でてこい、オーク
「ほれ」
パウロの声が微妙に籠る。
「皆もつけるだ。半分こ終わったら、残りもだぞ」
オークの匂いは相当ヤバいらしい。手練の夜警隊員が争うように簡易マスクを装着完了。もちろん、ダイも従う。
「じゃあ、オークの巣、探すだな」
俺に続けとスコップを掲げるパウロ。
「まさか判事、この付近を虱潰しに掘るのですか?」
「ねぇパウロさん。オークの巣が正しいなら、危ないよ。おれが見た時だって荷馬車が通れる穴を隠していたんだから」
パウロの裾を握るダイ。
「んなら、どするだ?」
「チッ。オークの〝ブタどもめ〟」
とある隊員が忌々しそうに木の幹を叩く。そのパンチ力で揺れる枝葉。
「ねぇ、パウロさん」
「んん? 巣があるかや?」
本人は手当たり次第掘るぞオーラ全開なパウロ。脳筋判事であるな。
「もう一度、この木を叩いて、誰でもいいから。あ、折らないでね」
そう言いながら木の幹に抱きつくダイ。
「こうけ?」
わっさわっさ。パウロが掌底で幹を叩くと周囲の小鳥は逃げ、大量の葉や枝が落ちた。
「木って、音とかが伝わるんだ。そうだ、昨日おれが寄りかかっていた柵をミカが叩いたらスゴい響いたんだ。それだ!」
「ダイ? どしただ?」
閃いたダイは、パウロに接近。
「そうだ。木の棒だよ。棒、ないかな?」
「棒?」「ぼう?」「棒?」
棒の伝言ゲームがちょっと開始された。
「ほら、棒だぞ」
長さ二十センチほどの棒が提供された。
「この棒を」
棒を地面に立てて、天空側に耳を当てる。
「……。ここじゃない」
移動、また棒を立てる。
「なにしてるだ、ダイ」
「あのね、この棒を立てて耳を当てると、音が聞こえるんだ。それに振動も」
「おいおい、冗談は止せ、小僧」
「冗談じゃないし、おれ小僧じゃない」
「うーーん、そうだな。こいつは〝はんじ〟をダマした賢い子だぞ」
「ありがとう」
ネズミと言わなくて。
「でも、ね。今おれが背中を向けている馬車。馬車の車輪に誰か立てかけたでしょ?」
「ウソもほどほど、いっ!」
ダイの発言を疑った隊員たちは、馬車に若い隊員が長槍を立てた光景を目撃した。
「軍隊でもメガホンあるでしょ、あれの逆だよ。音を集めるんだ」
「まさか?」
「まさかじゃね。やってみろ」
バキッ。一本木の枝を手折りしたパウロが地面にダイブする。
「あ、端っこは真っ直ぐにした方がいいと思うよ。それからあまり強く耳に当てると痛いよ」
「しかし」
一人二人、歴戦の闘士の集団な夜警隊が、地面に棒を立ててオークの巣を探る作戦を展開している、なかなかない光景だろう。
「……」「……」「?」
「パウロさん」
ダイが横臥のポーズのままパウロを手招きする。
ここです。
地面を指差して正座体制になるダイ。
「ン?」
斜めに入口がある。そんな意味でダイは腕を傾斜させた。
「そこ、だな?」
パウロが立ち上がったのが再集結の報せになった。ある隊員は抜刀、別の隊員は長槍を構え、魔術が使えそうな隊員は呪文書を胸にする。
「じゃ、掘るだ」
「え、ワナとか大丈夫なの?」
「掘るだ」
パウロが脳筋判事だと忘れていたダイや夜警隊員たちだった。
「ははははは。オークでてこい。俺は裁判官のパウロだ」
穴を掘るならサクサク。もしくはザクザクが適切な効果音だろう。
でも、そこはパウロ。
「はははは。でてこい、オーク」
ドカドカドン。
炭鉱夫なら三人前くらいの高速でデカ穴が瞬く間に口を開く。