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奇跡をこの手で

 リーリエの救命作業を始めてから二時間が経過した。

 魔力を注いでいるそばから魔力を失っていっている現象は未だ止まらず、リーリエの魔力が増えていく気配は一向にない。解決策は未だに見つかっていなかった。


「そ、そろそろ、俺……限界かも、しれないっす……」


 苦痛に顔を歪ませたユマが弱々しく呟いた。

 回復薬をがぶ飲みしながら魔力を奪われ続けて二時間。終わりの見えない苦痛にとうとう身体や精神が悲鳴を上げているようだ。


「おいウルティ、なんか思い浮かばないのか?」

「ずっと考えてるけど全然ダメ。減る量よりも増える量がもう少し増えて、リリーの中に留まる魔力があれば考えがあるんだけど……」

「……そうか」


 フィンスの質問にウルティはそう答える。一時間前からずっと眉間にシワが寄った状態で、今もなお打開策を考えてはいるようだ。

 しかしながら、どうしようもない。

 元々無茶なことをやっているので、どうしようもないことではあるのだ。かといって諦めるつもりは毛頭無いのだが。


「というか、リーリエさんからでてってる魔力ってどこいってるんすかね……? ほら、三人で相当の魔力量注ぎ込んで全部でてってるわけじゃないっすか」


 虚ろな瞳でユマが問う。身体はぐらりぐらりと揺れて、すぐにでも倒れてしまいそうだ。

 フィンスとラクリィにはもうそれを考えるだけの気力がないので、その質問にも必然的にウルティが答えることになる。

 ウルティは打開策を考えるのを一度やめて、ユマの質問について考えた。そして少ししてから結論が出たらしく、口を開いた。


「簡単に言えば、リリーからでてった魔力はこの辺りを漂ってるよ。霧散してるって言ってもいいね。そのまま空気に溶けていくのもあれば、地面に染みていくのもある……あ! あー……いや、今からじゃ無理があるか……」


 言いながら何か思いついたらしい。ウルティは勢いよく立ち上がったが、その後すぐに思い直してしょぼくれた表情でしおれるようにまた座った。

 ウルティの中で何がボツになったのか、気になりはしたのでフィンスは「考えだけ聞くぞ」とだけ言う。ウルティの中でボツになった時点で実行する気は無さそうだ。


「あー、あのね、リリーからでてった魔力はでてった直後ならこの家の中に漂ってるわけだから、それを外に出さずにまとめていられたら良かったのになって。で、それをもう一回リリーの中に入れられれば、純粋に魔力量が増えていくんじゃないかって。

 やろうと思えばこの家に結界かなんかを作って魔力が漏れないようにして、あとは一箇所に魔力を吸収してフィンの魔術でリリーの中に……って。でも今から結界は作れないなぁって」


 なるほど、とフィンスは渋い顔で頷いた。その方法なら、リーリエから出て行く魔力も上手く使って循環させ、回復することができたかもしれない。しかしながらウルティが言うように今更の話だ。今からやるには魔力を消費しすぎている。

 だが、ウルティの考えにサラサだけが「あ!」と、やや明るく声を上げた。


「ねえフィン! この家、フィンが空間をいじってるんだよね?」

「え? ああ、まあそうだが……」

「なら、この家はまるまるフィンの魔力で覆ってるんだから、ルゥが言ってる方法出来るんじゃないの?」

「!」


 そうか、とフィンスはハッとしたように顔を上げた。

 サラサの言う通り、このリーリエのために作った家は、外見よりも中を広くするためにフィンスが空間魔法をふんだんに使用している。それは常時発動しているわけで、言うなればこの家はフィンスの魔力で出来ているようなものなのだった。

 快適に過ごせるよう、外の環境にあまり左右されず、室内の魔力濃度などは一定に保たれている。だがそれは、魔力濃度を低くするために魔力を外に逃がしているのではなく、いざという時の蓄えとして空間魔法の一部となり蓄積されているのだった。

 つまり、今からでもウルティの考える方法は十二分に試すことができるのである。


「話はまとまったかの? なら、循環の為の魔術は妾が構築しよう。流石に妾とてこれは厳しいのでな……早いところリーリエには元気になってもらわねばならぬ」


 ゆらりとラクリィが立ち上がった。それから回復薬を二本持つと、豪快に二本とも胃に流し込んでいく。

 それからゆっくりと歩いて、部屋の中央に位置する柱の前に立ち、「これを使えば良いであろう」と呟いた。


「なんというか……流石我が弟というのかなんというか。空間魔法でお部屋を広げるなんて発想普通やらないよね」


 ウルティは衝撃の事実に苦笑していた。確かにそうだろう。部屋全体を覆って空間魔法を常時発動させるなんて芸当、相当の魔力量がなければ出来ない。しかもフィンスは自分の庭園(はたけ)も魔法で覆って保護しているので、普段から尋常じゃない量の魔力を消費しているのである。

 それに加えて今回はリーリエを助ける為にありったけの魔力を注ぎ続けている。馬鹿としか言いようがない。


「循環の魔法が完成したら、リリーには一気に魔力が流れ込んでいくことになると思う。もしかしたら肉体的に耐えきれないかもしれないから、これを使うよ。しばらくの間体力と魔力を回復し続ける薬。リリーの花が消えていったら成功だから──」


 深いため息をついてからウルティは一つの小瓶を取り出した。小瓶の中には当然のように液体が満たされている。深い青から薄黄緑までを描く美しいグラデーションの液体だ。

 魔力を奪われ続け、強制的に薬を飲ませ続け、薬を作り続け、部屋の中の全員が満身創痍だ。ウルティはそんな全員をぐるりと見回してから強がりともとれる笑みを浮かべた。


「──だから、自然の摂理ってやつに逆らってやろう」


 ラクリィが作った魔術の仕組みはこうだ。まず、正常な部屋の魔力濃度を設定しておいて、それを超える分だけ柱に収納していく。更にこの柱とリーリエを繋げ、収納された魔力がそのままリーリエに流れていくようにした。

 リーリエに直接周囲の魔力を吸収できる魔術を付与しなかったのは、事が解決した際に正しく解除できなかった時のことを危惧してのことだ。最悪の場合、周囲の魔力を奪い続ける歩く災害になりかねない。それに引き換え、家の柱であれば移動のしようがない上に、室内の魔力濃度を調整するだけなので、解除に失敗したとしても何も困ることはない。同じことをフィンスが常にやっているわけなのだから問題などあるはずがなかった。


「よし、できたぞ。あとは魔力の濃度が変われば良い」

「分かった。じゃあ早速魔力濃度の調整を解除するぞ」


 チョークを使って柱に魔法陣を描いていたラクリィが柱から離れて完成したことを告げた。それを受けてフィンスが部屋にかけている空間魔法の一部を解除する。すると急速に魔力濃度が上がっていくのがわかった。


「待ってフィン! そんな急に開放したら──」


 慌てたようなウルティの制止の声。だがそれは一歩遅く、一気に解放された濃密度の魔力は最早瘴気となって重たく五人に襲いかかり、五人は意識を失った。


「……きもちわるい……」


 一番最初に意識を取り戻したのはフィンスだった。さすが魔王と言うべきだろうか。

 室内の魔力濃度は元に戻っており、ラクリィの魔術がうまく機能している事がわかった。気を失った際にフィンスが組み立てた魔術の方は機能を失ったようだ。安心設計である。

 さて、肝心のリーリエといえば。


「花が減った……な?」


 明らかに花の量が減っていた。

 どこにどの花が咲いていたかなんてところまで覚えていたわけではないし、未だに手首やら腰やらから咲いてる花もあるので治ったというわけではない。しかし、一番衝撃的だった右目の花がなくなっていた。これは確実に花が減っていると言って良いだろう。

 つまるところ成功だ。

 心なしかリーリエの元に小さな光の粒が集まっているような気がするが、それはきっとリーリエが回復していっている証拠なのだろう。


「そうだ、薬を飲ませないといけないんだったか」


 ひとまず安心した後に、フィンスはやらなければならないことを思い出した。そしてまだ寝ているウルティの近くに置かれたままの小瓶を手に取り、またリーリエの元に戻る。

 だがフィンスにはサラサのように液体を操って他人に飲ませるなどという技は無い。そうなるとリーリエ自身に嚥下してもらう必要があるわけだが、意識が無い以上それは困難を極める。

 ウルティの予想が当たれば、リーリエの身体はこの魔力量に耐えきれない可能性がある。となると時間はあまり無い。


「う……」


 ここはサラサを無理矢理叩き起こしてリーリエに薬を飲ませるべきか? そう悩んでいると、小さな呻き声が聞こえてきた。その小さな声は後ろなど遠くからではなく一番近く。つまりリーリエから聞こえてきた。


「ッ! リーリエ!?」

「…………フィンス、さま……? ……うっ、」


 慌てて声をかける。すると確かにリーリエは反応をし、薄っすらとその目を開いた。それから苦しいのか苦悶の表情を浮かべる。


「悪いリーリエ、大変だと思うが今すぐこの薬を飲んでくれ!」


 これはいけない。内心で焦りながらもフィンスはやるべきことを考え、リーリエの身体を優しく抱き起こし支えながら小瓶をリーリエの口元に運んだ。ゆっくりと小瓶を傾ければ、リーリエは大人しくそれに従って少しずつ薬を飲み込んでいった。


「うーん……酷い目にあった…………」


 薬の量が半分を切った辺りでウルティが目を覚ました。気だるそうにしながら伸びをすると、起き上がったリーリエに気づき「リリー!」と叫びながら顔を輝かせた。が、すぐにその表情が引きつる。


「バカフィンッ! 今のリリーにそれを飲ませたら!」

「は?」


 足をもつれさせて殆ど転がりながらも弾丸のようにウルティは飛び出す。伸ばした手はフィンスがリーリエに飲ませている小瓶に向けられている。


()()()()()()()ッ!」


 誰も想定していなかった。

 二時間かけてリーリエに注ぎ続け、そして漏れ出ていた魔力がとんでもない量だったことを。


 フィンスは気付いていなかった。

 柱とリーリエを廻り続ける魔力が部屋全体に魔力の渦を作りつつあることを。


 ウルティは気付いてしまった。

 柱とリーリエ。そしてこの部屋の魔力が破裂目前の風船のようになっていることを。


 激しい閃光と爆発音。

 不運にもリーリエに薬を飲ませ切ってしまったがために魔力は無事暴発を迎え、全ては激しい光の中に包み込まれた。

 真っ白に塗り潰される世界の中で、フィンスは己の死を覚悟した。いくら不老不死になったとしても流石にこれは無理だろうと、そう思った。身体に特に痛みも衝撃もないのは、最早肉体が消滅してしまったからなんだと、本気でそう思った。


「……さま……フィンス様!」


 次に目が覚めると、目の前には心配そうに覗き込むリーリエの顔があった。思わず飛び起きてしまい、ベタにもリーリエに勢いよく頭突きをかます。

 しばらく二人で痛みに悶えた後で二人は向き合った。


「リーリエ、だよな? えっと……生きてるのか? それとも俺も死んだのか?」


 まずは確認。

 生きているのか死んでいるのか。何が起こったとか、何がどうなったとか細かいことは後回しだ。


「お陰様で、生きております。その……なんと言えばいいか分かりませんが本当にありがとうございました」


 恥ずかしそうにリーリエははにかんで、そして頭を下げた。

 頭をあげると「ただ」と言いにくそうにしながら問題があることを告げた。

 リーリエが生きているなら多少の問題なんてどうにかなるだろう。大きな問題を解決して楽観的な気分になったフィンスは、特に不安に思うわけでもなくリーリエの言葉の続きを待った。


「一度外に出ていただけますか? その方がすぐに分かるかと思いますので……」


 眉を下げて困惑の表情を浮かべるリーリエ。困った表情もいいなと漠然と考えながら、フィンスはリーリエの言葉に従って外に出るべく扉を開いた。そして固まった。

 目の前に広がる、絶景とも呼べる()()からの景色。扉の向こう側には巨大な木の枝のようなものが見える。一歩外に出てみれば気持ちのいい木漏れ日が差した。そして上を向いてみると、立派な枝振りの大木が目に入った──否、正しくは、()()()()()()()()()()()()で、上を向いて見えたのは傘のように広がった枝と葉の天井だった。


「どうやら、私の家が世界樹になってしまったようでして……」


 困り顔のリーリエは、心底困ったようにそう告げた。

 世界樹。

 伝説の樹であり、今はこの世に存在していないもの。

 少し前に聞いた情報を思い出しつつ、フィンスは信じられない周囲の風景を見回す。そしてあんぐりと口を開いた。


「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!?」


 魔王の絶叫が世界樹から響き渡った。

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