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新生活の始まり

 庭園に住むという事になってしまった二日後。

「リーリエ、今日からここがお前の家になるぞ!」

「…………」

 庭園に作られた小屋のような小ささの建物。しかしそこに物置のようなちゃっちさはなく、外見だけでいうなら小さな家だ。本当に家だ。

 赤い屋根に茶色い、木そのものを生かした壁。窓も玄関もしっかりあり、玄関の両脇にある丸太の柱には複雑な彫刻が施されている。

「まだ馴染んでなくて違和感があるが、いずれ苔と(つた)で馴染んでいくはずだぞ」

 予想を遥かに越えたものが出来てしまった驚きに声もでないリーリエを見て、納得がいっていないと解釈したフィンスは慌てて言う。そこじゃない、と突っ込む余裕などリーリエにはなかったのだが。

「えっと……これが、私の、家」

「そのつもりで作ったぞ……? 安心してくれ、家具類は手をつけてないからお前が好きなように出来るし、簡単だがキッチンもついてるからちゃんと生活できるぞ! あとは……あっ、すまん、風呂はついてないな……それだけは城のを使ってもらうことに……」

「誰がそこまでやれと言いましたか!」

 やっとのことで突っ込むことが出来たリーリエだが、その顔はどうしようもなく綻んでいた。使用人部屋よりずっと良い家を用意されて喜ばないわけがない。しかも庭園の中だ。植物に囲まれて景色も良好である。とても穏やかで、一部から憧れるような生活を送ることが出来そうだ。

「フィンス様、何故貴方はこんなことまで……農業が趣味じゃなかったんですか?」

「いやぁな? 人間には農業やら漁業やらなにやら色々出来るのがいるらしくてな……それを見習ってみようと思って家を……」

「貴方は何処へ向かってるんですか!」

「世界を一人で再建出来るようになりたいかなぁ……」

「滅ぶこと前提なんですか!?」

 しかし農業や建造などの技術では世界を再建するのにとても時間がかかりそうだ。魔王だというのに原始的すぎる。もっと魔法的な力とか使えないのだろうか。

「まあ、世界滅んだら作物が全部ダメになるから全力で阻止するけどな」

「頼もしいですね……」

 不老不死の魔王が世界滅亡を全力で阻止してくれる世界。彼が自暴自棄にならない限りこの世界は平和だろう。そのためにも、勇者に討伐されないことを祈るばかりだ。

「まあ、立ち話はここまでにして、一応内装も見てくれよ。壁も張り替えるつもりだぞ」

 言ってフィンスは玄関の扉を開けた。

 外壁と同じ、木そのものを生かした壁と床。明るく、シンプルだが可愛らしい雰囲気だ。奥にはフィンスが言っていた通りキッチンが用意されていて、風呂以外の水回りも完備されている。驚くべきなのはその広さで、キッチンがあるにも関わらず、ダイニングテーブルやソファ、ベッド等を置いても十分な広さがありそうな所だ。

「いやいやいや、中と外の大きさ噛み合ってませんよね!?」

「あー……うん、そこは魔王様マジック的な?」

「そこは魔法使うんかい!」

 しかも空間をいじっている。かなり高度な技だ。手作りの家の中を魔法で引き伸ばした感じなのだろうか。力を使うところが大分間違っている気がする。

「まぁ、いいです。その……ありがとうございます」

 ここで初めてリーリエは純粋な笑顔をフィンスに向けた。その花が咲いたような笑顔にフィンスは一瞬見とれる。

「ど、どうしたいきなり」

「いえ……色々言いたいことはありますが、でも、こうして私のために家を作ってくださったのが嬉しくて」

「……そうか。ならよかった」

 なんだかんだ喜んでくれたリーリエに、フィンスは安堵の表情を見せた。その力の抜けた笑顔は、魔王を気取っているときの凛々しい表情とかなりギャップがあり、一瞬リーリエはときめく。

 こんな農業バカに惚れてしまっては最後だと思うが、やはりイケメンは危険だとリーリエは自分に言い聞かせるのだった。


 その後、リーリエは城の自室にあった私物を可能な限り庭園の自宅(?)に運んだ。大きなものは頼んでもいないのにフィンスが運んでしまい大いに慌てたが、引っ越し作業は無事完了した。

「フィンス様、今日は一日色々とありがとうございました」

 自室にあったミニテーブルに向かい合って座り、リーリエは改めて礼を言った。それから、グラスにジュースを注ぎフィンスに差し出す。

「宜しければ、飲んでいってください」

 グラスの中のジュースはとても不思議な色をしていた。

 紺と水色で、まるで空のようなグラデーションを描く液体に、きらきら光る星のようなものが散りばめられたジュース。

「これは……?」

 見たこともないジュースにフィンスは首をかしげた。

「フィンス様が作ったホシクズと、空ソーダを混ぜたものです。ホシクズをジャムでしか見ることがなかったんですけど、ジュースでも綺麗かなと思いまして」

 空ソーダとは、時間によって空のように色が変わる炭酸水だ。味はなく、ジュースやリキュール等に混ぜられることが多い。今は日の暮れなので夜に近い色をしている。だからこそ、ここまでホシクズが際立っているのだ。

「……ふむ」

 それを一口飲むと、フィンスは急に険しい表情になった。それから深く何かを考え始め、黙りこむ。

「……リーリエ」

 数分たってようやく口を開いたフィンスの言葉はこれだった。

「サラサと同じようにお前の生活も保証しよう。だから、ここで俺と一緒に農業をやらないか? そんで、商品企画をやってくれ」

 フィンスの目はいつになく本気だったと言う。

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