なんでお前が仕切る?
「じゃあ、おれが石版を見せるから復唱、た、た」
小ジャンプしたダイ。
「いててて」
ダイの両足はマーサとテオに踏まれていた。だけじゃない。
「なんだよ二人して」
「ダイ。どうして主役の小娘の姉の名前が、どうしてだよ」
「マーガレットって変更しなさいよ。マールグレーテがマーガレット役だなんて、どんな了見よ」
「え、だってズィロが主役の名前も決めとけって。思い浮かばなかったから」
「なに、じゃあデイジーとかマーガレットって狙ったの、殺すよ」
「お芝居じゃないか。お客はマーちゃんの本名なんて知らないって」
「殴るよ」
「殴らないで足踏んでるじゃないか」
まるで未開の民族舞踊のように足をバタバタさせているダイ。布靴でも踏まれたら痛いに決まっている。
「なら、もう痛みを感じなくさせたろーか?」
「なんだよ、中指立てるなんて、怒られるぞ。マーちゃんたち、おじょうさまだろ?」
「生憎様。あたしは親知らずの孤児なんでね」
とはテオ。
「でも、マーちゃん。カノッサってきびしい、痛いイタイよ」
「生意気な口は、この口? 何回マーちゃん禁止って言えば覚えるのよ」
「おれ八歳だもん、いいじゃないか」
「あんた、都合が」
子供の戯れは前触れなく登場した巨人の戦鎚が叩き壊す。
「ケンカはあかん。ダイ、なかようだ」
「「「わ」」」」
パウロが仲裁なのか、乱入なのか。
ダイにとっては仰ぎ見るべき巨大のパウロが三人を軽々と持ち上げた。
右手にマーサとダイ。左手にテオを載せている。
「あ、降ろしてよ、このバカデカ判事」
「スケベ、ヘンタイ、好色」
「かっこいいなぁ」
持ち上げられた反応も三者三様だ。
「なかようしねと、グルグルまわすだぞ」
もう回ってます。
「な、なによコイツ」
「わ、お祭りの遊具みたいだー」
実はスピードも低速、回転するだけならば回転木馬は中世風の時代からあった。でも、人力かウマ駆動だから、手間暇がかかる、お祭りだけの特別贅沢な遊びなのだ、
「はははははは、回っゾーーー」
「ねねねね、あんた、このバカの姉でしょーー助けてよーー」
ニンゲン回転木馬を呆れ顔で見物しているペネに助けを求めるテオ。
「小官の名は〝あんた〟ではありません。それから弟の名もバカではありません」
意地悪なペネ。いや、躾に厳しいのか。
「ははははははは」
「ごめんなさーーーい、助けてよー」「こう、さん、する、から」
ダイは嬉しそうにパウロの生みだす遠心力を楽しんでいるけど、テオとマーサはパウロの首にしがみつく。
「パウロそろそろやめなさい! でも、減速はゆっくりと」
「はいな」
驚いたことに姉の指令には従順な巨人なのだ。
ゆっくりと減速して回転を終了させたパウロ。ぐったりと舞台上でノビるマーサとテオに一言付け足した。
「ケンカすっと、〝また〟だかんな」
顔半分がニンマリとした歯になるパウロ。
「お、おれはぁたの、し、かたよ」
酩酊者でも、これだけのふらつきは難しほどふらふらなダイは、でもパウロの遠心力は有意義だったらしい。
「吐きそ」「泣きたいよ」
マーサとテオは、半分ノックアウトしてる。
「んだば、お芝居始めっぞ」
何に対しての挙手なのだろうか。両手を高々とあげるパウロ。
「なんでお前が仕切る?」
ズィロは額に手を当てていた。
「はいはい。それでは序奏曲お願いね」
当初の設定ではなかった配役の語り部を演じるリリュ。これは『猫の足音団』たちのセリフの代弁やトチッたフォローを勤めるためだ。
「頼むぞ。最初に三本柱でシメてくれないと」
「なにしろ舞台上では素人だからな。ズィロ。俺はこのままベットに逃げ込みたいよ」
「ベットに寝るのは腹痛の座員だけにして貰います、オーナー」
「ああ」