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『大盗賊ダイ』  作者: 提灯屋
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今死ぬか、後で死ぬか。選べ


「ねぇテオ。そろそろ」


 肩で息している『猫の足音団』。


「ってしゃべってるんだ。まだまだ余裕だよ」


「じゃなくてさ。もう手加減はムリ。ドバって腹を切り裂いたらラクじゃね?」


「裂けるもんかよ、この暴れメス馬ども」


「っしょう。パチンコがなけりゃ、青×ンでお楽しみなのにな」



 これは意図的なんだろうか。

 飛来するパチンコは、どうしてだか『猫の足音団』の殺戮もお邪魔している。一度二度となく、男たちの背後からなで斬りのチャンスがあった。特に、テオの幅広い曲刀ならば、致命傷になっただろう。


「あいつ、敵なのか味方なのか、どっちだよ。白ひげ」


「知らない。本人に聞いてよ」


「ったく忌々しい小娘って! おい! 退け、剣を鞘に戻せ!」


 戦闘要員の中で兄貴分っぽい男が叫ぶ。マーサたちも、誰かが接近している気配は伝わっていたけど、視線を泳がせる隙は作れなかった。



「って、ここに来て逃げんなよって?」


 ぽくぽく。マーサたちの正面から武装騎兵が隊列を整えて迫っている。


「テオ、後ろからも!」

「じゃねぇ! 横からも」


 これは、どんな仕掛けだろうか。


「や、夜警隊のお歴々ではありませんか」


 ふん。マーサは鼻息を荒く吐き捨てた。


「名乗る前に夜警隊ってわかるんだ」


 男たちの被っていない仮面が、その言葉だけでも覗ける。


「ここは国王陛下の管轄地」


 そのセリフは、マーサを少し不愉快にさせる。


「どう割り引いても武術の訓練ではなさそうだが」

「そちらは?」


 一番上等な衣服の男が夜警隊に対して慇懃に振る舞う。


「俺は夜警隊第四小隊長、キンバリー・ホセフィーノ」

 キンバリー以下、完全武装した夜警隊十五騎が並列進行する圧力は半端ない。男たちの額や頬にはびっしりと汗粒が浮かんでいる。


「そりゃ、どうも」「ま、その。よくあるケンカでして」


 そして『猫の足音団』の背後からも迫る圧力。


「第四小隊、奇遇だな」

 こちらは同じく夜警隊第十一小隊。トーマス・ルカ。階級は中尉だ。


「に、二箇小隊じゃん」

「黙ってな」

 つつー。第十一小隊は、組み立て式の弩兵も控えている。ほぼ総動員の戦士たちが、マーサたちなど存在しないかのように粛々と男たちに歩を進めている。


「アコヤ街道は我が十一小隊の責任担当区域なので、微小なトラブルでも見逃せないな」

「どうやらランク3の魔術師が混じっている模様だが、王都入場の許可書はあるのかな?」

「そ、それは。そのこちらの導師はあくまで護衛で、王都には踏み込まない予定でして」

「なるほど。それをどう証明するかな?」


 トーマスは明瞭に宣言したのだ。取り調べなしでは開放はしないぞ、と。

「さて、この清々しい青空では馬も遠出を喜ぶものだが」


 やや。芝居の終幕が迫っているようだ。長年の友の再会を喜ぶような手振りをするトーマス隊長。


「おお、グアンテレーテではないか。如何した」

「なに!」「なんだよ」「あいつ!」


 マーサと男たちの側面から、アーちゃん。グアンテレーテ・アーネスト指揮下の部隊が接近している。当たり前のように、アーネストの脇には、ダイの愛馬〝とうちゃん〟の手綱を引っ張られているミカがいる。


「あの野郎は、この前の隊長」

 アーちゃんことアーネストのことだ。


「こちらの『善意の少女』と偶々鉢合わせして、ケンカを仲裁しようと駒を進めたのだが」


「これはこれは」

 全身をガクブルさせながら、上等の服が揺れている。熟練の夜警隊騎兵を筆頭に弩を含めた三箇小隊。太刀打ちも抵抗も敵わないことは明白だった。


「卒爾ながら」

 それは、失礼だけどって古臭い表現法だ。名門旧家のグアンテレーテ家出身のアーちゃんは、言い回しが面倒臭いケースが多い。


「トーマス、現在の時刻は?」

「ふむ」

 大袈裟に下顎に指を添える第十一小隊長、トーマス。


「先ほど十三時の鐘の音を耳にしたな」

「なるほど、では本件を目撃者の通報通り、国王陛下」

 アーネスト以下、数人の夜警隊が拝礼をする。この場にいなくても、礼儀を尽くすのが臣下の習いなんだと。

「バルナ八世陛下の代理管轄の森での衝突と認定する」

「そ、それは」

 間違いない。男たちの顔色が半腐乱のネズミの死骸みたいに曇った。


「ま、待ってください。ちょっとこちらのお嬢さんと」

 墓穴、もしくはワナにハマった。


「ほほぅ。覆面をしていてお嬢さんと明言するか」

 アーネストが馬の鞍に跨って発言する。


「そ、そりゃ身体つきとか口調とか、おしとやかな剣さばきとかでわかりますよ」

「それも含めて事情を伺おう。荷物を確認する」

 アコヤ街道が受け持ち区になっているトーマス。

「お! お待ちくだされ」

 男たちのリーダ格。一番高そうな衣服の初老の男が、拝礼の姿勢で最後の抵抗をする。


「我々は王室御用達、チャート商会の一行。中身について不必要に吟味するは、夜警隊の方々の利益にはならないかと」

 にやり。アーネストは、チャート側の隠し武器なんてお見通しだった。


「ならば尚更中身の安全を保証する義務が夜警隊にはある。ランク3の疑いある魔術師も混じっているようだからな」

「観念せよ」

 止めを刺すトーマス。まだ抵抗するチャートサイド。


「しかし!」

 身構えているから完全に降伏していないチャート商会の面々と夜警隊の睨み合いになっていた。


「まぁ待て、第八アーネスト第十一トーマスも説得力がないな」

 第四小隊長のキンバリーが馬をゆっくりと前進させる。全く予兆も合図もしていないのに、整列する十五騎が一斉に長刀を鞘から抜き放った。


「今死ぬか、後で死ぬか。選べ」

 キンバリーの脅しをフォローする第四小隊員。


「後ならば、今日明日とは限らないぞ。十年後かもな」


 これでようやくチャート商会の一段は降伏した。





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