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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
7 冒険者たちの躍進
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95 旅立ちの時 前編

 古都ナウキの西門は、ロピア大洞掘へと向かうプレイヤーでごった返していた。その数五十七人。パーティーにするとなんと十組にもなる大人数だ。


「予想以上の人数ね」

「帝国とのごたごたがまだ当分続きそうだから、それを嫌ってロピアの方に行こうとする人も多いみたい」


 てっきり多くてもこの半数程度だろうと思っていた私が思わず漏らした呟きに、ジュンちゃんが答えてくれた。

 急にイベントが発生して強制的に狩場から追い出される――特に派閥同士の争いが激しい南部に多い――なんてことも起きているらしいし、それなら「いっそのこと新天地へ!」と考える人もいるでしょうね。


「レベルは大丈夫なの?確か、ロピアの方が強い魔物が出るように設定されているんでしょう?」

「そこは覚悟の上よ。それに格上の相手にパーティーで挑んだ方が、経験値が美味しいこともあるから、望むところっていう人もいると思うよ」


 そうなんだ?まあ、なんにしても私ほど低レベルなプレイヤーはいないだろうけどね。


「そういえば通行規制ってどうなっているの?」


 包囲状の完全封鎖ではなくなったものの、次期皇帝争いへの参戦を表明したことで、南部とは交流が断絶したままになっている。

 ちなみに情報に関しては、外部リンクは全て解放され、掲示板等の使用可能となった。ただし、敵対勢力圏内にいるプレイヤーとの直接のメールのやり取りだけはできなくなっている。


「こちらからロピア大洞掘に向かう分には解放されているらしいよ。無理に抑え込むよりも、外に流出させた方がこちらの戦力低下になるって考えているみたい。その分、こっちに戻ってくるのが難しくなっているって話よ」


「なるほど。大規模イベントの時にはプレイヤーにしてやられた訳だから、いなくなるというなら協力するってことね」


 実際は三つの領に協力する形なので、プレイヤーを始めとした冒険者は主力ではなくなっているのだけれど。その辺りはユージロたちや皇帝の配下たちが情報操作をしているのだろう。


「それでも襲われる可能性がないとは言い切れないから、こんな大人数になったんだけど」


 大洞掘同士をつなぐ通路は細くて暗い。今は『神殿』が管理をしているということだけど、彼らの監視を掻い潜って帝国の敵対派閥だけじゃなく、『闇ギルド』なども刺客を差し向けてくるかもしれない。そう考えると大人数にならざるを得ないのだ。


 さらにここにいる私たちの一隊だけではなく、南門から別ルートでロピア大洞掘への関所を目指す一団に、東門から『神国』を目指す一行も、ほぼ同時刻に出発する予定となっている。

 同時に行動を起こすことで襲われる確率を減らそうという狙いね。


「いざという時のために戦力は多めに見積もっているんだから、きっと返り討ちにしてくれるでしょう」

「メイプルさん、そんな他人事みたいに……」

「七レベルの私に何を期待しているのよ。私は皆にしっかりと守ってもらうつもりだから!」


 後方から魔法を放つくらいはしてもいいけど。ダメージ自体はお察しでも、牽制にはなるだろうから。そうやっておけば多少の経験値にもなるしね。


「それにしても……、まだ出発しないの?かれこれ全員が集まってから三十分になるわよ?」

「うーん、多分他のグループの準備が遅れているんじゃないかしら」

「集合時刻には遅れないようにして欲しいものね」

「いやいや、そうじゃなくてね。ほら、今回の計画では、大きめのギルドには軒並み声をかけているから。中にはあまり仲の良くないギルド同士もあったりするから、その調整に手間取っているんじゃないかな」


 あー、つまり「俺がリーダーをやる」、「いやリーダーは俺だ」なんていう子どもじみたことをやっている人がいるのか。


「私たちのグループにはあの人がいたから、そういう問題も起きなかったけど」


 ジュンちゃんが視線を向けた先にいたのは、私よりも小柄な女性プレイヤーだった。


「えっと、有名な人?」

「『料理研究会』ギルド長の多恵さんよ。知らない?」

「どこかで見かけたことがあるような……。思い出した!大規模イベントの時に皇帝相手に啖呵切って周りを盛り上げてくれた人ね!」

「そうそう。あれのお陰で、いい感じに戦闘に入ることができたのよ」


 私も乗せられてしまい、南門外まで走っていったのだけど、そこでふと冷静になって「このまま戦場に出たら死んじゃうわ」ということに気付き、救護室で怪我人の回復にまわることになったのだった。


「あれだけのリーダーシップがある人がいるなら安心して旅ができそうね」

「あ、でもあの人、料理人だから戦闘の方はさっぱりよ」


 私よりも戦闘では役に立ちそうにない人がいた!?


「今回は戦闘能力の低い生産職にとってもロピア大洞掘に行けるチャンスだから。多分、半数くらいは生産職じゃないかな。その中で私並みに戦えるのは……、その半分くらいになりそうね」


 つまり、私や多恵さんを含めて十五人くらいは戦力にならない、と。

 全体の約四分の一かあ……。急に心配になってまいりましたよ!?


 補足だけど、ジュンちゃんの戦闘能力は、アイテムが揃っていることが前提にはなるけれど、かなり高い。

 投擲(とうてき)技能によってぶつけられる自前の薬品類は、一言でいうならえげつない。毒や麻痺なんて序の口で、混乱や中毒、昏睡に陶酔などなどなどなど。状態異常に関しては上げていけばきりがないほどだ。

 もちろん純粋にダメージを与える薬品などもあり、絶対にPvPをしたくない相手の一人と言える。


 生産職であっても、そんなジュンちゃん並みに戦える人が十五人はいるというのは、果たして安心できるのかどうなのか、私には判断がつかなかった。


「行くのはいいとして、帰りはどうするつもりなんだろう?さっきの話だと規制されているのよね?」

「そこはほら、大ギルドのマスターなんだから、大金を積んで、転移門で一気に遠距離を移動!とかじゃないかな。コネとかもありそうだし、特例で通してもらえるっていう展開かも?」


 ファンタジーな世界観とはいえ、しょせんこの世は金次第なの?せ、世知辛い……。

 そんな感じで私たちが暇つぶしを兼ねて様々なことを考察していると、


「はーい、それじゃあロピア大洞掘に行く人たちは集まって!今からパーティー分けをするよ」


 集合するように声がかかった。なんだか遠足とか修学旅行の班決めみたいなノリに聞こえたのは私だけだろうか?

 そして、その呼びかけを行ったのは『料理研究会』のギルド長でもある多恵さんだった。


旅立ち、ませんでした(汗)。

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