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『大盗賊ダイ』  作者: 提灯屋
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王者の石ねぇ



 夜。連日興行のため、鷲と白鳥一座の劇場に宿泊したテオとマーサ。

 役名のない、その他の座員は大部屋に寝泊り。つまり雑魚寝をしているけど、カノッサ勤労女子修道院の応援臨時座員の少女たちは小さいながらも部屋が割り当てられた。


 もっとも──小道具部屋だけど。


「ねぇ白ひげ」

 お芝居の小道具にも使用する組立ベットに横たわるテオ。一枚布に顔通しの穴を開通させた程度のお粗末な寝巻き姿だ。


「なんだよぉ。もう寝るよ」

 とても元貴族令嬢の言葉じゃない。

 いい意味でも悪い意味でもカノッサに染まっているマーサだ。


「その石どしたん?」

 マーサとテオは猫の足音団の一員だ。テオが頭首リーダーでマーサがサブ。

 年齢もテオが一歳だけ年上だけど、普段はタメ口が多い。


「奪ったんよ。フェーデで」

 ダイが連呼したけど、本当はけがされた名誉を回復する決闘が別名フェーデ。でも近年は金品を恐喝する行動の隠蔽に悪用されていて、猫の足音団もフェーデの常習犯だった。


「今更? で、その石?」

 お喋りするだけでギシギシ音を立てる粗末なベットから半身起こしたテオ。


「そ。ツマンナイ相手からツマンナイフェーデでツマンナイ戦利品」

「硬そうだしちっとばかり綺麗っぽいけどさぁ」

 売り物にも持っていて自慢にもなりそうもない。


「だからあたしも悩んでんの」

「棄てれば?」

「それもシャクなのよねぇ」

「へぇ」

 今日のお芝居では前回ヒロイン抜擢のマーサは端役。テオに至ってはガヤだった。それでもダイとの関係で劇場主夫人の私室でお茶を振舞われている。

 王者の石らしいフェーデの戦利品は、お茶会のやり取りでダイから奪った品だ。


 捨てようか?


 持ち上げてみると少し重い。


 綺麗と尋ねられたら綺麗だけど、石ころとしては綺麗なので宝石類には遥かに及ばない。

 重石にしては大きさが半端に大きいし、一個だけだと庭石や花壇に添えるにも足りない。

 じゃあ鐘つき堂の分銅にする選択肢もあるけど、一応現在お世話になっているお芝居一座の花形踊り子が王者の石の触れ込みで贈られたそうだから、リリュに失礼だと遠慮する。


 困ったな。


 奪えば、ダイが。

 あの生意気なダイが困惑すると期待してたら、あっさりしていた。


 今思えば、マーサが奪い取ると読まれていたんだ。



「あの子供」

 子供。


 マーサも大人びているし勝気だけど子供だ。でも、ダイよりはお姉さんのつもりだけど、あの大盗賊には、年上に対する配慮がない。


 まあ放置放任せざるを得ない祖父母との同居、周囲はホント本物の大人に囲まれて、しかもあのダイはそこそこ賢いから大人たちの弱みをシッカリ握っている。


 だからマーサを大人として扱えないんだろう。


「って待ちなさいよ」

「なんだよ。石を上げたり下げながらぁ」

 半分不良少女なテオも慣れない舞台活動から誘発される睡魔に屈している。

 マーサの心境などどうでもいいテオは、安眠を優先したいのだ。


「ったく。私たちの猫の足音団の問題なんだよ」

 ダイと多少お手伝いしたミカ二人で、テオとマーサは完敗した。

 その上、フェーデを控えてもあれこれ関わっているあの大盗賊。


「ええっと」

 ベットの上で、オデコに載せてみたら、そりゃ間違いなく重い。ベットの上じゃなくても重い。


「そうだ」

 王者の石を腰とベットの隙間に詰めてみる。

 腰枕にしては硬すぎるけど、腰を伸ばす作用はある。ちょっとだけなら、気持ちいい。


「これが王者の石ねぇ」

 結局、マーサの枕元に据え置かれていた。一晩腰に当てるのは冷たいし痛いから。


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