いくらいだ。抜擢は成功したな」

「はぁ。では奥様ナピナピが締めくくって頂いて」



『ああ、どうしよう』

 豊かな胸元で手を結んだマーサは膝立ちする。

 肉親を選ぶか、恋を選ぶかとヒロインが悩む場面だ。


『シンプソンは盗っ人(ぬすっと)。私の』

 ギロリ。マーサの動きが止まる。


『私はシンプソンに心を奪われてしまいました。もう口にだしてしまいましょう。〝あの人を愛している〟と』

 マーサの沈黙はセリフ忘れだと判断したダイは、雷撃みたいな速度で石版にセリフを記入する。


『私は』

 ダイの速攻筆記。でも、マーサは棒読みでも芝居を進行しない。



「どうした? お嬢さん。間にしてはとり過ぎだぞ」

「ダイの石版は読めてるハズなんですが」

 芝居進行の関係で現在はズィロの真横に立つリリュに、〝行け〟と指示するズィロ。


「ちょっとだけ待って下さい」

「ペネ判事」

 最後のオチのために衣装が脱げないペネ。正式には漆黒の法服をまとう判事が、今は花嫁衣裳顔負けの純白な姿である。


「あのお嬢さんはワケありだと申しました。きっと思うところがあるんでしょう」

「でも」

 ガッペンとズィロの進路を塞ぐように一歩前進するペネ。


「大丈夫です。それに仕返ししたくないですか?」

「誰の何に対して」

「あ。まさか」

 ニコリと笑うペネ。笑い方はパウロソックリだ。


「そろそろライバル視している『鷲と白鳥一座』の舞台進行を腹立たしく思う人間が動きますよ」

「ああ。弁当に食あたりするモノを仕込んだ?」

「はい。その通り。恐らくはタイミングが良すぎるカルバン医師は偵察要員でしょう」

「そうか。それは劇場主としても、復讐したいな。ズィロ、ここはペネに任せよう」

「感謝します。やはり昔馴染みとは有難いですね」


 そしてまた高速で舞台に戻ろう。



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