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『大盗賊ダイ』  作者: 提灯屋
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大人の事情と子供の事情


「頭、またマーちゃんが」

 マーサたち、『猫の足音団』の姿が消え、チャート商会も連行された。つまり役者も観客もいなくなった芝居小屋と同じく閑散としている空き地にやっとダイが現れた。


「気にすんなよミカ。マーちゃ、マーサちゃんは〝貴族のれいじょう〟だからイバってるのさ」

「イバるとあっかんべー?」

 ミカが白い指を頬に当てようとする行為を窘める兄のダイ。


「そ。じゃあおれたちも帰ろう。今日はミカはすっごくガンバったから、とうちゃんに乗っていていいぞ。手綱はおれがしっかり握ってるから」

「わーーい」

「おれも、〝おとなのつきあい〟はここまで。明日から、やっと大盗賊ダイのお勤めに戻るんだ」

「ミカはね、パーシーちゃんとあそんでもいいよ」

「そ、だな。じゃあミカはアーちゃんとカーちゃん家でパーシーのお世話だな」

「りょうかい、頭」

 ここで、ダイたちも退場する。



 禁制の物品を無許可で王都ダイヤムに持ち込もうとした。同じく未登録のランク3の魔術師が同行していたなどの罪状の蓄積で、チャート商会は取り潰し処分となった。王室御用達の権威と人脈コネを、パウロ判事は全く顧みなかったことは言うまでもない。



 大人たちの後始末なんて、知らないよ。


 そんなセリフでも叫んだのだろうか、ダイはまた動き出していた。

 お勤めのために、少しだけ身を屈めている時期だ──。


 今日のダイは妹のミカのリクエストで大好きなパーシーがいるグアンテレーテ家でのお手伝い。家畜を囲う木の柵に寄りかかって縄作りの作業をしていた。

「ねぇ頭」

「わ、びっくりしたぁ」

 気分的には数メートルジャンプしたダイ。


「びっくりはミカだよ。頭が大声だすんだもん」

 

「ごめん、木の柵って音が響くんだよ」

「ふぅんそうなんだ。あのね頭」

 作業中の兄、ダイの耳元でミカがこそこそと囁く。

「あのね、パーシーちゃんねてるから」

 ミカはパーシバルが起きてはいけないからだろう。シーーと指を唇に当てる。


「アーちゃんと、お客さんがきたよ」

 なるほど柵越しに馬に乗った大人が数人接近している。ダイは、目を凝らさないで訪問者を識別する。


「へぇアーちゃんに夜警隊の。あ、あの人はズルのエキドナさんと、も一人知らない人だ」

 階級は違うけど、三人とも夜警隊員なのは間違いない。でもさぁ。ズルの人って記憶はどうなんだろう。


「絵札でズルしてあそぶの?」


 ダイは、腕組をしてちょっとだけ考える。

「わかんないや」


 ダイは、エキドナが絵札のズルをしたことがあるとアーちゃん、アーネストに報告済みだ。だから、そう安易に今接近中の三人が絵札に興じるとは考えにくい。だから、よくわからない。

「わかんないの?」

 だから。小さな靴はこそこそと歩き出した。


 現在グアンテレーテ・アーネストの屋敷は閑散としている。それは、敷地の広さ云々ではなくて、色々あってグアンテレーテ家の使用人がゼロ人であることが原因だった。


「グラン。エキドナ、まず座り給え」

 訪問者のもう一人はグランさんだそうだ。


 ダイとミカに一粒種のパーシバルを子守させてカトリーヌ。グアンテレーテ夫人は敷地内の家畜の世話をしていた。だからお客さんの応対や茶菓はアーネストのセルフである。


「その、グランの思い人だが?」

「もうすぐ王都に帰還するそうです、そうだよな?」

 棒立ちのグランに椅子を勧め言葉すら代弁しているエキドナ。絵札ではズルをしたけど、面倒見はいいようだ。


「踊り子、と聞くが?」

 トレーに載せた木椀とボットをテーブルに置くアーネスト。

「ああ、わざわざ隊長が器の用意など」

「構わんよ。妻がいると昼間には酒は飲めぬ故」

 ボットの中身は酔える水で、お茶ではないんだね。


「彼女と同じ空気を吸うとなると」

 両手で喉を抑える隊員。

「重症だな、相手は客商売だろ」

 同僚のお悩み相談を引き受けた割に冷徹なエキドナの言葉に興奮してしまった隊員。

「そんな!」

 隊員は勢い激しく椅子を蹴った。たった今勧められ腰掛けたばかりの椅子は乾いた音を立てて床に倒れた。


「グラン、エキドナ。両名とも鎮まれ。まぁおいおい話を聞こうではないか」

 着席を促すアーネスト。

「彼女は、ああ彼女だなんて失礼です。天使、もしくは地上に舞い降りた美の女神です」

 狂おしそうに胸元を掻き毟っているグラン。


「それって『民族舞踊酒場』のひと?」


 にょき。そしてちょこん。


 夜警隊員の色恋沙汰に、ダイが突っ込んだ。テーブルの上に、小さな頭が二つ並んでいる。


「ダイ、ミカ?」

「あれ、この子供は?」


 カナーノ家で見覚えのある二つの顔がテーブルに並んでいた。二人とも栗色の眼をキラキラと輝かせて、オトナの恋愛話に興味津々なのだ。


「ねぇ。踊り子さんって『酒場』の人? どっち、『おっぱい?』、それとも『民族舞踊』?」

 『おっぱい酒場』と『民族舞踊酒場』。アーネストの急所を二個も掴んでいるダイ。

「ダイ、あちらに行っていなさい。ミカ、パーシバルの様子は如何した?」


 にこり。


「カーちゃんに言いつけられた仕事は終わったよー」

「パーシーちゃんね、ねむねむなの」


「つまり」

 ダイたちを追い払う理由はない。



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