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『大盗賊ダイ』  作者: 提灯屋
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突然現れた救世主


「カルバン医師せんせいと偶然お会いしました。治療して頂けるそうです」

「なんだ、カルロスか。お前、無事だったのか?」

 洗いざらしのシャツにほころびだらけのズボンの三十歳くらいの男子。


「カルバン? あのご高名な?」

「いや、高名などのお世辞は無用ですが、聞いた話しでは下痢などが非道いようですが」

 カルロスの後方から、健康の見本としては不合格な黒服の男性。肥満体の老紳士が、右手に杖、左手に旅にでも使うのか大きい鞄を担いでいる。


「とある閣下の往診の帰りでしてな。こちらの殿方が慌てているので如何したかと質問したのですけど」

「はい、容態が悪い座員はお医者様に移送しましたので」

「油断は禁物ですぞ。宜しいですかな。大人数が同時に下痢など、この劇場に問題があるのではないでしょうか。例えば井戸水などが汚れている可能性がある。診察は不要でも、この点を充分考慮するべきでしょうな」

「「「え?!」」」

 座員の身体を考えていたから、病原は考慮していなかった。


「よくよく調べ安全が確認されるまで劇場を閉鎖するべきでしょうな。さて、幸いに往診の帰り、少しですけど薬石を持参しておりますから、格安でお譲りしましょう」

「劇場が原因は賛成できません。診察なしの投薬も不要です」

 舞台袖から透き通る声がカルバンの演説を打ち切る。


「だれだ、このガキは?」

「身体は子供と同じなのは仕方ありませんけど」

「あれま、姉ちゃん」

「え、誰?」

 小さい女の子。でも、貴族とのコネもある社会的には名士であるカルバンの言質に反論できる人種は王都に数多人がいてもそんなに何人もいない。


「あのな、こちらの座員の見習いさんかな。ならば医者の言うことを聞きなさい」

「座員から」

 上手の舞台袖か、真っ白な衣装に、舞台用に目鼻立ちを際立たせるための明瞭な化粧を施された女の子がつかつかとカルバンに歩み寄る。


「座員から事情は既に聴取済みです。これは食あたりですけど、原因は出前の食品だと特定できます」

「なんだ、せっかくたくさんの名門貴族を患者に持つこの私の診立てに意見するのか?」

「まぁお怖い顔ですね。カルバン」

「んだと」

 乱暴に足を踏み鳴らすカルバン。その意識は純白の女の子に注がれて、こっそり接近するダイには向いていなかった。


「そろそろ地を暴露しますか。劇場に問題があるならば、ズィロ座長やガッペン劇場主たちが、そして私たちが無事なのはどう説明しますか?」

「な、なんだと」

「病院送りになっていなくても体調が優れない座員がいます。大声は控えなさい、カルバン」

「なんだ、こいつ。おい、座長」

 そろそろ純白の女の子の正体はバレバレだろう。リリュに強制的に役者として起用され、化粧品を塗りたくられていたペネ判事なのだ。


「大声が煩いと言いました。カ・ル・バ・ン・」

 今度はペネが足を踏み出す。もっとも、滑らせるようにだけど。


「は、高等判事!」

「正式に高等判事の任官は秋口ですけどね。小官は司法院判事として偶然居合わせたこの事件を聴取しております。食あたりは、仕込まれた差し入れの出前です。おわかりですね」

 さっきまで怒号を撒き散らしていた威勢はどこ。カルバンは膝や足をガクブルさせながら、ゆっくりと舞台から退場する。カルバンの杖の音は、未意味に響いて少し耳障りだった。


「あの、小官の役目は」

 まだ逃げたかったペネ。

「凄いわーーペネちゃん。昔取った杵柄が蘇らなぁーーい?」

「ません!」

「姉ちゃん」

 再登場の瞬間からペネの正体がわかっていながら傍観していた弟、パウロ。

「あなたまで舞台って、この子にセリフ覚えられるとお思いですか、ガッペン、ナピ、ズィロ」

「「「いや、それは」」」

 言葉に返したのはご指名受けた三人だけだ。でも、これは満場一致の心の叫びだろう。


「私、パウロが舞台に出るなら我慢する。じゃなきゃイヤ」

 するりと身体を滑らせてパウロの背後に回るソシア。


「あのなーーー、ここに来て」

「安心して座長。ワガママなお姫様には慣れているの」

 片目をつぶり、人差し指を突き上げるリリュ。


「そりゃ毎日鏡見てるからな」

 我が儘気まま、自由奔放はリリュも同じらしい。ズィロの精一杯の皮肉もどこ吹く風。


「ヒロインの恋人役はさすがに任せられないから、女主人公ヒロインの父親役。決まり」

 パンと両手を合わせるリリュ。


「でも、あの役は。その芝居の冒頭で死ぬから、俺の役だろ?」

「それじゃあソシアは?」

 イヤってボディランゲージだろうか。後ろからパウロをぎゅぎゅぎゅぅっと抱きしめるソシア。但し、どの程度パウロの拘束になっているのかは保証できない。


「なら、ダイ。貴方はどうする?」

「え、どうって」

 僅かな行動を除いてかなり放置民されていたダイ。


「そっか。脚本を手直しするんだね」

「はぁい正解。どっちにしてもマーサちゃんにはダイのプロンプターは必須だから。そちらも宜しくね」

「でも」

「マーサちゃんたち。心配しないで、貴女たちは充分歌も練習しているし、度胸だってある。でしょう」

 勝手決闘フェーデするんだから度胸は保証付きだ。


「じゃあ、座長配役を」

「だから、邪魔してるのはリリュ、お前だ。ま、いい!」


 配役決定。


 ヒロイン マーサ。ヒロインの恋人になる青年、ソシア。ヒロインの姉、テオ。ヒロインの父親、パウロ。ヒロインが敵役と狙う恋人の主人、ガッペン。

 その他の役は無事だった座員と残りの『猫の足音団』、だんごや鼻高たち。

 おまけに脚本補助とプロンプターがダイ。



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