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『大盗賊ダイ』  作者: 提灯屋
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お茶をどうぞ


 溢れんばかりの拍手とまだ微量ながら続くコインの投擲。


「あれ、あの生意気ちびは?」

 舞台から降りたマーサは周囲をキョロキョロする。


「んだよ。あんた、そこそこ拍手も呼び声もあったんだから、あんなガキが居てもいなくても」

「そんなんじゃない」

 座員たちがぞろぞろ退場しているから我慢したけどベロでも出しそうな剣幕のマーサ。なにしろこのお嬢様、ダイにはあっかんべー合戦が茶飯事なんだ。


「そんなんじゃないわよねーー」

「あ」「汗」

 正規座員ではないマーサとテオを抱きしめるリリュ。三本柱だから、そりゃ今日も踊って踊っての奮闘をしている。


「ち、違いますよ」

「へーー。なんでうつむいてるのかしらーー」

 テオの過剰反応だ。


「うふふ。あの未来の大脚本家なら、きっと姐さんのお部屋よ。さっき見習い座員が案内してたから」

「姐さん?」

 『鷲と白鳥一座』にとっては、お日様が登る方角を東と呼ぶんですかレベルの質問なのだけど。


「そう。キクヌスかナピか。私が姐さんと呼ぶのは、一座ではあのお方だけよ」

「ふーーーん」

 テオは、マーサの妙な納得ぶりを理解していなかった。


「なんだ。もうケンカ飽きたんだ」

「そうねぇ。そうかもねぇ」

 リリュは、作戦がハマってご機嫌なのだ。



 後で……姐さんことキクヌスに叱られるのだけど。




「はい、お茶ですよ」

 ダイを部屋に案内した幼い座員がトレーを運んで来た。


「あ。ご苦労様」

 ダイの気がかり。それはナピの控え室は劇場から消えていた事件。


 もしかして──?


 そんな心配は無用。


 ナピは劇場のオーナー夫人。居室が一切なくなったわけじゃない。劇場の一部、隣接している居住区にちゃんとした居場所が確保されている。


 ただ、舞台に隣接した控え室がなくなった事実は、ナピが一座の立場を物語っているのだけど、それは正に大人の事情。


 ダイが全体を把握するのは、ずっと先の話になる。


「いただきます」

「ミカ、違うぞ。まずはありがとうございますだ」

「あらあら」

 上品な笑い方。手の甲で唇を隠すように笑うナピ。


「キクヌスさん」

 まず、兄のダイ。


「おねーちゃーーん」

 ミカがにこりと笑う。


「舞台お疲れ様でした」

「でした」

 一言発言して兄をキョロり。そしてまたキクヌスをチラ見するミカ。


「お茶、頂きます」

「いただきます」

 ふさふさ。

 小さな頭が大きく上下した。


「さあ、遠慮なく召し上がれ」

 さり気ない自然な手つきでお菓子の皿を指し占めるナピ。あるいはキクヌス。


「「ありがとうございます」」

 小さな栗色のまん丸がペコリと一挙。そしてこくこくとお茶を貪るように飲み込む微かな音がする。


「さて、と」

 温かいお茶にお菓子。ダイが脚本の協力者だとしても悪くない待遇だ。


「ふうん。改めてダイ君とミカ嬢を拝見すると納得ね」

 お茶を飲みながらもナピのうごきを注目しているミカ。その小さな栗色の頭を優しく撫でるナピ。


「あのね、ミカね、今日ね」

「ミカ、おれが話すよ」

 五歳児では、お勤めの目的とかを正しくナピに伝えられない。


「いいんだもん、ミカね。ミカね」

「はいはい、じゃあいらっしゃい。でもドスンはダメよ」

 両手を広げてミカを招くナピ。人気芝居一座の三本柱でも、売れていない頃は一人何役もこなしていたためか、意外と太い腕が伸びた。


「うん」

 まるでその一言を待っていたかのようにトコトコ席を移動するミカ。


「ちぇ。甘えちゃって」

「そうよね。あんたには」

 はて。聞き覚えのある威勢のいい声が聞こえた。扉越しに。


「姐さん、リリュです。入って宜し?」

「あら、早かったのね。どうぞ」

 ミカを膝に乗せたナピが入室を了解する。その相手は。


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