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『大盗賊ダイ』  作者: 提灯屋
113/132

逃げるのお上手じゃない


「ダイ、ちょっとお仕置きしてあげる。感謝しなさいよね」

 きりきりきり。

 マーサが二条鞭に力を込める。


「そうだね」

 ダイだって徒手空拳ではない。

 超長距離の射程を誇るスリングを腰に挟んでいる。


「まあ、そう来るわよね」

 マーサはフェーデで撃退された時だけじゃない。王都に持ち込み禁止物品を密輸を企んでいた商人の用心棒たちの猛攻を封じて、結果マーサを護衛もしている。


 一勝一敗。


 マーサはダイのスリングの威力を理解している。


『まあ。たいへん』

「あ!」

 タイヘンなのはダイだ。

 純粋な射程ではダイが既に圧勝を収めている。


 だから、なんだ。



『か弱いお嬢さん、安心してください。悪魔の道具は消え去りました』

「リリュさん」

 打ち合わせをしてなくてもマーサが腰紐替わりに二条鞭を腰に巻いているのは承知の上。そしてダイがスリングの名手である事実も。


 それでは〝面白くない〟大陸随一の踊り子は、巧みに大盗賊から得意の武器を奪ってしまった。


「うわっ」

 形勢は逆転した。ダイは素手になった。


「じゃあ、行くからね」

 スリングを構えていなければダイは怖くない。

 マーサは遠慮なく引き絞った鞭を振るう。


「それ」

 ダイの鼻先で鋭い音を立てるマーサの鞭。


「あ、危ないじゃないか」

「そうかしら。そうね当てるつもりだもん」

 マーサとダイが会話する間、ビュンビュン渾身の鞭が打ち鳴らされる。


「うわっ」「あの子、やっるーー!」

 マーサとダイはマジケンカだったのに客席はお芝居の演出と勘違いしたままなんだ。


「さすが大盗賊ね。逃げるのお上手じゃない」

 褒めながらマーサはダイとの距離を段々と詰めている。


「そうだね」

 予告状まで送っていて、鞭の一閃で尻尾を巻くなんて、なんか悔しい。

 ダイは、存在の保証のない勝目を狙ってマーサのスキを伺う。


「どんどん行くからね」

「いいよ」

 ムカッ。


 上目線のマーサにタメのダイ。


 この子、ゼンゼン怖がってないじゃない。


「いやん、お姉さま。ダイ様をもっとイジめてー」

「そうするわよ」

 勝手な声援。


「だめー。イジめちゃダメーー」

「どっちだよ、もお」

 本当だ。



 臨時座員なのに、既に形成されているマーサのファン。これに、なんとダイにも支援者が出現して、劇場は身勝手なヤジの往来になっている。



「だから、あんたが素直に殺られればいいんだから」

 シュシュっ。


 マーサが反動で若い身体を大きく揺らしながら鞭に力を込める。

「だから、なんでだよ」

 ダイも黙って殺られない。


「へぇ」「お、おーー」

 にやにや。


 マーサの身体の躍動に、男性の観客からも賞賛の吐息が漏れ始める。


「ふん。いつまで、逃げてる気?」

「さあね。おれのお勤めが終わってないからさ」

「そ」

 一言一句。まだ目にも麗しい少年少女が挑発的な言葉を交わし合う度に空振りする鞭。


「あんた、間合い測ってるの?」

「どうだろうね」

 当たりそうで当たらない。


 ステップで接近してみたり、後ろ歩きで離れる。


 ダイ(こいつ)、わたしをからかってるのね。


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