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『大盗賊ダイ』  作者: 提灯屋
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カトリと出会った

 丁度、五十日前の今日──。



「ミカ、ついてくるなよーー」


「だってーー頭ーー」


 森の小径をとうちゃんの背に乗って進むダイ。そのダイを追い掛けるミカの構図は、とうとうエスカラ街道まで繰り返し繰り返し継続していた。



「お勤めは〝ひじょう〟なんだ。女子供は邪魔なんだぞ」


「ミカだってお外で遊びたいよ」


「遊びじゃない。お勤めなんだぞ。ミカは祖母ちゃんと遊んでろ」


「ばーちゃん、今日はおてつだいさんとおしゃべりだもん、ミカたいくつだよー」


 今日のお勤めの収穫を半ば諦めたダイは、妹を馬の背に乗せる。


 もちろん、この時のミカの腕には、まだ〝ナンシーとダイ〟は存在していない。



「じゃあ、どこに行こうか」


「うんとね、ねぇ頭」


 森がざわめいた。

 木々が揺れて小鳥が群れになって飛び出す。


「あれはなぁに?」


「鳥だけ、じゃないな。調べよう、とうちゃん」


 阿吽の呼吸で、加速する愛馬とうちゃん。



 やがて到着した枝街道の脇に黒い馬車が停車している。違うな、客室セダンの天井だと思った黒い物体が動いているじゃないか。


邪鳥ハーピィだ。ハーピィが人や馬を襲っているぞ」


 一旦停止。


「頭、こわいよ」


 熟練の戦士でなければ、ハーピィは強敵に区分される。


 セカイによっては大人を見下せるほど大型だと噂されているハーピィは、でもバルナでは大き目のフクロウとサイズ的には変わらない。だからって密集すれば、相当な脅威になる。


 実際カラスと同じで、バルナのハーピィは群れで行動するのが日常的なんだ。


「ちくしょう、ハーピィは飛べるもんな。ミカは短剣これ持って木陰で隠れてろ」


 バルナ王国では国境や未制覇のダンジョン付近でなければオークなどのモンスターは滅多に目撃されていない。旅人にとっては、モンスターよりもフェーデや盗賊のように、ヒューマン系の方が悪辣な存在になる。


 でも、飛行系は話が別だ。


「とうちゃん、急いで。でも、狙いが狂うからブレないで」


 矛盾したリクエストをして単騎突入するダイ。

 スリングは、短剣よりも重宝しているから即座に構えられる。



「助けてぇ」


「だれか」


 大人の悲鳴だった。


「あっち飛んでっちゃえ」


 スリングショットに関しては熟練の部類のダイは、見事奇襲に成功する。ハーピィは群がっていたから撃てば当たる。

 ダイは馬車の襲撃者に次々とスリングをお見舞いしてやった。


「おまえーー」


 ハーピィは堕落した神鳥だから、人語がしゃべれるそうだ。バルナの伝承ではね。


「ほら、痛いだろ」


 九割ほどが命中。

 鳥系は、防御力が弱いからダイのスリングは無視できないダメージになっている。黒い羽を撒き散らしながら、数羽のハーピィが森に逃げる。


「いたいーー」

「おまえーー」


 飛び去るハーピィたちの障害物が除去されると、寝転がっている馬と天蓋だけの馬車の痛ましい光景が展開されていた。

 馬は。馬が無事ならお尻を叩いてその場から離脱って選択もあったんだけど。


「あれ、オジさんたち、大丈夫?」


 停車している馬車のそばに、丸まったオジさん。



 まるで、さっきフェーデと格闘したダイを傍観していた農夫ソックリオジさんが後頭部を抱えて丸まっていた。


「大丈夫、だね」


 もっとも、別の一人喉笛から血がピュっピュ流れている。倒れている男は滑り止めで撒いた革紐で短剣と繋がっている。

 不味いことに男と並んで馬も倒れていた。


「ああ、馬が目をくり抜かれてる」


 もうどちらのピクリとも動いていないから、倒れている男と馬は助かる見込みはない。逃走は不可能になった。


「馬車の人、だいじょうぶ? うわっ」


「助けてぇ」


 荷台からお婆さんが転がり落ちた。ひーひー泣いているけど、外傷はなさそうだ。


「ううう」


「だいじょうぶ?」


 さて、馬車の御者台には、もちろんカトリーヌ。その時のカトリーヌはダイにはどんな病気かと畏怖するほど大きいお腹を押さうずくまっていた。


「ありが、と」


 お婆さんは、丸まっているオジさん同様、無事だ。でも、御者台の女性が、なんか不自然なんだ。


「お姉さん、病気なの? お医者さん、行く?」


 とうちゃんに跨ったまま馬車を無事を確認する。お婆さんはともかく、モンスターとしては小型サイズの鳥系のハーピィが隠れていて、不意をつかれたらヤバいもんな。


「病気、じゃない。あ、あか、ちゃんが産まれまし」


 脂汗と擦り傷顔のカトリーヌだった。


「あり、がと。ふふ。ふ」


 引き攣りだったのか、救助者が意外な程小さなダイだったから笑ったのか、ダイの配慮に笑顔で応じたのか、あるいは臨月を病気と勘違いする幼さに苦笑したのか。


 それは不明だ。


「赤ちゃん? ミカ、ミカ。こっちに来てくれ!」


 ハーピィの群れが消えれば兄の近くの方が安全に決まっている。ミカは瞬く間にダイと合流する。


「落ち葉をたくさん集めてくれ」


「でも頭、ハーピィがまだいるよぉ」


「安心しろ。これがあれば、撃退できる」


 ミカに誇示するだけじゃなくハーピィを威嚇するようにスリングを掲げるダイ。


「じゃあ葉っぱ頼むぞ。……じゃあ、お姉さん」


 馬車は荷台に支柱を立てて天蓋、つまり傘代わりに機能させていた。

 そして、荷物の中に長剣があるじゃないか。


 赤ちゃん。天蓋、支柱。豊かな燃料源。ダイの為すべき作戦は決まったようだ。


「色々と借りるよ。ごめんね」


 最初に荷物の長剣を抜くと天蓋の支柱を切り倒した。次に、天蓋布──期待通り防水処理済みだ──を裂く。


「お姉さん、毛布だよ」

 この時はまだ名乗っていないカトリーヌに天蓋布の大半を掛ける。


「頭、はっぱさんあつめたよ」


「じゃあ、おれのリュックの道具使っていいから、火。起こせるな? 頼むぞ」

「うん」


 ダイはリュックを降ろす。

 けど不意に。


「ふん、こんな時だって油断しないぜ」


 振り向き様スリングを一発。まだまだハーピィはカトリーヌや産まれる赤ちゃんを狙っているのだ。


「このやろーー」

 捨て台詞を吐いてハーピィが飛散する。


「なんとでも言え。おれはお姉さんと産まれる赤ちゃんを守るんだ」


「ミカもいるぞーー」


 兄妹揃って腕を突き上げる。


 こんな局面だったけど、頼もしい幼児たちの宣言を拝聴していたのはカトリだけ。

 本来、率先してカトリを護らなきゃならない使用人たちは、逃走してしまっていたのだ。


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