殺っちゃえーー
「あれ、ダイでしょ?」
「「ダイ?」」
戯れレベルでもみ合っていたテオと白ひげ、ことマーサが緊急停止。
「でも偉いデカ男と」
「あれ!」
マーサやテオの前方十メートル。一区離れた小路をダイと大男が連れ立って歩いている。それだけなら、マーサは見逃していただろう。テオに対して意図的に。
「真っ黒な大男とダイが歩いてる」
「ああ」
だんごが指差した先に、漆黒のガウンタイプの衣服を纏った巨体が歩いている。話題の主になっていたダイは、巨体の脇をとことこと従っている。
「ね。テオ、白ひげ」
「しっ」
だんごの唇を人差し指で封じるテオ。
「なんかヤバげだよ」
黒い巨体とダイに埋もれた体になっていたけど、女の子がいる。いや、正確にはバカでかい男の小脇に担がれている。
「ヤバ?」
『猫の足音団』総員が耳を澄ます。
「いや、離してよ。イヤなんだから」
「だめだよ」
「ばかっ。もうどうなっても知らないもん」
「はははははは。だめだな」
「離してよぉ」
「なんかさ、物語の巨人が、悪のさ」
以前、恐喝の常習犯が他人を悪呼ばわりしてます。
「女の子をラチってるって感じじゃね?」
「まさか。それ物語に浸りすぎ」
「でも、大男が女の子小脇に抱えてるなんてモロ誘拐じゃん、白ひげ」
「それに小走りしてるし」
「テオ、だからって町中で曲刀抜いちゃマズいよ」
「そ。これはね、自然に鞘から落ちたんだよ」
「だからぁ」
「これって金になりそうじゃん。ならなくても」
「ふっ。面白そうだよね」
「あんたたち」
現在のマーサではテオを筆頭に『猫の足音団』の暴走を止められそうにない。
「最近舎監の言いなりで、〝いい子〟にも飽きあきしてんだ」
「これは人助け。勝手決闘じゃないし」
「知らないからね」
マーサは腕組みして立ち止まった。
「離してよぉ」
「あきらめなよ」
「ダイ?」
マーサは目撃した。ダイが、真っ黒な塊を咎める意思がない事実を。女の子の拉致を救い出そうとしていない現実を。
「ダイ、貴方!」
腰紐に偽装している二条鞭を抜いて、構える。
「白ひげ」
「ふふぅん、ヤル気になった?」
「テオ。白ひげが、キレたら、それはそれで」
「ダイ!」
テオとだんごの間を粉砕するようにマーサは突進する。
「殺っちゃえーー」「テオぉ」