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『大盗賊ダイ』  作者: 提灯屋
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立ち入り禁止


「あ、あの」

 不審がられても当然だ。アーちゃん、ことグアンテレーテ・アーネスト中尉はお菓子売りの仮装をしている。


「夜警隊将校、グアンテレーテ中尉である。捜査のため通過吟味致す。良いな」

 懐から身分証になる護符。護符に匹敵する夜警隊専用の意匠の刀の柄を提示した。


「夜警隊、もしかしたら百人斬りのグアンテレーテ?」

「妙な噂の詮議は後日願おう。まかり通る」

 夜警隊の身分証だけでも劇場の扉は通過できた。でも、昔の功績が一切の障害物を排除してくれる。


「あの、稽古中ですので大騒ぎは」

「それは相手の出方による。童子に危険が及ぶやも知れず」

「ど? うじ?」

 黒ずくめの酒樽男に手を曳かれたダイのことだ。


「なかなか良い造りであるな」

 即席手抜きの劇場ではない。だからと言って犯罪に無関係とは断定できない。


「あの、お菓子売りさん」

 劇場正面の守衛との交渉を聞いていなかったらしい男、劇団員だろうか。


「さきほど小さな子供を見かけなんだか?」

「子供なら何人か在籍していますけど」

「劇団員に非ず。快活な男児である」

「えーっ。『鷲と白鳥一座(ウチ)は見習いは女の子ばかりで」

「男の子なら、さっき控え室に向かって歩いていたぜ」

 別の団員がフォローする。


「案内致せ。余は夜警隊将校、本行動は捜査の一環である」

「あ、あああ?」


 ダイはまだこの劇場にいるのだろうか。それは控え室が正しいのか。

「どこだあるか」「そ、それは」


 この劇場では裏手が控え室になっていた。


 『立ち入り禁止』


 控え室も大小区分けされている。男女や役柄、ランクづけで別々なのは当然だろう。


「他は無人」

「あれぇ誰かいるのかロウソク灯いてる」

「知らぬ。入るぞ」

 さっき身分証の一つとして提示した小刀の柄を握りながらアーネストはドアノブを掴む。


「ダイ」

 ダイが、いた。いつもグアンテレーテ家、ダイの言葉だとアーちゃん家でしているように椅子に座っている。


「座長」

「座長? 劇団の、であるか?」

 ダイの無事の確認で気が緩んでいたのか。あの黒い酒樽が膝を突き合わせて座っている情景を見落としていたアーネスト。


「なんだ、この。夜警隊の隊長さんではないですか」

「その突然丁寧な物言いは、まさか」

「お互い何度も顔を合せてるでしょう」

 黒ずくめの巨体は目だけ露出させていたフードを外す。


「ズィロ座長とダイ?」

 興行などで劇団座長と夜警隊は接触の多い関係にあった。アーネストとズィロ座長は知り合いだったのだな。


「え、ズィロさんて偉い人だったの?」

「ダイ知らなんだか」

「うん」

「あーー! あーー! そのグアン中尉」

「グアンじゃないよ、アーちゃんだよ」

「ダイ、ちょっと待ちなさい。座長、実はこの童子は偶然小官と既知でな。座長とは如何な関係であらせられるか?」「それは、おい!」

 ずかずか劇場の奥に侵入するアーネストにくっついていた団員を怒鳴るズィロ。


「興業関係の問題だ。さがってろ」

「ズィロ、厳しい言い方だよ」

 アーネストではなく、ダイが注文を入れる。


「そうか、そうだな」

 態度一変。

「まぁ、なんだ。ゆっくりお茶でも持って来い。それから入室するときはノックと許可を取れ」

「アーちゃんはしなかったよね。あ、夜警隊のお仕事だからいいんだ」

「そうそう、いいんだよ。ダイ君」

「ダイ君?」

 アーネストが普段呼び捨てにしているダイをバカっ丁寧に呼ぶ座長。


「卒爾ながら」

 話割り込んで悪いけどさの意味だ。


「ズィロ殿は敬愛すべき国王陛下の御前で」

 また拝礼。でも今回はズィロとダイから視線はハズしていない。


「上演せし一級の劇団であるが、如何にこの八歳の少年と」

「「うーん」」

 ダイとズィロ。軽重の差はあるけど、なんと回答すべきなのか悩んでいるらしい。


「ダイ。正直に申せ」

「でも」

「座長。この少年を如何に言い含めたのです?」

「それは」


 それなりに迷ってためらってから黒い大きめのファイルをアーネストに差し出す。


「これは。やや?」


 昨日アーネストが目撃して、安眠を妨げたダイのメモではないですか。


「『とある屋敷に住み込んでいる下働きの少女は、実は戦災で親と離れ離れになった娘

  彼女の正体を知らない屋敷の主人は娘、名前未定、をコキ使う』」



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