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『大盗賊ダイ』  作者: 提灯屋
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かくれんぼう



 ウマで小一時間。アーネストの腕前なら半時間で王都からグアンテレーテ家に到着する。わずかな時間だけど、不思議と過疎っている雑木林の海に漂う小島が、アーちゃん家だ。



「さんじゅーーご。さんじゅうろーーーく」


 当直などの深夜の勤務がある夜警隊の小隊長に任命されているアーネストだから必ずしも毎日定時に帰宅はしていない。今日はタマタマお昼前にウマを走らせた。


「やはり〝お前も〟時に全力疾走が好いか」

「ぷるる」


 手綱から跳ね返る反応が素早い。万事脈打つ駆動で四肢を運ぶ愛馬に、額が光るアーネストもつい顔がほころぶ。


 不健全な塊を不完全燃焼で始末しただけに疾走感が健康的に感じる昼下がり。まだ発音が曖昧で幼い声が勤務を終了させたアーネストを出迎えた。


「まだだよーー」


「ミカ?」

 グアンテレーテ家とは〝お隣〟のカナーノ家のミカ。

 奇しき縁とかでアーネストとミカ、その兄のダイは絡んで解けないほど深い関係だ。


「さんじゅう」

 三十八が言えないらしい。

 ミカが数を数えている声から、カナーノ兄妹が隠れんぼうしているのは予想していた。


「三十八だ、ミカ」


「さんじゅう……はち」


 どうも隠れんぼうに大人、アーネストが割り込むのは余計だったらしい。それはいいのだけど。


「ミカ」

「ミカはねーーー。いないの」

「いない?」


「だって隠れんぼうだもん、アーちゃん」

「ダイ、であるか」


 ミカの兄、ダイ。アーネストにとっては臨月の妻カトリーヌをハーピィの襲撃から救い、第一子パーシバルを取り上げた恩人でもある。そして。


「アーちゃん、おれ、いま〝ミカを探すから、黙っててね〟」

「しかし」


 隠れんぼうに興じた記憶が、実はアーネストにはない。年長の兄姉はもう家業に従事したり習い事をしていた。下の子も、子守のメイドたちが抱いていた。アーちゃん、ことアーネストはそこそこお坊ちゃんだったのだ。


「探している気配は、ないのだが」

「だからさ。さんじゅうくーーー」

「勘定は続いていたか」


 確か、隠れんぼうは適度な間を置いて捜索者が逃げた仲間を追跡する遊戯だった。皮肉にも幼少期、件の遊びを実施しなかったアーネストの業務が夜警隊。犯罪者を追い掛ける任務なのだ。


「そうだよ。さんじゅうーーー?」

「〝しじゅう〟だ、ダイ」


「アーちゃん」

 ミカの声はくぐもっている。それもそうだろう。

「じゃましちゃいけないの」

「そうだよ、アーちゃん。それにさんじゅうくの次は、〝よんじゅう〟だよ」


 年齢差のある者同士の会話は、それなりに難しい。


「左様であるか。ではミカ、何故なにゆえ穀物袋を被っているのだ?」

「これーー? だってかくれんぼうだもん」

「なん、と」


 隠れている。そんな遊びくらいはさすがに知っている。でも、ミカが主張している隠れ、つまり存在を消す工作は、隠れんぼうを追跡する本職としては不合格だ。


「ミカは、どこにかくれたのかなーー。よんじゅーーいーーち」

 ミカの身長だったら、穀物袋に全身を預けられるだろう。でも、しかし、待ってくれ。


「ミカ、その、つまりだな」

 ミカは上半身だけ袋に突っ込んでいる。つまり腰から下、丸い尻や足は丸見えだ。


「よんじゅうーーにーー」

「ダイ」


 一方兄のダイは、グアンテレーテ家の農園の柵に寄りかかっている。どう割りましても真剣に隠れんぼうではなさそうだ。


「ダイ」

 ミカは五歳。ダイは八歳で、本気ならどちらが追っ手でも逃走者でもダイの圧勝には違いない。


「よんじゅうにーー」

 ダイは柵に寄りかかりながら、真剣に対面している。ミカの追跡ではなくて、白い物。あれは紙とペンではないだろうか。


「ダイ、ミカの所在は知っているのか?」

「うーーん。さがしてるよーー。でも五十まで数えてからねーー」


 目と鼻の先に隠れたつもりの丸いミカが存在している。


「よんじゅうーーさーーーん」

「で、あるか」


 騎乗の人アーネスト。柵に寄りかかった緊張感がゼロなダイ。隠れたつもりなのか疑わしいミカ。

 陸の孤島になっていたグアンテレーテの庭は、『三百諸侯物語』のような異世界の雰囲気に支配されていた。



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