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『大盗賊ダイ』  作者: 提灯屋
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三百諸侯物語




 珍しくもない、どこにでもある原始的な神話だ。


 まず、バルナで『十二小皇帝物語』が成立した。もう何時誰が編纂したのか、口述だったのかも不確定な古典中の古典だ。史実と勘違いしてはイケない。


 十二小皇帝の部下のサイドストーリだったり、後世や小領主たちの物語を吸収拡大したのが、諸説あるけど『三百諸侯物語』として定着。

 その三百諸侯の中で席順はかなりの下位、ギャラル候の関係者がダイになる。

 ギャラルも小皇帝の部下だったり将軍だったり小王だったりバージョンや編纂年代でバラバラ。だからダイも盗賊だったりギャラルの部下だったり、動物の版もあって大忙しだ。


 でも『十二小皇帝物語』の大雑把で教訓的な堅苦しさを補填したのが『三百諸侯物語』だと言える。だから人気知名度どちらも『三百諸侯』の完勝で、その『三百諸侯』は今風に表現するとスピンオフの『ダイ本』に圧倒されている。


 グアンテレーテ家にも、ダイ本の代表作『大盗賊ダイ』しか蔵書が保管さていなかった。もっともその『大盗賊ダイ』をグアンテレーテ家非嫡子のアーネストは、開いた記憶がない。


「しかし、幼少期でも侮れぬ」


 本来私語厳禁の場所、ここはグアンテレーテ・アーネストが所属する夜警隊の大隊本部。その取調室の一角に陣取っている。


「さっさと決めなよ、おっさん」

 目の前に、首に手首、腰紐に足枷と厳重に拘束されている容疑者がアーネストを挑発するように呟く。


「盗み、恐喝、放火、婦女の侮蔑、破廉恥行為に強姦の疑い、徒党を組んでの騒乱、狂言を含む各種の詐欺、過度な動物の虐待」

「強姦はな、ちゃんと実行してるよ。あれは先月の」

「黙れ、胴とその汚い首を泣き別れしてもらいたいか」


 要は斬り殺す脅し。でも効果はないようだ。


「違法賭博に不認可の売買春、お前」

「は。偽造硬貨は元手がいるから、あれだけはダメだったけどな」


 取り調べで、これだけ自発的に自白するのは決まって年少者だ。そして、残念だけど、ほとんどが狂言でも誇張でもなく実行犯である事実が平民将校をじわじわと苦しめる。


「貴殿、高等法院に送られる意味を知っておるか」

「へっ。〝きでん〟なんて言われるとは、こりゃ盗人の誉だな。ああ、知ってるさ。死刑になるんだろ」

「お前、まだ十歳だろ。少しは怖がったり自分の行いを恥じ」

 単純な挑発に翻弄される取り調べ任務の隊員。これより格段の侮蔑でもカラスコなら平然とペンを走らせるだろう。

「詮無き事。私語は控えよ」


 貴族ではないけど名門の出身のアーネストは物の言い方が古臭い。


「では、確認する。仮容疑者番号、八三五八七を高等法院に送致する。以上」


 犯罪の見本のような経歴。それ自体は珍しくもないが、アーネストだけではなく夜警隊員の唇を真っ白にさせるのは容疑者が十歳の少年である事実のせいだ。


「あーあ。死刑ってのも悪くないけど、夜警隊何人か道連れで斬死ってオチもあったけどなぁ。しゃーないか」

「このクソがきぃ」

「移送」

「はっは。いいねぇ、いそう、だとよぉ」


 恐慌や命乞いではない。明らかに大人を見下した幼年の犯罪者の声が、なかなかアーネストの耳から離れない。

「あやつの親が如何に。ふっこれこそ愚の骨頂」


 親がいない、捨てられたから盗みを犯し、それがエスカレートした。政治犯や高位の官吏に適用される収賄罪と偽造硬貨以外の犯罪の見本。たった十歳の少年の軌跡としては無残ではないだろうか。


 もし親分や兄貴分の存在があれば、抑止力に……。


「交わりと躾が、肝要であるか」


 たった今、幼年者を死刑相当と判断したから高等法院に送致した。


「たったの十歳で、王都のならず者の大半を凌駕する罪に染まるなど許されるものではない、断じてだ」


 アーネストをアーちゃんと呼び親しむダイは九歳。そしてアーネストの本業は、十歳の童子を死刑にする手続きを淡々と遂行する夜警隊なんだ。


「後一年で、ダイも十歳」


 ミカが五歳なのは保留するアーネストだった。




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