消えた
とうちゃんの騎首を返して脇道に小走り。
「よし、まず、ここだ」
「ここ?」
ひらりと下馬、とうちゃんの手綱を枝にひっかける。つまり、休憩しているポーズってだけで、何時でも離脱可能体制。、
「おれが偵察するから、まってろ。もし」
胸元から、超ミニサイズで錆び付いたラッパを誇示する。
「これが鳴ったら、爺ちゃんとこに引き返せ。命令だぞ」
「了解」
もしもの危険性は、ミカには通じていないだろう。マネっこし過ぎなのか用心深いのか、ダイには万が一の用心を怠る隙間がないんだ。
「じゃあ、これ」
「ぶーー」
ラッパに続いて盗賊団の頭が差し出したのは、虫除けの薬剤が入っている小瓶。でも、ミカはこの薬草の匂いが大嫌いなんだ。
「まずは偵察だ」
身体を低くして、荷馬車を追跡するダイ。
森の小径には、またしても道草を食むとうちゃんの背中に乗るミカが残されていた。
「へぇ。草の蔓を撚った綱だ」
ダイは目聡く足元の細工を発見した。うっかり見逃しそうな細い線だから追跡者を横転させる目的じゃない。天然由来の綱を引っ張ると、音がするか、告知するシステムなんだろう。
「なんだか、おかしいぞあの連中」
街道から脇道に入って数分。私有地だとしても警戒心が強すぎる。
「この地区の所有者は」
ダイの脳裏に、ダブルあっかんべーする白ひげことマーサが浮かぶ。でも、公式にはまだマーサの主張は認められてないから、別の人の土地のはず。
「誰の土地になってるか調べとけばよかったな」
最大級の警戒で予防線を乗り越えて、また追跡。予想以上の足止めになったから、ハーピィの羽が役に立っている。
「ははぁん。ハーピィが舞っている下に馬車があるのさ」
ダイの作戦と深読み通り、荷馬車は普通の運搬人ではなかった。
「え? 馬車がない?」
轍。つまり車輪の凹みはあるのに、肝心の荷馬車が消えている。
「これーーこれーー」、「かえせーーかえせーー」、「このーーこのーー」
復唱するのが邪鳥の物言いだ。
轍が消えた数メートル先に、邪鳥が枝に列を成している。
「すると、この真下?」
ダイが、もしものために邪鳥の羽を仕込んでいなかったらダマされていた可能性もあった。
「なんだよ、この隠れ家みたいなの」
根本的な作戦を練り直す必要がある。ダイは勇気ある撤退を選んだ。
もちろん。
「ぶーーー」
「わかったから赤ちゃんみたいに髪の毛引っ張るなよ」
ミカの憂さ晴らしの標的を覚悟しなければならない頭だった。