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『大盗賊ダイ』  作者: 提灯屋
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ほんと裁判官なんだ


「あらあらズィロ座長、どうしたの、これ」

「んあ? リリュ姐ちゃん」

 パウロが大手をブンブンと左右に動かす。


「ねぇ、あの人」

「なに、白ひげは知ってるのか?」

「そりゃこの一座の花形だから。あの女性、『妖精の踊り子リリュ』さんだ」

「あらあら」

「「うわっ」」

 『猫の足音団』を敢えてすり抜けるように軽やかに移動するリリュ。


「こんな可愛らしい修道女様にまでお見知りおき頂くなんて嬉しいですわ」

「ほんと、風か妖精だ」

「リリュさんは、ご無事で?」

 症状が軽めだった座員。


「そうね。また助けられましたね」

「あ。姉ちゃん」

 パウロが呟く。リリュには姐ちゃん。マーサたちにはネエチャン。そして姉ちゃん。


「おお、これはペネ判事」

 パウロの実姉のペネ判事だった。

「パウロ判事」

 ペネの同伴者だったのか、夜警隊の事務方、カラスコもいる。


「うわっ」

 パウロには〝司法院のネズミ〟としてダイの正体がバレている。でも、ダイはまだパウロの姉にもその情報が筒抜けだとは未確認だった。ソシアと並んでパウロの影に隠れるダイ。


「あのさ」

 新キャラの登場に事態が把握できないテオたち。


「はははは。俺とリリュ姐ちゃん、それにズィロと、〝おんだい〟は知り合いだな」

「先代です、パウロ」

「あ? 姉ちゃん足を踏むと痛いぞ」

 全然痛そうじゃないパウロ。


「王都は久しぶりだったからペネ判事とお話ししてましたの」

「それで偶然、差し入れを食べないで」

「助かりました。踊り子がお腹抱えて舞台に上がるなんて恥辱ですからね」

「それはそうと」

 舞台に登るペネ。


「座長。もっと大量に水を飲ませなさい。それから、吐き気があるなら我慢しないで。そうそうそれから」

「嘔吐物の始末には細心の注意、かしら」

「ああ、ナピナピ姐ちゃん」

 舞台袖から、三十代くらい。気品ある美貌の女性が登場した。


先代歌姫キクヌス

「ペネ判事。相変わらず宝石のように小さくても輝いておられる」

 握手をする二人の大人。


「お元気でしたか?」

「御陰さまで。舞台は専らソシアが主導してますから」


「キクヌス? この一座の三本柱のキクヌス夫人?」

「白ひげ、詳しいんだね」

「ま、まあ」

 ペネと旧交を温めてから、『猫の足音団』に気配りするナピナピことキクヌス。


「ようこそ、ベルリナーのご令嬢」

 マーサの手を包んだキクヌス夫人。人気は若いソシアが優っているけど歌唱力と座員の統率では数段格上になる。


「は、はい」

「事態が事態ですから昔話しは、後回しですわね」

「ええ。では、水を」

「ああ。井戸なら俺が案内するへ」

「助かります、マルグレーテ嬢」

「い、いえ」

 今は貴族の身分じゃない。その言葉を言えなかったマーサは、パウロの後を追って水を運ぶ役目を果たす。


「さて、この少年は?」

 ペネは、弟のパウロからダイについて説明を受けている。夜警隊本部でチラ見もしている。それでも、正式に対面するのは初めてなんだ。


「あ、おれ」

「あんたマジに裁判官? じゃあこいつ大盗賊なんだってさ。逮捕しちゃいなよ」

「テオぉ」

「まあこの様な美童が大盗賊ですか?」

 くすくす。手の甲を口元に当てるペネ。


「笑わないでください。おれは正真正銘の」

 そこで、お決まりの宣言は封印される。ペネがダイの頬を撫でたのだ。


「ええっと、あの?」

 くすり、ではない。まるでおイタをする赤ちゃんを見守る母親の視線だったから、ダイは固まってしまった。


「そうですねぇ。でもまだまだ将来のある少年ですから情状酌量の余地はありそうですけど」

「んだよ、甘いんだな」

 両手を腰に当てて唾棄(ツバ吐き)か中指立てで判事を挑発しかねないテオだった。でも、ペネの囁きでテンションは急降下する。


「情状酌量は貴女にも適用しましてよ、フェーデの達人さん」

「な」

「白い手袋はお嬢様の専科ではありませんよ。剣タコや細かい傷を隠す役割も果たしますからね」

「あ、あぁぁ」

 修道女見習いに剣タコは不似合いなのだ。


「わかったよ」

「はい、それでは動けるヒトは動く。『猫の足音団』は劇場外で手配された馬車の到着を確認のため待機。到着次第運搬の補助。宜し?」

「行くよ」「あ、ああ」「ほんと裁判官なんだ」

 パウロに引率されて井戸に水汲みに向かったマーサ以外は舞台から降りた。



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