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『大盗賊ダイ』  作者: 提灯屋
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二人……1

 やっと。


 やっと小説をアップできます。アップに耐えると自負する小説が書けました。



 『匙と準宝石』最終話から二年半。


 白内障手術するわパソがウィルス感染して「~なろう」を事実上退会するわで、色々あり過ぎましたけど、この度、全くの新作を掲載します。



 『大盗賊ダイ』



 異世界ファンタジー系小説です。転生者ではありません。




 現在、二話(話のまとまりで)書き上げてますので、ハーレムやチートじゃないこの作品、多くの人に読んでいただきたいですね。




『大盗賊ダイ』


 バルナ王国の王都ダイナムから放射線状に伸びる主要街道の小道。


 道と周囲を隔てる敷居も柵もなく、堅牢な石畳が敷かれてもいないし、くねくねと蛇のように上下してうねり左右にぶれている。

 すぐ泥濘むし、石ころやゴミがあちこちに放置されている。


 つまり、この道はどこにでもある田舎の風景の一部だ。


「うん、護衛の姿はない。狙い通りの獲物がきたぞ」


 どこにでもあり、どこにでもない狭い道に一台の荷馬車が揺れている。

 特別に急いでいる様子もないし、値打ちのある物品を運ぶ重圧的な緊張感もない。


「ねぇ」


 どこにでもありそうで、でもたった一つどこにでもなさそうな出来事。

 それは田舎道の風景を濃縮したような一頭立ての荷馬車を狙う瞳があることだった。



「ねぇ」


「手筈はわかっているな? 迷いは禁物だからな」


 うねっている道の途上。ちょっと小高い雑木林に身を伏せている二人組がいる。二人分の視線の先は、今道を進んでいる荷馬車だ。



「ねぇ」


「ふっ。おれ様に狙われたのが不運だったな」


 片割れがもう片方の独り合点に我慢しきれなくなった。


「ねぇ、お兄ちゃん」


「お、おまっ」


「んぐぐぐ」


 慌てて口を塞ぎながら、辺りをキョロキョロ。


「ばかやろう、〝お勤め〟の時はかしらと呼べと言っただろ」


 本人としては息を殺してしゃべっているつもりだろうけど、お兄ちゃんと問いかけするよりも大きい声だったぞ。


「んぐぐ」


 口を抑えられて苦しいのか、ぶるぶると首を動かす。


「いいか、お兄ちゃんじゃない。頭だぞ、か・し・ら・」


 うんうんとうなずく小さい顔。

 同意を確認して、口元を塞いでいた指はするりと包囲を解いた。


「ぷはーー。ねぇ頭。あのにばしゃだけど、ちっちゃいお婆さん一人だよ」


 車だと運転席にあたる位置は、馬車では御者台と呼ぶ。その御者台には、なるほど小柄なお婆さんが座っていた。


「ふっ。これだから女子供は困るんだよ」


「お兄ち、頭だって子供だよ」


 頬っぺたを押したり引っ張ったり。


ふぁしぃらぁ


「いいか、お勤めの時はおれたちは兄妹じゃない。おれは兄ちゃんじゃないし、お前も妹じゃないんだ。目的をはたすために女子供年寄りだって遠慮はしない」


 この二人、どうやら兄妹のようだ。


 それにしても荷馬車の襲撃をお勤めと自称する頭。それ、元ネタは……。


「うん」


「さっきの質問だけど、俺たちには、あのお婆さんくらいが手頃な標的なんだ。一頭立ては速度が遅いから逃げられないし護衛は不在。特別高価な品を運んでいないけど、貧乏そうじゃないから少しばかり盗まれたって困らない」


「ふーーん。でもお婆ちゃんが魔法とか使えたら?」


 腰帯に挿した短剣を抜く。


「その時は安心しろ。イザとなったら、これが物を言うぜ」


 一見すると果物ナイフ低度の小刀だったけど、その輝きは案外鋭く、オモチャのレベルではない。

 頭が刃先が反射する妖しい輝きに一人で得意気になっていると、素早いツッコミが来る。


「ねぇ短剣がしゃべったら怖いよ」


「こどもだなぁ。たとえだよ」


 さらに妹のおでこをペシペシと叩く。


「わたし、こどもだもん。でもさぁ、頭はものをいう短剣もっててへいき? ほんとうにお話する剣って聞いたことあるよ」


「……」


「頭は夜中に短剣がしゃべったり目を光らせているのに、オシッコしに起きられるの?」


 何事もなかったように鞘に納まる短剣。



「……短剣に物を言わせるのは、なしだ……」


「そうだね」




 こうして狙われていると知ってか知らないでか、お婆さんの荷馬車は兄妹が地面と密着している瘤のような場所を通り過ぎてゆく。


「よし、打ち合わせ通りだぞ」


「でも頭、〝とうちゃん〟はどうするの?」


 うなずく頭。


「〝とうちゃん〟は疲れているから休ませてあげよう。大丈夫、おれとミカ。二人だけで〝お勤め〟できるよな?」


「うん、ミカがんばるよ」



 さて。



 頭は荷物を最終確認する。

 妹に指摘されて出番を失った短剣以外にも、七つ道具のように重装備をしているから、遠目には立派な戦士あるいは本人の希望通り盗賊さんに映らなくもない。


「よし」


 二人同時に振り返って一言。


「行ってくるぜ、〝とうちゃん〟」


「待っててねーー」


 枝葉が揺れた。




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