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『大盗賊ダイ』  作者: 提灯屋
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これって痴話喧嘩?


「あンな、ソシア。こんネエチャンたち。ネエチャンの一人は」

「貴女の姉じゃない!」

「あーーあー。パウロもマーちゃんも落ち着きなよ。ソシアお姉さんも」

「だからマーちゃん禁止だって!」

 びゅん。当てるつもりが無かったような最上段打ち。マーサの鞭は石畳を空打ちしただけ終わる。


「だから白ひげ。女の子、逃げてないじゃない」

「え? だって」

「あのねぇ」

 パウロに猛抗議していた女の子は、腕まくりに親指立てでもしかねない剣幕でマーサに迫った。


「貴女たち、『カノッサ勤労女子』のお子ちゃまでしょう。お姉さんはね、大人の会話をしているの。判ります?」

「そりゃ」

 テオを筆頭に『猫の足音団』は十代前半の少女たちで構成されている。


「そりはソシア。おめが若くてピチピチだかん、仕方ないべ」

 おかしな訛り混じりで、〝せくはら〟発言だ。


「い、やだ。パウロったら」

 効果。

 ソシアと呼ばれた大人の女の子はパウロの一言で大赤面。マーサを一喝した勢いも逃走してしまったのか、デレに突入しました。


「こんな、いくら本心でもダイとか子供たちも前で」

「んだな。でもホントだへ」

「やだ、もうぅ」

 パウロの酒樽より太い胸元に擦り寄ったソシア。


「だろ。白ひげ、あれってさぁ」

「ちわ、げんか?」

「なんだ、マーちゃん、勘違いしてたのかぁ」

「ええっと、その」

 散々乱れ打った鞭を所在無さそうに背後に隠したり。


「テオ」

「なんだ、つまんない」

「「テオ!」」


「あら、いやだ。お子ちゃまたちは、お姉さんとお兄さんを何だと思ったのかしら?」

「ソシお姉さん。なんだか赤ちゃんみたいだよ、パウロさんの胸に沈んだままお話しするなんて」

 ダイに注意されている。ソシア。

「ふん、だ」

 効果なし。


「あ、あの。ソシアさん?」

 自分のトンデモ勘違いを誤魔化したいマーサに、あるキーワードがヒットした。


「ソシア! まさか大陸随一の美貌の歌姫?」

「え? 『鷹と白鳥一座』の人気者?」

「ああ、マーちゃん、声大きいよ」

 ダイがシィーーと口元に指を添える。


「ははははは。そうだな、ソシアはうたひめだぞ。驚いたか?」

「パウロさん。ま、これだけ関われば仕方ないよね。パウロさんとソシアお姉さんは」

 ここで小イベント。


「知り合いなんだ」「恋人なのよ」


 ダイとソシアの声が重なって、でもハモらない。


「はははっは。どっちだ、ダイ」

「パウロ!」

 マーサや『猫の足音団』は放置。ソシアはひっくり返ると腰に拳骨を載せてプチ激怒。


「いつから私たち、恋人じゃななくなったの?」

「え? 逆じゃないの?」

「あんな超美人と野良熊みたいな判事が?」

「マーちゃん。熊は基本野良だよ」

「そんな問題じゃないから。まさかパウロ、判事の職権を悪用して、この綺麗な女と?」

「ねぇケンカするなら、ちゃんとケンカしなよ」

 パウロとソシアの大人の関係。これにマーサとダイ、高みの見物で挑発しているテオなどが適当に入り乱れてしまっている。


「だからね、いい、お子ちゃまさんたち」

「あ、じぶんから腕」

 マーサは正直目を見張った。大陸随一の美貌の歌姫の評判で名高いソシアは、没落する四年以上前、つまり子爵令嬢時代から噂は聞いていた。『鷹と白鳥一座』の公演も観覧した覚えがある。


「そうよ。だって私たち」

 サイズ的な無理に留まらない。貴族の子弟、いや貴族様ご本人からも求婚されている超絶的な美貌の人気歌手のソシアが、自分の意思でパウロの腕にからみついたのだ。


「あーーーーおれたち、ずっと」

 またも意思錯綜する。


「知り合いだな」「相思相愛なのよ」


「どっち?」

 これが火に油を注ぐ。


「パウロ!」

「だどんも、ソシアは〝にんきしょうばい〟だへ、恋人まずいべ」

「そりゃ、あんたじゃねぇ」

「テオぉ」

「違うもん」

 高速回転でいやいやをするソシア。


「私はパウロが大好きなんだから。人気とか関係ないんだからね」

「あ。そうけ?」

 黒熊が大きな目を開く。


「うん。そりなら俺も大好きだ」

 直球ど真ん中が投げ込まれた。


「もう、やだパウロっ」

 またもパウロの胸にほっこりして笑うソシア。



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