3話「渡しもの」
「心当たりはないのか?」
春貴が奏人の顔を覗き込みながら言った。
「体育のときかも。」
奏人は、間を開けたあと顎に手を当て答えた。
春貴は思い出したのか前置きをしてから話す。
「あープールの時。」
「それ以外、外した記憶はない。」
「じゃあ更衣室言ってみるか。」
今は真夏を少し通り越した夏。この高校白丘高校には温室プールがあり9月中旬まで水泳の授業をやるそうだ。
男子更衣室に着く。
奏人と春樹は一つ一つのロッカーを開けたり閉めたり、床を睨みつけるようにみて回った。
「無いな。」
奏人が腰に手を当て一息はいてから答えた。
春貴はもう一度一つのロッカーを開けてから言った。
「誰かが見つけて持っていったとか。」
「親切な奴だといいけどな。」
「確かに。」
春貴は少し苦笑いをして答えた。
「まぁ、いったん教室戻るか。」
「いいのか?」
「いったんだいったん。」
奏人は、そう言い張ると更衣室から出て行った。
「誰が持ってる…?」
奏人には春貴が独り言を言ったのは聞こえはしない。
いきなりだった。同じクラスの女の子が俺を呼びたし、ある物を渡して来た。
「これ、どうしたの?」
奏人にリストバンドを渡して来た少女は何も言わない。
「これどこにあったの?」
奏人はまた問いてみた。けどまた答えてはくれない。
「君が見つけてくれたの?」
彼女は首を左右に振った。
「じゃあなんで君が持って来てくれたの?」
彼女は少し口を開いたけど声は出てこなかった。
「あー、宇佐美さんが三神くんのリストバンド盗んだのって本当だったんだ〜!」
彼女、宇佐美さんの後ろから何人ものの女子が現れて彼女達は話続けた。
「宇佐美さん物静かなのに最悪だねー。人のもの盗むなんて。」
「三神くんこの人最低じゃない?三神くんの大切なものとったんだよ?」
「本当なの?」
また、宇佐美さんにといてみる。彼女はまた左右に首を降る。
「この子愛想悪いよねー。なに言っても答えてくれないし私たちのことなめてんじゃない?」
女子たちは笑いながらいってくる。
「じゃあなんで盗んだ人がわざわざリストバンド返してくれるのかしら」
後ろから聞き慣れた声が聞こえた。
奏人の隣には朱莉が立っていた。
「朱莉。」
奏人が朱莉の名を呼ぶと宇佐美さんはなぜか朱莉の後ろに隠れる。
「何の恨みがあるか知らないけど、玲架はそんなことをする子じゃないよ。」
宇佐美 玲架それがこの彼女の名らしい。
朱莉は女子たちの前に立ち、続けて言った。
「私、あなた達が玲架を囲んで校舎裏で話してるの聞こえちゃた。」
からかい混じりの声。人を脅す時、朱莉がだす声色だ。
「何だっけー、そうそう。あなた達が奏人のリストバンド奪ったんだよね。そして玲架がちょうど聴いちゃだから玲架が盗んだことにしよう。的なことだっけ?」
「ちがっ!」
彼女達は後ずさりをする。
「けど、あなた達馬鹿だよね。玲架が奪ったりしたら普通返さないでしょ。」
「それは…」
「とにかく玲架に謝って!」
朱莉の声が廊下に響いた。
「っ!」
奏人達を通り過ぎる人達が奏人達をみる。
「フン」
彼女達は廊下で立ち止まる人達をみて奏人達の元から離れていった。
「玲架、大丈夫?」
朱莉が宇佐美さんに問いかける。彼女は頷く。
「そっか、良かった。けどこれから気をつけなちゃね。」
宇佐美さんは薄い笑みを見せてまた頷く。
「朱莉。宇佐美さんと仲いいの?」
「あー言ってなかったっけ?宇佐美 玲架。私の心友。」
「そんなんだ。俺、朱莉の幼なじみの三神 奏人。これから宜しく。」
宇佐美さんは頷いた。悲しげな顔をして。
「どうしたの?」
奏人はまた問いてみた。
宇佐美さんは手を動かした。
手話だった。
『宜しくお願いします。ごめんなさい。』
って。奏人は少しだけ手話は少しだけ知っていた。
少し前、朱莉が手話の練習をしてる所を奏人はよく見ていたから。
ごめんなさい。の意味が奏人には分からなかった。リストバンドの件は彼女が悪く無いのは分かったし謝られる事なんてあとはない。
「なんで謝るの?」
朱莉が玲架に、メモ帳とペンを渡す。
『ありがとう。』
そう宇佐美さんは言うと紙の上でペンを走らせた。
『リストバンド、三神くんの大切なものだったんだよね?』
『私が佐藤さん達より早く見つけてればこんな事にならなかったから…』
佐藤さん。きっとあの女子たちの中心人物だったのだろう。
なんとなくだけど、 この子はすぐ自分に責任を背負う子だと思う。多分責任感が強いって言葉じゃ駄目な気がする。
「宇佐美さんは悪くないよ。むしろこっちがごめん。」
宇佐美さんは首を横に傾けた。
なんで謝るの?って言ってるみたいに。
「そうだよ玲架!こいつがボーッとしてたのが悪いんだから!大切なものだったら肌身離さず持ってろ!って話だから」
「本当の事だけど扱いひでー」
「本当の事だもん。」
「そうですよ。俺が悪いです。」
ふふ。少しだけ、もしかしたら空耳かもしれないけど笑い声が聞こえた。柔らかくて可愛らしくて優しい声。
聞いたことないはずなのに聴いた事がある声__。