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『大盗賊ダイ』  作者: 提灯屋
120/132

門前の少年……前



 そして、ダイには新しい物語が進行する。


 忘れられているかもだけど、バルナ王国の司法は、司法院が統括している。

 大法官カペラ・キースを筆頭に全国に大勢の判事や職員が在籍。

 当然だけど、判事職を頂点とした階級が構築されている。


 フッフ判事。


 司法院でも最古参の部類の職員で、本務は資料室館長。

 つまり、司法試験を突破して判事になったわけではないのだ。


「フッフ判事」

 資料館では静粛に。

 当たり前そうで、なかなか厳守されない規則を徹底させている館長のフッフ。


「あの、フッフ判事」

 そんなフッフの名前を連呼する子供──ダイがいた。


「ん」

 八歳のダイを器用に残酷に丸めたら、丁度このくらいのサイズだ。そんな大量の書籍を運んでいるフッフ。


「なんだ。資料室では騒ぐな」

 カウンターに書籍を一時的に積む。


「フッフ判事」

「おい」

 資料室と呼ばれているけど、その書籍量はどの大図書館にも負けていない。そして、全ての資料──書籍だったり書類、巻物など多岐に渡る──を閲覧するには、そこそこの院内の地位が求められる。


「声をだすな。お前さんよく通る声だ」

 限定資料貸出や閲覧の審査申請のために、カウンターが備わっているのが、司法院資料館だ。

 平職員も数名在籍しているけど、基本フッフ独りが資料館業務を取り仕切っている。


「ごめんさない。でも、ガボン高等判事がお呼びです」

「ガボンが?」

 フッフは平判事。ガボンは、司法院の階級では数段階の格上だ。なにしろ高等判事、希望者だけでも百人以上の倍率を突破した強者なのだ。


「これ呼び出し状です」

 ダイは背伸びして紙切れを提示。だって大人用のカウンターではさすがの大盗賊ダイでも背が届かないから。


「呼び出し?」

 書類を一瞥すると指を一回だけ鳴らすフッフ。

 資料室のカウンター奥で作業をしていた職員が頷く。どうやら、声だし禁止は徹底しているらしい。


 やれやれと低速な足取りでフッフは資料室から呼び出し状に指定された場所に移動をする。


「で、なんでお前さん。ついて来る?」

 フッフの真横を並走するダイ。大人の歩きは、やっぱりダイには速いんだ。


「あの。ガボン高等判事が、ご自分の執務室まで案内しろと」

「そうかい。そりゃご苦労だな」

 吐き捨てたようなセリフから、しばらくは大小の影は忙しく移動を継続した。


 フッフに緩い疑問が浮かんだ。


「あのな。あんまり見ない顔だが、どこの所属だ?」

 後方のダイを振り返らないで質問。


「ええっと夜警隊です」

「や? なんだ、少年」

 お前さんから呼び名がチェンジした。


「管轄外の仕事を子供に押し付けたのか? 少年の──?」

「ダイです」

「そうか、ダイか。で、ダイ君のご主人様に怒られないか、持ち場を離れてしまって」

「大丈夫せす。カラスコさんは、長い作業になるとおっしゃってました」

「カラスコ。あいつか。そうか。いずれにしても悪かったな?」

「気にしないでください。偶然、ガボン高等判事の下働きの人がフッフ判事を探していたので」

「探すなど、俺は食堂と資料館と宿舎の三点往復以外滅多にせんぞ」

 その宿舎もメイン職場の資料館に密着している。

 フッフが資料館のヌシとアダ名される理由は、この行動範囲の異常な狭さにもあったのだ。


「そうですか」

「まあ、いい」

 そんな他愛もない会話をして、フッフは高等判事の執務室に入る。


「ガボン」

 立場では、平判事から、遥か上空にそびえているはずのガボンなのだが。


「フッフ判事、お座りください」

「お前さんはガボンの下働きの?」

 少なくても判事ではない。


「高等判事よりの文章です」

 恭しく頭を下げてから皮革でコーティングされたファイルを差し出す下働きの男。


「なんだ、これは。俺の定年は判事になって延長したはずだが」

「熟読を願います」

 あくまで低姿勢で依頼の形。


「だから、これはなんだ?」

「熟読を」

 拒否権はないと言い切られた。


「審判だと? 俺は」

「フッフ判事は判事で御座いますな」

「当たり前の。だからか?」

 差し出されたファイルがガタガタ揺れている。かなり資料館のヌシが感情を昂ぶらせている様子が明白だ。


「で、いつ」

「もう判事の入室を待ちわびております。ドラゴン顔負けに首を長くして」

「ドラゴン? お前ドラゴンが目撃させなくなって何十年経っていると」

「申し立て人も相手側は四十七分ほど待っております」


 あくまでも──。


 あくまでも判事に対してへりくだった態度を装いながら、有無を言わせず、逃走のスキも与えない。


「ガボンめ」

 立場は数段上。でもフッフは研修生時代のひよっこの高等判事の行動を掌握している。だから呼び捨てを平気でするし、不詳の弟子も直接対面を避けたのだ。


「第十小法廷です。ご用意を」

「断れば、クビか」

 粉々に砕けてしまいそうなくらい歯軋りしのフッフ。



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