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『大盗賊ダイ』  作者: 提灯屋
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大盗賊心が燃えない


 バルナ王国の王都、ダイヤム。

 この都に、炎の歌い手ソシア、風の舞姫リリュ、癒しの歌い手キクヌスの三本柱に牽引された超絶人気の劇団『鷲と白鳥一座』が活動中だ。


 ダイヤムには、もう一つ。元気に活動している一味がいる。

 自称に近いけど、大盗賊ダイ。

 王室御用達を悪用した商人を解散に追い込んだり、政治的な駆け引きで追放された元子爵令嬢の名誉をほんのちょっと回復したりし、王都に潜伏していたオークたちを表舞台に立たせるなど、大活躍をしている。


 でも実際は八歳の子供のダイは、以前偶然の出会いから、この超絶人気一座の座長と知り合いになっていた。


「では、もう少し削れる場面があるか検討してくれ。俺はお医者様に運ばれた座員の様子とかヤボ用だらけなんだ」

 黒い樽のような肥満体で汗っかきのズィロ座長。

 劇団の脚本の台本を代筆させている。しかも、超廉価らしい。


「わかったよ。じゃあ机借りるね」

 ダイは元々自分が考案した芝居の手直しと、突然主役に抜擢されたマーサ。正体は元子爵令嬢なんだけど、カツアゲと同意義な勝手決闘フェーデで知り合ったダイよりは年上、でも勝気な少女のプロンプターの二役を勤める。


「机もだけど、少し静かな場所がいいじゃない?」

 一座の大人気者、踊り子のリリュ。実はダイは、ズィロに連れられて『鷲と白鳥一座』の常設芝居小屋に案内される前からこの踊り子を知っていた。


「じゃあ、どこに?」

「お姐さんの楽屋」

「ふぅん」

「だだだ、ダ、ダイ」

 真後ろでグランが号泣レベルで涙を流している意味が不明なダイ。


「じゃあ行くよ」

 人によっては楽園かヒミツの花園なリリュの楽屋に案内を、行くよで済ませるまだまだ子供なダイ。


「夜警隊さんは、こっちですから」

「あ、しかし」

 お腹はごろごろ鳴っているけど、なんとか無事の座員にコキ使われそうなグランだった。


「いらっしゃい」


「ねぇ、白ひげ」とはだんご。

「なによ、これから鬼忙しいんだから」とマーサ。

 『猫の足音団』は、それぞれ暗号名で呼び合っていた。それは、ある種の照れ隠しでもあり、違法なフェーデの際の自衛でもあった。


「ダイってさ。結構年上のオキニじゃない?」

「ふん」

 何気なくマーサが脚本の抜粋に目を通している。元商業副長官で子爵の娘のマーサが文字を読み書きするのはそれほど不思議ではない。敢えてツッこむと、脚本を複数用意している『鷲と白鳥一座』が潤沢な資金力と複製する人材を動員している実力だろうか。


「あいつは大盗賊らしいからさ、いいんじゃね」

「えーー、ちがうよぉ」

「あんだよぉだんごぉ」

 実は『猫の足音団』は首領リーダーで最年長のテオ以外はいいところのお嬢さんたちで構成されている。だんごだって親は現役の貴族だ。


「じゃなくてさ、白ひげもちゃんと唾つけないとさ、ダイぃっぃ痛いよぉ」

「お望みなら、その膨らんだ頬を倍にしたげるけど。子供がナマ言うんじゃないって前にも」

 今度は白ひげことマーサの頬が凹んだ。


「はいはい、ヒロインはしっかり台本を読みましょうね。いくらプロンプターいても、粗筋は把握してないと困るでしょう?」

 マーサの背後からキクヌス夫人。本名はナピがイタズラしたのだ。


「だからイヤだったんだよ」

「そう申さず」

 丁寧に跪いてからテオに拝礼。つまり胸に手を添えながら頭を下げたガッペン。劇場のオーナーだ。


「一座の危機をお救いください。美しいお嬢様」

「お嬢様って誰だよ」

「おや、私には騒がしい舞台に咲いた一輪の花。テオ嬢以外にはお嬢様は存在しませんが」

「そんな見え透いた嘘。や、やるよ。やるよ」

 テオも、まだまだ甘い子供だってことだ。



「へぇ、ちゃんと名札が貼ってある」

 舞台を地階だとすると、地下に用意されている控え室が立ち並ぶ区間に案内されたダイ。


「そりゃ、せっかく皆で頑張って建てた常設小屋だもの。お姐さんの部屋くらい用意されてるわぁ」

「でもせじょうされてないんだね」

 風の妖精の控え室は、風のように開放された。


「だって、ここには一座の仲間しか来ないもの」

「えーー? だってリリュさんは一杯ファンとか、〝ごひいき〟がいるんでしょ?」

 くすくす。リリュは手の甲を紅い唇に当てて笑う。


「あら、おマセねぇ。大丈夫、あの怖わーーーい座長が目を光らせているから。もし、この控え室に入れる人がいるつとしたら」

「いるとしたら?」

 うふふ。どうしてダイに片目を瞑るんだろう、この舞姫(踊り子さん)は。


「きっと世紀の大盗賊ね」

「そうなんだ」

 相手が無警戒ノーガード故に、闘争心、大盗賊心が燃えないダイだった。


「じゃあ机、お借りします。あれ?」

 リリュの控え室は、半分以上個室と同価になっていた。そこは、まあ驚くところじゃない。


「机って、一脚しかないんだ」

「そーねぇ。衣装棚とか全身鏡台は必需品だし、仲良しの座員やお友達、ソシアちゃんとかペネちゃんとお茶するために簡単な台所もあるのよぉ」

「でも机、一つなんだ。お借りしますね」

 それだけリリュには書き物は縁遠い行動らしい。



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