これらすべて
「あの、質問してもいいですか?」
何時ものようにサラサと先日実ったリンゴにお昼ご飯を振る舞いながらリーリエは言った。
「んー? 答えられる範囲でいいよー」
その問いにサラサは軽く答えつつ、リーリエの作ったサンドイッチを手に取り食べる。相変わらず、どう食べているのかはわからない。
「この畑、鳥とか虫とかに襲われたりしないんですか? こんなに色々実ってるのに……」
「ああ、それねー」
フィンスの広大になってしまった畑は、きちんと整備されており色とりどりの作物が実っている。通常の農家であればそこに何らかの対策をして、鳥や虫、その他動物などに実りを横取りされてしまわないようにするのだが、見たところこの畑には何もなされていない。確かにフィンスは不老不死のとんでもない魔王なのだが、だからといって鳥や虫がそれを理解しているわけがないだろう。魔族ですらフィンスに対して歯向かおうとするバカがいるのだ。
「この畑はフィンがきっちり管理してて、何か異物が来たら排除するようになってるよ」
「自動的に、ですか?」
「ん。こんな感じになるよ」
言ってサラサは小さな石を広い、空に向かって投げた。小さな石は一番高いところまで行くと、真っ直ぐに落ちてくる。その瞬間だった。
その石が落ちてくるほんの少しの空間だけ闇が広がり、音もなく石を飲み込む。そしてそのまま、石は帰ってこなかった。
「……まあ、こんな感じに」
「怖いですね!?」
「これが、ここの畑全部に張り巡らされてるから作物は安全だよー」
「…………」
物が触れた瞬間だけ、その部分だけ現れて確実に物を消し去る闇。それをこの広大な畑すべてに広がっているなんて、フィンスだからこそ成せた技だろう。この畑全部だけでも並みのものではいっぱいいっぱいなのに、それを常時発動なんてあり得ない。しかも、それをこなしつつ勇者の相手や通常の農作業など様々なことを行っているのだ。バカみたいな体力的魔力の持ち主であることがよくわかる。
「お、リーリエとサラサ。ここに居たんだな」
噂をすればなんとやら。バカみたいな体力的魔力の持ち主こと魔王フィンスが現れた。彼の両手にはそれぞれ皿があり、上にはパスタが乗っている。
「昼飯持ってきたぞ」
「あ……っ、すみません、その……」
「リーリエのサンドイッチあるよー?」
「おっ、食べていいのか?」
「え? あ、はい」
既に作っていると気まずそうに言おうとしたが遮られるリーリエ。それどころかフィンスは何を考えているのかリーリエが作ったサンドイッチを食べ、それから自分が持ってきたパスタに手を伸ばすのだった。
「……両方とも食べるんですか?」
「あ? まあな。農業やってるといくら食っても足りないんだよな」
「それはフィンが常にネットを張ってるからだよ」「あー」
確かにな、とフィンスはあっという間に自分が持ってきたパスタを一皿平らげた。
「食べないのか? 無くなるぞ」
「あっ、じゃあいただきます」
本当に無くなりそうだったので、リーリエは素直に頷きフィンスの隣に座った。この時点で、リーリエが作ったサンドイッチはほとんど無くなっている。
「あ……」
「どうした?」
「いえ、すごく美味しくて」
「そうか」
それはよかった、とフィンスは満足そうに笑った。
どうやら麺からこだわって作られたもののようで食感が違う。蒟蒻のようで、普通のパスタのような、うどんのような、そんな不思議な食感がする。パスタのソースには確実にフィンスがこの畑で作った野菜たちが混ざっている。バラオレンジの酸味がさっぱりとした後味で、いくらでも食べられそうだ。
「誰が作ったんでしょう……これのレシピを教えてほしいです……」
「あ? レシピ? いいぞ」
「え?」
ぽつりと呟いたリーリエに反応したのは勿論フィンス。そして「今度教えてやるよ」なんて言う。
「……え? このパスタ、フィンス様が……」
「じゃなかったらなんで俺が持ってくるんだよ」
「…………」
確かに、と思うと同時にフィンスの万能さにリーリエは絶句した。そして自分より遥かにフィンスの方が料理の腕前が上であるという事実に、密かにうちひしがれるのだった。