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質疑応答タイム

 若葉色のショートボブの髪。その左側に飾られる色とりどりの花。髪と同じ若葉色の瞳に、薄い黄緑色で透き通るような羽。そして白と黒のコントラストを描くメイド服。

 花の妖精であるメイド、リーリエには憧れの人物である、魔王フィンス・ヴァルツェと対面していた。

 庭園の中央、バラに囲まれたテラス。通常であれば王とメイドが対面するような場所ではないのだが、状況が状況であるため仕方なかった。それに、そこに座るよう指示したのはフィンスの方である。

「……さて」物々しい表情でフィンスは切り出した。「言い訳を、させてくれ」

「いえ、普通に真実を話してください。なにをしてらっしゃるのですか 」

 ぴしゃりと言い訳を拒否するリーリエ。かつて、憧れの人物を相手にこんな物言いをしたメイドがいただろうが。

「何って……見ての通り、作物と心を通わせ、対話をし、そして作物の成長を喜び、その恩恵に与っている……まあ、ざっくり言えば農業だ」

「急に開き直らないでください」

 テンションの移り変わりが激しい魔王である。

「それにしても、何故貴方というお方が……魔王ですよね?」

「まあ、魔王と呼ばれてるな」

「では何故農業を?」

「趣味だからだな」

「…………」

 趣味が農業で何が悪いのかと語る三白眼に見つめられ、リーリエは言葉に詰まった。こうしてみると、本当に見た目はいい男なのだが中身が残念だと今更ながら気付かされる。

「むしろ、俺は最初から農業をしてて、そのうち周りから魔王とか言われて祭り上げられたんだ」

「そうなんですか!?」

「作物が心配だから不老不死になったしな」

「そんな理由でッ!?」

 リーリエの驚きと突っ込みが止まらない。

 リーリエの驚きは、不老不死になった理由が下らないというところから来ていたのだが、フィンスはそれをどう解釈したのか無駄に誇らしげな顔で語る。

「俺がやらなきゃコイツらの世話は誰がやるんだってな」

「あ……はい……」

「その顔は俺がしょうもないものを作ってるって顔だな? 聞いて驚くなよ、この城の食事にちょいちょい俺の子らが出てるからな」

「何時の間に!」

 最早作物を俺の子と呼び始めたフィンスは置いといて、リーリエは魔王産の作物が混ぜ込まれていたところに驚愕した。いくら思い返してみても、品質のいい食材を集めた中に悪いものがあった記憶はない。つまり、魔王の作った作物はそれなりの品質を誇るということである。

「でも……本当に何故、農業を? 魔王である貴方が……」

「それな。そこからまず違うんだよ。俺元々魔王じゃねぇし、魔王になる前から農業やってっから」

「まさかの逆!」

「畑の近くで暴れてるアホ共が邪魔でな。畑を荒らされかねなかったからちょっとシメたんだよ。そしたら芋づる式に変なのが沸いてきてなー……なんだよあいつら、蟻か蜂かよってな」

 怖いのなんの、とフィンスは笑う。リーリエは心の中で怖いのはお前だ、と思ったが、魔王になれるだけの実力があるのだから何も言えなかった。怖くて強いから魔王になったのだ。恐らく、怖い理由の半分がその三白眼なのだが。

「フィンは作物への愛が凄まじいんだよ」

 作業を終えたらしいサラサがテラスまでやってきて笑いながら言う。パッと見、ただの布と黒い何かなのにちゃんと笑っているように見えるのだから不思議だ。いや、そうではなくて。

「凄まじいってレベルではないですよね……? その為に永遠を生きるとか……」

「それは思うよ。不老不死になったお陰で人間に目をつけられちゃったからね。今日も勇者が来てたでしょ?」

「ああ……はい、殴ってましたね……」

 素手で。勇者と魔王が。何度思い返しても異様な光景である。

「今の勇者はちょっと頭おかしいんだよなぁ……あいつ絶対世界平和とか考えてないぞ」

「フィンのことが好きなんだよ」

「あんなバカ願い下げだ。部下にもしてやらん」

 正直そもそも部下が要らない、とは言わない辺りフィンスの優しさが伺えた。部下が増えて目立っていることも人間に敵視され作物の平和が脅かされる原因のはずなのだが。

「それにしても、お二人は仲が宜しいですね……? あの、サラサ様はどういったご関係なのですか……?」

 驚くことばかりで疲れてきたリーリエは、農業に関する質問をやめ、気になったことを訊くことにした。

 そう。リーリエにとって、サラサの存在が不思議すぎるのである。サラサは庭園から出ることがほとんどないため、その存在すら知ることがなかったのだ。

「フィンは主君だよ。君と同じで主と部下の関係だよ」

「サラサはここの水やりをしてくれてるんだ。一応部下という扱いだしこいつを養っているのは間違いなく俺だが、まあ、農業仲間みたいな感覚だな。親友でもいいぞ」

「じゃあ部下やめて親友になるよ」

「本当か!」

 サラサの一言にフィンスは心の底から嬉しそうな顔をした。手塩をかけて育てた野菜が見事な出来映えになった時ぐらい嬉しそうな顔をしていた。或いは、自分が作った作物が目の前で食べられ、美味いと言われたときぐらいいい顔をしていた。

「いやぁ、本当はサラサにも不老不死になってもらって俺と一緒にやってってほしいんだけどな」

「それは流石にダメだね。不老不死は魔王の役目だよ」

「やっぱだめかー。心変わりしたら何時でも言ってくれよ?」

「あいあいさー」

 ほのぼのとした空気で語り合う二人。そんな簡単に不老不死になれるものなのかとか、不老不死になっても目的は農業かよとか突っ込みたいところは色々とあったが、リーリエが一番言いたいのはただひとつだけ。

「なにこれゆっる」

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