私の足は特別なんだから。減るの
アーネストはまだ父親一年目。実家には弟妹がいるけど、結構裕福だったからダイがミカを面倒をみるようなつきっきりではなかった。だから、アーネストは子供をよく知らないのだろう。それは独身未婚のズィロ座長も同じ。
「へへっ。〝迷っちゃった〟」
大盗賊を自称していてもダイは、まだ八歳の子供だ。劇場にはダイが隠れられる場所や道具が溢れているし、今日は巡業から帰還した劇団員の歓迎でやんやの大騒ぎをしている。
「どうしようかなぁ」
ダイの姿は劇場の大小の道具や施設、人ごみに紛れた。
大陸有数の人気劇団『鷲と白鳥一座』の王都凱旋帰還の翌日。
大歓声と爆発寸前まで膨らんだ人の波は、日常の交通に戻っている。
「あーあー。つまんねぇーー」
「テオ。この服でそれ、マズいよ」
前身真っ黒な服が連結している。
パウロやペネの法服、裁判官の黒じゃなくて、修道女の黒だ。見習いだし、時々勝手にフェーデする修道女なんだけど。
「だってさ、今時『神の御心のままに』とか『喜びを知りなさい』なんて歌、流行らないに決まってろ?」
「それーーヤバいよ」
「痛いよ猫背」
昨日大泣きしていた猫背、ことエリスがテオに肘を当てる。ダメージのある強さじゃない、いつもの元気な猫背に戻った証拠だ。
「舎監が聞いたら」
持っていない柳の鞭を弄ぶ舎監の癖をマネする猫背。
「テオさん、その物言いは『カノッサ』の女子として相応しい言葉でしょうか、だよ」
「こいつーー」
「でもねぇ舎監の指示通りの歌だと」
テオは白ひげの仇名で通っているマーサに気を配る。
「ビタ銭五枚。私たちのパン代にもならないね」
「なんとか稼げればなぁ。わたしだってどうせ歌うならやんやと拍手欲しいし」
「あれ?」
だんごのツッコミ。
「テオって歌の練習だってマジじゃなかったし」
「あのさ」
「に、睨まないでよテオ」
「マーサみたいに舞台に上がれるくらい上手なのが隣にいて頑張る気力沸く?」
「別に、わたしのせい?」
テオに預けると〝減ってしまう〟から小銭をポケットに隠すマーサ。
「そうだ」
「だんご、不許可」
「白ひげがね、ヒラヒラで薄手のドレス着て。しかも片足サッと顕して」
「うんうん。白ひげスタイルいいもんね」
「や、やめてよ恥ずかしい」
「おや、悪くないんじゃね」
白ひげの首に手を回すテオ。
「どこかで艶っぽい歌ご披露してさ、見初められて金持ちの後妻になるのも悪くねんじゃね?」
「後妻限定? ってかイヤだからね。乙女の肌晒すなんて」
「いいじゃない」
「ひゃっ」
足首まで包む修道女の裾を摘んでいるだんご。
「羨ましいなぁ。白ひげって綺麗だもんね。足くらい見せても減らないんじゃ」
「減るの! 私の足は特別なんだから。減るの」
さっきまで白かったマーサの足、顔面は紅色に変化した。
「最近じゃ胸の部分はブラウスを出してるメイド服が人気らしいから、着たらぁ。まーさぁお嬢様ぁ。あの小憎たらしいダイのお陰で貴族様復帰間近なんだろぉ」
「首領が仲間の輪乱すイヤミ言わないでよ。もうダイなんて会うわけないじゃない。猫の足音団時代遅れの賛美歌歌って忙しいし、あっちは大盗賊だから」
「く・わ・し・い・ねぇ・」
「なんで屈んで見上げてるの?」
「だってさぁ。もう時期貴族様になるお嬢様のお胸を拝見するのも、これが最期かもじゃね?」
「あのね、テオ」
「ねぇねぇ」
「っさいね、だんご」
「そうでしょ。貴女がイタズラするから話しがコジレ、た」
ケンカってんじゃなくて、他愛ないお喋り中の『猫の足音団』の目前にイベントキャラが放り込まれた。