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『大盗賊ダイ』  作者: 提灯屋
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貴方は盗むのがお仕事じゃなくて?


「お父上のご観覧は幾度か賜ったし、令嬢もご観覧頂きましたね」

 屈伸のように腰を折るガッペン。


「おっと、劇場主の手が遊んでいるな。ご令嬢、いささかか無作法ですが、治療しながらで宜しいですか?」

「はい。この劇場、懐かしいです。でも、さっきガッペンとかナピ、と?」

「令嬢は私たちの舞台しかご存知ではなかったですね。おい、苦しくても水を飲め」

 座員の唇にコップを近づけるガッペン。


「そうです。そして、気分が悪いなら吐きなさい。但し、吐瀉物専用の桶にですよ」

 簡便な医学の知識があるペネが指揮を採る。医者の許に運ぶまでの応急処置は、とても大事なのだ。


「ナピが私の本名。親しい間柄だとナピナピと呼ばれますの」

 一座の三本柱の一人、キクヌス夫人の弁。


「じゃあキクヌスもガスホークもお仕事の名前?」

「そうなりますね。お芝居の役名の延長くらいに解釈して頂けると幸いです」

 舞台に上がる場合はオオタカ(ガスホーク)で通している劇場主が答える。


「で、さぁリリュさん、おれどうするの? 何をしたらいいの?」

「ダイ君は今日上演予定だったお芝居の素案を書いたでしょ? だからダイ君にしか不可能なお仕事をしてもらうの」

「でもぉ」

「『大盗賊ダイ』。貴方は盗むのがお仕事じゃなくて?」

 ビシッと決めたような決めていないような。


「リリュさーん。なに、その両手の人差し指をつき出すポーズ。でも劇場でナニ盗むのさ。観客の懐のお財布?」

「それは小官が許しませんよ」

「あーーおりは財布、持ってね」

 万年金欠なパウロ。理由は唯一つ、大食いだ。


「「貴方は黙ってなさい」」

 姉のペネとリリュに怒られるパウロ。


「『大盗賊ダイ』貴方は盗みたくないの? これから劇場に訪れる観客たちを?」

「どうやってさ?」

「だから、この衣装なのよ。ショタコ商会はいい仕事してるわぁ」

「???」

「あのねぇ、リリュ。こんな事態でなにを……」

 ナピナピも膝を露出、肘もむき出しのダイの服装をチェック。


「悪くないわ、リリュ」

「でしょう、ナピナピ姐さん」

「貴女たちは劇場と一座の幹部でしょう、世迷言を」

 ペネもダイを見下ろしている、つもりだ。なにしろペネはミニサイズだから。


「どうしたことでしょう。小官もこの事態この場面ですらこの少年の衣装を許してしまいそうです」

「でしょう、でしょう」

「「「あーーー???」」」

 ダイとパウロ、そしてガッペンは何が何だかわからない。


「はい決定。ダイ君は読み上げ係」

「それはいいけどさ、お芝居の筋は皆覚えているから読み上げなんて」

「必要な人たちがいるからじゃない」

「わあ」

 寝転がっている座員の具合を診ていたマーサに抱きつくリリュ。


「ここに歌がお上手な、でもお芝居の筋は知らない人たちが」

「あ? あ、ああ!」

「あら透き通った美声」

「でんな、リリュ姐ちゃん。でも、こん娘の声はソシアよりはキレがね」

 意外と厳しいパウロ。


「そりゃ初舞台すらまだまだだもん、でもね、ほら」

「わ、わ、わぁ」

「う、カナーノ少年、覗きは不許可です」「なんで?」

 リリュがマーサの背面の衣服を絞る。すると、大人顔負けの起伏が鮮やかにカーブが激しい凹凸を描いたのだ。


「美少女、大人も羨むか・ら・だ・。そして『カノッサ女子就労修道院』の最右翼、『猫の足音団』として鍛えれらている声。これだけ揃った素人さんはいないわね」

「あああああああああ」

 顔や手。修道女の黒い服で隠されていない場所は真っ赤に染まるマーサ。


「ヘンな呪文みたいな声しないの。つまり、こう言うことだから、ダイは読み上げとかセリフを書いた石版を猫の足音団さんたちに掲示する役目を命じます」

「乱暴だが、ズィロが公演を中止しない以上、やむを得ない。ご令嬢、協力をしては頂けませぬか? 薄謝はお約束します」

「で、おれはなにも盗めないけど」

「だから、お姉さんが命ずるお仕事よ」

「盗み云々はさて置いて」

「置かないでよ」

「リリュ。セリフや動きを指示する、そうプロンプターが舞台に上がるなんて聞いたことがないぞ」

「甘いわ、オーナー」

「だから、どうして両方の人差し指をつき出すのさぁ。で、おれはなにも盗めないよ」

 ダイ、放置民。


「世の中の半分は男。じゃあもう半分は?」

「謎解きの時間じゃないだろ。ズィロが聞いたら頭の天辺から火ぃ吹くぞ」

「それはそれで芸ね。じゃなくて、ガッペン。実質初代の貴方が築き上げた『鷲と白鳥一座』の人気の源はなに?」

「そりゃ。ナピナピとリリュとソシアだが」

「ねーーー。ズィロ座長が聞いたら怒るよーー。俺の脚本はって」

「ダイに素案とかネタ貰って威張れないと思う」

 黙々と座員の看護をしていたソシアまで造反。


「で、お前たち三人の功績を認めるとして、プロンプターを舞台に晒すのは恥さらしだろ。あれはセリフやタイミングを覚えていない座員のための補助なんだから」

「ああーーペンの兄ちゃん〝いん〟を踏んで、んだから姉ちゃんなして、おりの足踏むだ」

「話しの腰を折るのは不許可です、パウロ」「へぇ」

 毎度毎度の姉弟の寸劇を傍観スルーして。


「世の中の半分は女なの、お・ん・な・だからこそ、このダイの衣装なのよ」

「えーーわけわかんないよーー」

「つまり、ペネ判事も、皆もこのダイの衣装は?」

「いいわね」「高得点でしょ、ゾクゾクするぅ」「風紀判事としてもギリギリのラインだと判断します」


 は? まるで周囲が一瞬で味方から敵軍に寝返られた気分なダイ。


「わかった、オーナー。それにお芝居の進行を妨げないためにも、あまりダイに大声を張り上げて欲しくないの。そのためには舞台下じゃなくて、舞台に上がってもらうべきだと」

「それが、ウケるんだな?」

 ドドン、ドドン。歩く樽と揶揄されるズィロが帰還した。


「迎えの馬車を手配した。御者には、それぞれ搬送する医者の住所は告知済みだ。運んでくれ」

「あ、アーちゃん」

 ズィロの背後にアーちゃんこと、グアンテレーテ・アーネスト夜警隊中尉が部下を引き連れて登場した。


「どう考えても悪質な事件だからな。それに、各員、疾病人を搬送せよ!」

「はい」

 勝気でも結局十代前半の少女たちで構成されている『猫の足音団』やなんとか倒れていない座員たちでは大量の半病人を移動させるのは困難だ。


「あ、力仕事なら」

「パウロ、貴方の怪力では病人搬送は乱暴すぎますから不許可です」

「へぇ」


「では、両判事。それに小さなお手伝いさん、後は我々が」

「為れど座員たちは病毒に犯された恐れがある。素手では触れぬように、でしたな。ペネ高等判事」

「はい、さすが小隊長殿」

 大きく頷く小柄なペネ。



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