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『大盗賊ダイ』  作者: 提灯屋
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フェーデの仕掛け


「ってく。〝ご苦労さん〟の言葉もなしかよ」


 『猫の足音団』とフェーデの形で衝突した男たち。王室御用達のチャート商会の看板を悪用して不正な物品を王都に持ち込もうとしていた一団は逮捕された。

 首領リーダーのテオ、白ひげのマーサ、だんごや猫背たちは、これ以降逮捕劇の舞台から降ろされ部外者しして放置されている。


「ま、これでお咎めなし、チャラなら」

「鼻高、ふざんんじゃないよ」

 ドスンと足元を踏み固めるテオ。


「こんないい子ちゃんな結末、『猫の足音団』の名折れだよ。大体さぁ」

 アーネストの背中を指差して怒鳴り散らしっぱなしのテオ。


「これは迂闊」

 話題の主になったと気づいたアーネストが踵を返す。


「そなた達が修道院から外出許可を頂戴した名目は奉仕活動であったな」


 実はテオやマーサたちがフェーデ。名誉回復決闘を仕掛けるために修道院を外出していたのは、寄付を集めるためが建前だった。

 修道院でも特に女子は、散歩気分では院外の空気は吸えないのだ。


「そ、そうだよ」

 完全武装したアーネストが接近するとトーンが急降下していたテオ。


「奉仕の代償を受け取って欲しい」

 アーネストは、軍服のポケットから財布を取り出した。

「奉仕?」

 アーネスト、夜警隊に奉仕した心づもりはないテオが眉を折り曲げる。


「乙女が怪訝であったり不機嫌な顔を度々するものではない。今日は素直に寄付を受け取って貰いたい。本日の働きに報いたいのだ」


「ってさ、あのチャートたちナニを運んでたのさ」

「申し訳ない。余が頼んだのは足止めと時間稼ぎ、それに魔術師が潜伏しているかの確認。念を押すがランク3の魔術師は、届出をしなければ王都に立ち入り不許可なのだ」


 つまり本気でフェーデをすることでランク3の魔術師を確認したのだ。中身の確認だけならば、職質でも遂行は不可能ではないのだから。


「で、肝心の荷物は秘密かい?」

 アーネストは、口を山型に作る。そしてテオの質問に答えない。

「ちっ」

 顎でしゃくって、お金の授受を鼻高に命じるテオ。アーネストの手から鼻高、最後にテオに礼金が渡る。


「あーー。この金で美味いもん食おうかなぁ」

 硬貨がぶつかる軽い音がする。


「御随意に」

 肩を竦めたアーネスト。

「でも、存外貴殿。失礼、私は女子にも貴殿と言ってしまうのだが、〝テオ〟嬢の自尊心が釈すまい? カノッサ女子にはお腹を空かした年下の院生が幾人も在籍しておろ?」


 図星、だったらしい。テオが掌で硬貨をジャラつかせるのを止めた。


「ふん。どんな金でも、お土産はお土産か」

「そ、そうだよテオ」

「帰ろ、帰ろ。あんま遅いと舎監がうるさいからさ」

 大勢の大人にフェーデを仕掛けていても、怖い舎監なのだそうだ。


「都合が良ければ馬車を用意していますが?」

 とある夜警隊員が尋ねる。

「結構。これ以上本当は敵な夜警隊と関わりたくない。行くよ」

 首領の号令で、『猫の足音団』たちは返るべき修道院の方角に足を進める。おっと一人だけ。


「……ダイ」

 枝がしなっている大木に向かってマーサはダブルあかんべーをする。

「アーちゃん?」

「ミカ、静かに」


 あかんべーは、子供の挑発行為だ。それも正直ガキの年代の。没落令嬢のマーサのそれは、正直はしたない。


「グアンテレーテ、貴殿、妙な既知がいるのだな」

 第四小隊長のキンバリーが馬首を翻して一言つぶやく。絵札趣味がないキンバリーはダイ兄妹と面識がなかっことが発言の理由だった。


「しかし、恐ろしい作戦だな」

 相槌なのか会釈か、頭を気持ち下げるアーネスト。

「チャートの面々、今日の担当判事がシルズではなく、パウロと知ったら指先が動く限り抵抗しただろうが」

 馬に跨りアーネストたちを見下ろす姿勢のキンバリーがほくそ笑んだ。

「あの大飯食らい、アダ名も食いしん坊で幾つもあるが、別名〝貴族殺しのパウロ〟。判決が楽しみだな」

 ランク3の魔術師を探るだけではなくマーサたちを危険に晒してまで十三時に拘ったのか。その理由はたった一つ。夜警隊担当判事の交代を待っていたのだ。



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