ショタコ商会の衣装って、しっくりこない
「いいか、誰の悪巧みか知らんが、『鷲と白鳥一座』は、こんな幼稚な妨害に屈したりはしない。今日を乗り切れば、活路は開ける」
「何を根拠に?」
一座の人気者リリュが腕組みをしながら座長をからかう。
「根拠なんてないが、先代や俺が鍛えた座員だ。明日には何人か必ず回復して復帰してくれる」
「まぁ精神論よりも、まずは目先の危機を乗り越えましょう」
既に配役の化粧加工済みのペネ、突然主役に抜擢されたマーサを筆頭にした『猫の足音団』。そしてダイと順番にウィンクなどを送る。
「あらいけない」
「ひゃぁぁぁ!」
意味はなさそうな一回転をご披露してからグランの面前に躍り出るリリュ。
「大事な協力者を忘れるところでした。宜しくお願いします」
「ねぇ白ひげ。あのおっさんどうして泣いているの?」
「エリザベートね。あれは嬉し泣きっての」
「へぇ、どうして。って痛いよ、白ひげぇ」
猫背の頭をぐりぐいと押さえつけるマーサ。
「子供がマセた口効くんじゃないの」
と説教するマーサも十二歳の少女だ。
「頼むぞ、そしてカノッサのお嬢さんたちも、宜しくお願いします」
「「「はい」」」
体力のある座員は飛び散る。でも、仕方ないけどノリ気じゃないテオたちは、ぼんやりと舞台に残っておる。
「なんなんだよ、これ」
「だから私反対したじゃない」
「いつ反対したよ。何時何分だよ」
「テオもだんごもやめなよ。あのダイってガキが舞台任されてるんだから、やってみようよ」
修道女の制服の胸ぐらを掴みあったテオとだんごを引き離す鼻高。
「ったく、これなら修道院に帰ったのがマシだよ」
「で、舎監に説教されんの? 奉仕の寄付が少ないとまた怒られるよ。〝神への感謝の気持ちが足りないからですよ。テオ〟。ってさ」
按手。つまり両手両指を重ねて祈るような仕草をするだんご。いつもテオやマーサたちは、舎監にこんな感じで説教されているようだ。
「だからってぇ」
やるしかない『猫の足音団』だった。
「ちぇ。これで薄謝がホントに薄謝だったらマジ怒るからね」
テオも諦めが悪い。
「ところで、小生は、もしものために控えていても宜しいかな?」
「あ、診たて間違いの医者、まだいたのけ?」
結構手厳しいパウロ。
「医者としての義務感故ですよ。もちろん、無料で芝居を見物しようなどの了見では御座いませんから。腹具合が急変した座員がいた場合の、もしも。ですよ」
ドスン。劇場主や座長の同意なしに端の席を陣取ったカルバン医師。
「では、開演まで時間がない。粗筋をカノッサのお嬢さんたちに説明したら、幕間単位でセリフや動きを確認。いいな」
「「はいもう、やってます!」」
「うん、頼もしいぞ」
汗を拭い、一旦襟を正してからダイと視線を合わせる。ズィロが跪いたのだ。
「急の急で悪いが、手直しを頼む」
「わかったよ。でもーーこの服ぅー」
半袖半ズボンがしっくりこないダイ。
「そこが大事なんじゃない。ダイ」
「うわぁ、またぁ」
またしてもダイの背後からだきついてまだ幼さの残る頬っぺたをすりすりするリリュ。
「いいこと、今日は一幕も二幕も省略するお芝居になるから、お客様をその分楽しませなきゃ、なのよ」
すりすりすり。
ダイが大人だったら腰砕けになるかリリュの色仕掛けで翻弄だろう。でも八歳のダイには、ちょっとだけ暑苦しい。
「どーしてこれが楽しいのさーー」
まだ子供なダイだった。
「色々と問題はあるが、取り敢えずは良し、とする」
不思議と年齢層が高いほどこの状況を受け入れていて、ダイや『猫の足音団』たちは若干燻っている。
「では、いくぞ」
幕が開いてしまう。
朝方騒がしかったけど、開幕するから問題はなかったんだなと呑気に席に着いた観客たちが待っている舞台が始まる。