責任者は死刑だ。即執行
「ねぇパウロさん」
鼻を抑えながら接近するダイ。
「ん? んだ、ダイ」
あ、少し歯が見えた。もしかしたらパウロは、誰かが答えを披露するのを待望していたのかも。それが、誰でもよくって偶々今回ダイの役目になったようで。
「この人達と住処と臭い工房ってドコっにあったの?」
「この子はさっき自分で入ったじゃないか」
当たり前の反論を敢えて無視する。
「んーーー。ここだな」
足元を指差すパウロ。
「違うよ、地下だよね」
「おーーーそだな」
「ねぇ、地下も王都なの?」
「さてなぁ。ニンゲン、ヒューマン族は穴に住まねからな」
「そうだよね」
うんうん。ダイはワザと大声を貼りながら臭いパウロに接近する。嫌いな人の意味じゃないけど、鼻摘みを忘れるとタイヘンだ。
「神話でもあったよね。神様同士の話し合いで、地上はニンゲン、空は鳥と竜と飛翔族、海は海神族の境界線になったって」
「この場で神話の『三百諸侯物語』を今語ってどうすんだ、子供」
どうやらダイの知名度は夜警隊の半分くらいだ。
「でもさ、バルナ王様が〝地下も支配する〟って宣言してないし、なら、この居住空間は王都じゃない、でしょ?」
「そ、そんな」
「へ理屈だ!」
「オークの肩を持つのか」
いきり立つ隊員たち。これはダイが子供でも容赦ないほどの激怒ぶりだ。
「待て」
バシン。一回パウロが手を叩いただけで衝撃波になる。あまりの風圧空気圧に武器を落としそうな隊員がいたほどのパンチ力だった。
「待な。聞き捨てなんね。判事、裁判官はな、理屈で動いてんだ。好き嫌いだけじゃない、ヒトの蓄積と約束の記録が理屈だ」
「……」
ゆっーーくりと大地に立つパウロ。
「おめらな、〝既得権〟知ってるけ? こん巣。違げぇな。オークの居住区はもう何年もここにある。住んでる数もたくさんだ。そして大勢のオークが王都に根を張っている。こんことを忘れちゃなんね」
「ですが」
「それにトロ肉のお客だ。くどいけどおめら、公爵家と渡り合う覚悟はあんのけ?」
槍を構え剣を抜き放ったまま、靴紐を眺めている猛者の群れ。
「じゃあ、こうしよう」
老オークの肩を軽く撫でる。もちろん、老オークはパウロの怪力で地面に突っ伏していたけど。
老オークなど、数人から上着を鹵獲したパウロ。
「責任者は死刑だ。即執行だな」
「「「えええ」」」
既得権を口上して急降下の厳罰。そりゃないだろう、パウロ。
「そんな約束が」
「母ちゃん」
オーク族から悲鳴が起こる。
「んじゃ、早速始めっぞ。まず、〝身体を裂く〟」
「ひゃっ」
これから犠牲者の断末魔の叫びなどが地下通路に鳴り響く予定だ。
「それ、は?」「は?」
でも、間抜けな声が数人分。
パウロはまず腰に挿していた短剣を抜いた。そして裂いたのは老オークの衣服。パウロの足元には細切れになったボロ布がとぐろを巻くだけ。
「んでだな。ほれ」
再利用も不可能なほどズタズタに適当に刻まれた上着を地面にバラ撒いた。
「しほーーいんの判事、パウロが緊急処理すべ、じゃなくて執行する。不法に王都に潜入した不肖のオークを夜警隊と司法院騎士団の奮闘で撃退、抵抗者は斬首」
くいくいっ。まだ消火していなかった松明を要求する。
「投降を拒否した残党は火刑」
細切れの紐に着火。ブスブスと燻り、やがて黒い煙になる。
「で、だな。おめら」
〝素直に投降したので処刑を免れた〟オークたちに振り返る。
「これから、姉ちゃんに住民登録証書と商業権を発給してもらえ。ちゃんと商売して、儲けたら税金とか払うだぞ。ああ、後これからは堂々と商売できっから、ぼろ値っつーーか、その」
「〝適正価格〟です、判事」
「おーーー」
カラスコか誰かがいないと絞まらないパウロだった。