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『大盗賊ダイ』  作者: 提灯屋
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まるで本物の菓子売りですね


「へぇ。まるで本物の菓子売りですね」

「まるでに非ず。営業許可登録も終了した正規の業者であるぞ」

 立ったままの姿勢で物売りするための道具。俗に立ち売り箱をたずさえたアーネスト。


「しかし」

「菓子や飴は本物ですけど、それ少なくありませんか」

「如何にも」

「ああ」

 王都八大街道を閉塞させるほどの見物人を見込んだ物売りにしては商品が貧弱だ。


「推察の通りであろうよ」

 内偵や偵察の変装仮装の小道具を減らした原因がなんであるか、確認する必要があるだろうか。いや、ゼッタイない。


「販売が目的じゃないですから。ねぇ隊長」

「ああ。あれであの判事は役に立つから」

 変装用の小道具の菓子類を食べたのはもちろんパウロ判事である。


「しかし、隊長はいいですよ。小官は布地売りですよ。売れますかね?」

「いい具合な胡散臭さであるぞ、ブッカー」

「だが今日に限ってあの、ダイが不在だとはな」

 〝これ〟に関しては一転して沈黙するアーちゃん。


「あの少年かミカがいれば見物人親子の役が容易なんだが」

「肝心のダイは?」

「は。惜しいことに寸前に所要だと本部から姿を」

「行き先は。いや度々幼き子供を危険に晒すは戦士の恥辱」

「了解致しました。ところで隊長、なぜ酔っ払いの通行人の役はないのですか?」

「そりゃ」

 役の取り合いで出動が遅れるからに決まっている。


「さて、我が小隊の諸君。仮装の出来栄えでなく、〝戦果〟を期待しておるぞ」

 菓子売りが仮装集団に訓示を与えている。


「「はい」」

「うむ」


 大楊に頷いたアーネストは念のためダメ押しをする。

「もちろん、『何事もないこと』こそ理想の戦果である。が、残念ながら理想と現実はダイヤムとオークの国境ほど乖離している。故に我々は最小限の被害と最悪の事件を防ぐために全力を注ぐ」


 本当ならば磨かれた軍靴を鳴らしたいだろう。

「では諸君」

 アーネストばかりの演説では不公平なので、ブッカー。今は着衣がツギハギだらけの布地売りが号令一喝。

「諸君の普段の練習の成果を見せよ。以上!」


 小隊総員敬礼。

「「はい! 総員持ち場に散ります!」


 菓子売りが、布地売りが、胡散臭い大道芸人が街道口に向かって突進する。



「うっら、道を塞ぐな。この田舎もん」

ザネリー伍長(あんた)だって王都出身じゃないでしょ」

「うっせーーー。もうかれこれ五年王都に住んでりゃ俺だって都人だっつーーの」

 バルナ王国どころか、大陸でも指折りな人気歌劇団が巡業から帰還する。

 カリスマ的人気の歌姫や踊り子をひと目拝もうと大量の見物人で王都八大エスカラ街道は大渋滞に陥っていた。


「だから、立ち止まるなっつーーの」

「ザネリー。棒を振り回すのは逆効果だぞ。棒を避けるほんの僅かな隙間に」

「また別の見物人だ」

 ギリギリと歯ぎしりを唸らせながら騎乗で交通整理に当たる夜警隊員は、ひたすら悪戦苦闘を強いられている。


「おい、八大街道ここは出店禁止だ。移動しろ」

「あのね、ボク。君の背丈じゃ劇団員は見えないよ」

 無法な大人には強行。一応善意の弱者は丁寧に。同じ軍人のはずだけど、敵兵来襲がなければ駐屯地で固まっていれば事足りる王国軍人と夜警隊員は、これだけでも次元が違う。


「ひーっ、どうしてこんなに人が沸くぅ」

「グラン伍長に聞いたらどうです。あいつ、劇団には詳しいらしいですよ」

 グラン伍長。お忘れだろうけど、アーちゃんの家で恋ばな相談にやって来た夜警隊員さんのことだ。


「そ言や、そのグランはどうした? 見かけないが」

「所属小隊が違いますからね。あいつのー今日の配置はぁ?」

 人垣が、不用意に左にブレた。


「うっらぁ! だから固まるなっつーーの! 張った綱からハミ出るな!」

「俺も仮装で人ごみに紛れた方がよかったな」

 いつの世も勤労者には厳しい。



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