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『大盗賊ダイ』  作者: 提灯屋
85/132

マーサが歌いダイが動いて、そしてコインが飛ぶ


『さてもみなさま

 おつきあいください』

 踊り跳ねながら朗々と歌声で語るリリュ。


 ともあれ、幕は上がり芝居は始まった。




「うわーーーっ」「え、なになに、すごーーい」

 歓声が巻き起こる。

『お父様の呪いを解いてもらうために、た、たびだちまあ?』

 腰を低くしてダイの石版に接近するテオ。主人公姉、フラワー・デイジー役である。


『旅たつの。マーガレット、お父様をよろしくね』

 出番は冒頭とラストだけ。でも物語の鍵を握るキャラだから抜擢だと言える。


『お姉さま』

「きゃーーっ」「なになに」「なんかいい」

 観客席からどよめきが起きている。

 威勢は良かったけどセリフをほとんど覚えていなかったテオは、ダイを舞台から降ろせなくなっていた。そうなると、お芝居によってテオの動きとダイの動きはシンクロ。膝を露出した謎な衣装のダイが舞台を歩き回ると歓声が飛んでいるではないか。

 古風な芝居関係者にはいるだけ恥なプロンプターが、役者以上の喝采を浴びている珍事が勃発しているのだ。


「ズィロ」

「はい、劇場主オーナー

 ガッペンは『鷲と白鳥一座』の先代座長でもある。つまり、二重三重に結ばれた連結がガッペンとズィロにはあるし、やや古いタイプの役者でもある。


「ヒロインの姉、どう割りましても棒読みだよな。プロンプターなしではどうにもならない」

「はい。歌声は上質だそうですけど」

 ワンアクションあると汗が流れるズィロ。ガッペンの分析にも冷や汗、脂汗が出ている。


「じゃあどうして、ウケているんだ。お客、ハンカチ振るどころか、コインを投げて下さってる」

 硬貨やご祝儀を舞台に投げ入れるのは、お客がその舞台を好評価している現れだ。


「それは、そのーー」


『心配しないで、マーサ。ええっとじゃなくて』

「まぁマーガレットをマーサは、ギリギリでセーフだよな、ズィロ」

「あ、ははは、はい」


 『マーガレット』と殴り書きした石版をテオに掲示するダイ。


「なになに、あの坊や」「プロンプターが舞台あがってるーー」「可愛いーー」


 そしてまたコインが投擲される。


「ズィロ。今の輝き見たか?」

「あ、ええっと酷い芝居で、すね」

「違う。銀貨を投げた客がいるぞ。あのプロンプター(ダイ)にだ。間違いない」

「でしょ。でしょ」

 リリュが背後からガッペンとズィロの首をホールドする。


「私の眼力は確かなんだからぁ。女性客に大ウケじゃない」

「そりゃ。ダイは器量は悪くないが。り、リリュ。抱きつくんじゃない」

「あーら。大丈夫、年下のズィロには興味ありませんから」

「そんな問題じゃない。暇人はこんな無用心な行動でぇ」

「だから私とズィロもガッペンもナイから安心して。ほらほらぁウチの一座に新しいファン層が開拓されるのよぉ」

「だがな。あの子は」

 ガッペンが赤面しながらダイの起用に難色を示した。だけど。


「悪くないかもな。オーナー、一座は当面は観客動員を稼ぐ必要があります」

「だが」

「はいはい。ともかく今は舞台を成功。までは過大な願いだから失敗しないように手配しましょうね」

「だがなぁ」

 大人たちには事情がある。


『ああお姉さま』

 姉に旅立たれ不安なヒロイン役のマーサ。


「もう一回ーー!」「ねぇねぇ私にそのセリフおっしゃってーー」

 立ち上がって役者にセリフのリピートを要求する貴賓席の上客。


「ええっと?」

 先ずダイ。そしてダイとマーサが揃って舞台袖のズィロとガッペンを注目する。


「もういっかーーーい!」

 貴賓席で立ち上がっている観客だ。パッと見十五か十六歳の貴族はそれに近しいご身分のお嬢様のようだ。欄干に身体を預けて差し伸べる掌の光。

 なんと小粒だけど金貨を誇示している。役者に対するチップならば余りに破格だ。


 構わない。大きく頷いて腕で○を造って同意を伝えるズィロ。


『お姉さま。マーガレットはお空を見上げたらお姉さまといつでも会える気がします。お姉さま!』

 さっきテオに教えたセリフを拭き消して素早く即興のセリフをマーサに伝えるダイ。


 『お姉さま』と貴賓席のリクエストと芝居の流れを矛盾させない予定のセリフを朗読するマーサ。


 我が意を得たり。

 ご満足頂けたのか、舞台に金色の輝きが舞台に投下された。


「金貨だ」

 座員も一部の観客の注目も小石のような投擲物に奪われたけど、なんとかまぁ芝居は進行する。



『金貨を回収しろ』

『でもあれ、マーちゃんのだよ』

『いいからお客も座員も気が散って仕方ない』

『了解』

 舞台。頼りない主役で強行している物語は、ヒロインが恋人役になる青年と出会う場面。

 でもズィロの指摘通り、座員もお客も気が散っているらしい。


「あーー動いたーー」

 ズィロの指示は舞台進行としては裏目になった。


「こっちにも硬貨あるわよーー」「じゃあ反対もーーなげるーー」「時々おねーさんをみてーー」

 少数だけど、コインを投げ続けるお客が出始めたのだ。


『金貨以外は芝居の流れで拾え』『はい』

 作戦変更して強行する『鷲と白鳥一座』のお芝居だった。



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