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『大盗賊ダイ』  作者: 提灯屋
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鷹と白鳥一座


「はい、これです」

 ダイは黒いファイルを黒い巨体に手渡した。黒一色の塊から白い手が伸びる。男──だと思うが──の癖に白手袋を日常的にハメている人種らしい。

「ん」

 ダイのファイルを受け取る黒巨体。


「なんであるか、あのファイルは?」

 職業柄、アーネストは初歩的な読唇術を習得している。


「約束の」

 巨体の掌から光る小さな物体が溢れる。

「確認しなくていいの」

「お前の仕事は俺が認めている。また頼むからな」

「嬉しいな」

「そうだ、寄って行くか? お前には俺の後継者になって欲しいからな」

「うん。〝こうけいしゃ〟ってわかんないけど、寄るよ」

「来い」

 なんの授受をしたのだろう。ダイと黒巨体は今が初対面ではないようなのだが。


「不味い、ダイ。ついていってはならぬ」

 表裏どちらの商売も放置してアーネストはダイを静止しようとした。


「ソ・シ・ア・ー!」「大陸随一の美貌の歌姫ぇーー!」

「キクヌスお姉さまぁーー!」「私も癒してぇーー!」


 アーネストの呼び止めは大歓声にかき消され、ヒトの壁は絶海の荒波のように夜警隊将校と不審者と同行する少年を隔てた。


「なんと」


 失策。判断の過ち。

 黒塊の目的を掴もうとダイとの会話を盗み聞きしようとした試みが裏目になった。アーネストとダイと不審な巨体の距離はどんどんと開いてゆく。


「ダイ!」

「あ、あれ?」


 ついに呟きから大音量で叫んでいた。

「ダイ。早足だ」

 黒い酒樽に手足が生えたような肥満体は、強引に八歳の少年を牽引する。それは人目を嫌いアーネストから逃れたい思いのようにも感じた。


「人ごみが途絶える」

 追いつけるきっかけになるか、逆に逃走の手助けになってしまうのか。


「ここの方角は」

 ダイと酒樽は裏路地を小走りで通過してゆく。普通の役人なら剣呑、つまりヤバげで足を踏み込まない地区だかど、夜警隊には庭先と同じ勝手知ったる職場。構わず追跡をする。


「この先は」

 そしてそダイと酒樽の最終到達点ゴールの幾つかの候補をアーネストは連想する。


「この地区は歓楽街ではないか」

 美酒美女美少女が愛妻カトリーヌや可愛い一粒種パーシバルに負けず劣らず大好きなアーネストにとっては二重の庭の地区。


「あれは、まさか」

 歓楽街は酒場や絵札会場だけが存在しているわけじゃない。飲食店に大小の芝居小屋などもある。もう小屋とは形容できないほど重厚な構造を誇るある劇団の常設会場。


「この劇場は『鷹と白鳥一座』の本拠地ではないか」

 正規の交通誘導にプラスしてアーネストの指揮下夜警隊の覆面部隊を出動させた根源。『鷹と白鳥一座』の所有劇場だ。


「劇団と如何なる関係を持つのだ、ダイ」

 目的地が判明すればわざわざ全速力で追跡追尾する必要はない。ダイと酒樽の姿が通用口らしいけど堅牢な鉄扉を通過して劇場に吸収され消えた事実をはっきりと見届けた。



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