オークって
この作品では、オーク族は人種程度の差で、ブタ男の形態ではない設定です。
ご了承ください。
「あ~あ~」
咳払いを繰り返してから、一気呵成に口上を披露するパウロ。小隊総員が集結した第八小隊が、パウロの命令を待つ。
「こん作戦の主導は第八小隊。んだども、八小隊の小隊長ダルバール二名とトーマスを併せて、『司法院騎士団』に任命だ」
「『司法院騎士団』!」
第十一小隊長トーマス、第八小隊長ダルバールのテンションが頂点に達していたとしても誰も疑わなかっただろう。
常設ではない、その分天井知らずの権限を付与される司法院騎士団は、戦士の憧れでもあった。
「んだら、出動! 支援隊は逐次出動にする、いいべ?」
「「了解」」
で、まだ下ろしてもらえなかったダイがいた。
「八大街道も少し脇に逸れただけで、こんなに深い藪だったとは」
「んだな、巡回にも限度ある、てことだ」
「それで、判事」
バルナ北部にはオークの国が存在して、大小の衝突は茶飯事。国境付近には多数のオーク族が居住しているし、混血化もしている。でも、ある意味で宿敵には違いない。
そんなオーク族が、まさか王都の行政圏に巣造っていたなんて。
「判事、その」
歯切れの悪い問いをする隊員。
「騎乗するか、馬車に乗って頂けませんか?」
「ああ、おれけ?」
ずどずど。パウロは小隊の戦闘を突っ走っている。全力疾走ではないけど鍛え上げた騎馬の前を往くとんでもない裁判官なのだ。
「気にすんな。こっちのが速い」
自分の得意を証明したいのか、加速するパウロに、あっさり説得を諦めた隊員。
「それと、この、少年、ダイが?」
食堂のお手伝いのおかげで平隊員には顔見知りさんなのだ。
「えっとな。こん子がオークの巣を発見した。んだな?」
「オークの巣かどうかは。だっておれ、オーク見てないし」
自分の鼻を指で持ち上げるダイ。いわゆる豚の鼻をイメージした動作だ。
「あーはっは。そりゃ間違いだ」
ダイの拳だと何個入るだろう大口を開けるパウロ。
「オークが豚そっくりってのはオーク嫌いが勝手に流したデマだな」
「え、そうなの」
「まぁドワーフ族とヒューマンの中間のイメージかなぁ。確かに〝ブタ〟と皮肉られる牙持ちとか毛深いヤツが多いけど」
ダイを乗せた馬車の御者を務める隊員がフォローする。
「ああ、後匂いさ。何だろうな、あの匂い」
並走する騎馬隊員の身震い。
「そんな臭いの?」
「そりゃ、残り香を〝あの〟人が嗅ぎつけるんだからな」
「どっちかってば、あの匂いのせいで王都立ち入り禁止になったようなもんだ」
「まぁ南北で長い事領土を争ってるからな。案外、北の国じゃ俺たちもモンスター扱いだぜ」
変わった風習や通じない言語。モンスターってそんな存在が拡大したのかも。
「でもパウロ判事って」
あのヒト、ニンゲン? そう聞きたいダイだった。
部隊一時停止。
「この辺だったんだけど」
残していた目印は片付けられているし、さすがにハーピィは残っていない。
「枝を何本か折ったんだけどなぁ」
下草を探っても気配が消えてしまったからオークの巣が行方不明だ。
「な、だからオークって嫌なんだよ」
槍を担いだ歩兵の隊員が呟く。
「ムダ口開くなら探せ。見えないなら鼻耳咽に皮も使え」
パウロは周囲を見渡しながら指示する。
「判事」
カラスコが王都方面を指差す。
「支援隊です」
数騎の戦士に護衛された荷馬車が到着した。
「おーー。小隊半員、整列。残りはオークの反撃に備え」
待っていましたとパウロは腕を振り回した。
集合した夜警隊員の目前に陳列されたアイテムの数々。
「で、判事。スコップや鍬はわかりますが、この帯は?」
「おめ、自分でオークが臭いって鼻曲げてたべ」
率先垂範。パウロは帯を顔に装着した。
「こんはな、匂いを減らす道具だ。姉ちゃんが石炭掘りの口宛てから改良しただな」
いわば簡易のガスマスクだ。
「ペネ判事が」
色に出さなかっただけで、ペネの名前が登場して信頼度がアップしたのは秘密事項。