90 いけいけ!ぼくらのへんきょうけいびたい!
トスドノに着いてから三日、とある計画のために僕たちは情報収集にやら何やらにいそしんでいた。その計画というのが、『嫌われ者の辺境警備隊を突撃させて敵の罠を発見アンド発動させてついでに壊滅させちゃおう』というものだった。
早い話が、辺境警備隊を焚き付けて直轄地に仕掛けられているはずの罠に――僕たちの代わりに――かかってもらおうということだ。
ひどい?ところが、そのくらいの罰を受けてしかるべきことを彼らは常日頃からやっていたのだ。気分が滅入ってきそうになるので詳しい罪状の説明はしないけど、見かけたら問答無用で殴りかかってやりたくなるくらいの悪党どもだったとだけ言っておく。
ああ、ナウキに帰りたい。そしてミラさんに会って癒されたい……。
コホン。話を戻そう。
そうやって安全が確保できたのを見計らって、試練の地へと挑もうということになったのだ。もちろん計画に穴がある――しかもたくさん――のは百も承知だ。
それでも、どこに罠があるのか分からないという不安を抱えたままで襲撃者と戦うよりはよほどマシというものだ。
その直轄地に潜む襲撃者たちだけど、かなりの数になることが分かってきた。ただしバックスさんの予想とは違い、その情報は町長の私兵――様々な事情で一線を退いた兵士たちの再就職先として、割と一般的らしい――からもたらされた。
辺境警備隊のやつらはここ数か月の間は町の外にすら出ておらず、ほぼ毎日のように飲んだくれては騒ぎを起こしていたのだそうだ。「酒代分の情報すら持っていないとは、本当に使えない連中だな」冗談めかして言っていたけれど、あれは割と本気で怒っていたね。
まあ、これが決め手となって彼らを生け贄、もとい囮、でもなく、先発隊として起用することが決まったのだから、自業自得、因果応報ということになる。
さて、町長たちから色々と情報を引き出し、協力体制を確立したのはアルスの部下であるハリューさんたち三人の功績だ。ほとんど無法者のような態度の辺境警備隊には町長たち町の有力者も手を焼いていたのだとか。
分かり易く言うと片や警察、片や軍という違いがあり、取り締まろうにもこの違いを理由にのらりくらりと逃げられていたそうだ。
そうした事情もあって今度の作戦には諸手を挙げて賛成してくれたらしい。
そしてこうした末端組織の規律の乱れを目の当たりにしたアルスは早急に改革案――粛清ともいう――を練り上げていた。
「他の領の手前、最前線に投入せざるを得ない兵士を選定する手間が省けた」と冗談とも本気ともとれる台詞を口にしていた。
一方、僕やゼロたちは何をしていたのかというと、町の人たちと仲良くなるために、お手伝い系のクエストを片っ端から受けて回っていた。
着いて早々に辺境警備隊の連中に絡まれるのを見られていたのも幸いして、比較的簡単に信頼を得ることができた。
もちろんこれは目的達成のための準備段階に過ぎない。僕たちの本当の目的は、町へとやってくる襲撃者たちの買い出し係を仕留めることにあった。
アイテムボックスを持っているのでリアルの兵糧攻めほどの効果は見込めないけど、徐々に食料や物資が減っていくのは精神的にきついものがある。ついでに襲撃者自体の数も減らせて一石二鳥という訳だ。
そんな風に自分たちの役割をこなすことさらに二日、向こうも焦れてきた頃合いだろうというところで、いよいよ僕たちは計画を実行に移すことにした。
「何だと!?領主の坊主の成功の裏には隠し金があっただと!?」
「しぃ!声が大きいぞ!……たかだか十歳そこそこのガキの政策が上手くいくなんておかしいとは思わなかったか?その金を使って色々な部署の役人を買収していたのさ」
という偽情報を辺境警備隊に吹き込むために、僕はバックスさんと一緒に『酔い奴隷亭』へと来ていた。その内装などについては――僕の精神衛生上――割愛させてもらうよ。
「それで、どうして俺たちにそんな話をした?」
「おいおい、とぼけるなよ。もう分かっているんだろう、その金がどこに隠してあるのかって話だ」
男たちの目が鋭いものへと変わっていく。とはいっても欲で曇り始めているので、視界の悪さは相変わらずというところだろう。
「……直轄地か」
「その通りだ。なんでも昔々の皇帝様が隠したものらしい。あのガキ、今回は皇帝になるための試練を受けるっていう大義名分があるから、大手を振って取りに行けると思っていたみたいだな」
「これが隠されている場所を記したものです」
取り出した手書きの地図には十数か所に印が付けられていた。
「これ以外にも、あいつらの話によると至る所に隠してあるらしい」
罠が、だけどね。
「へへへ。いいぜ、その話乗ってやる」
既に金のことで頭が一杯になっているのだろう男たちの顔ははしたなく緩んでいた。
「そう言ってくれると思っていたぜ。それでこちらの予定だが、明日の昼前には町を出て直轄地に入ることになっている」
「それなら、明日の朝一番に出れば十分に出し抜くことができるな」
「朝からか?いくら何でも全部を回るのは厳しくはないか?」
僕たちの前にいるのは十人にも満たない数だ。わずか数時間で印をつけた場所を回し切るのは至難の業だ。
「はっ。こういう調査こそ俺たち辺境警備隊の出番だからな。残った仲間もたたき起こして総出で向かってやるよ」
普通は分け前とかがあるから、できるだけ少人数で動こうとするものだと思うんだけど、地図に多数の印が付けられているから、十分に稼げると踏んだみたいだ。
それでも、もっともっとと欲が出てきて仲間割れというのが物語にありがちなパターンではあるよね。まあ、今回の場合は元からそんな財宝自体がないのだけど。
それに、こいつらを壊滅させることも目的の一つだから、全員で向かってくれるというならそれに越したことはない。
「頼もしいな。それで報酬の件だが――」
「俺たちが九、お前らが一だ」
オーウ、スッゴイゴウツクバリデスネー。
「おいおい、それはないだろう。話を持ってきたのは俺たちだぞ。半分とは言わないが、せめて三は回してくれ」
「ダメだな。それとも今死んで零になる方がいいのか?」
「分かった分かった。一でいい。だから殺すのは勘弁してくれ」
脅し文句にバックスさんが両手を上げる。何となくならった方が良い気がしたので僕も手を上げておいた。
「分かればいいんだよ。それじゃあ明日の夜にまたここに来な」
補足だけど、『光雲』で一日中同じ明るさではあるけれど、一応昼夜や朝夕といった区切りは存在する。プレイヤーがリアルとの違いを一番感じる部分でもある。
「頼んだぜ」
後ろから襲われないように警戒しながら外に出た途端、大爆笑が巻き起こっていた。終始弱気な態度をとっていた僕たちのことをバカにしているようだ。安普請の酒場だから中の会話が丸聞こえだ。
「上手くいったようですね」
外で別の者に聞かれないように警戒してくれていたハリューさんと、少し離れた場所で合流する。
「ああ。面白いほど上手く釣られてくれたぜ」
ニヤリと笑いあう僕たち。細工は流々仕上げを御覧じろ、ってとこだね。
へんきょうけいびたい、略してへんたいですね(笑)。
そして直接手を下すわけではないことと、彼らの素行が悪かったこともあるので、マイナスの称号などはついたりしません。
それと、最後の『細工は流々仕上げを御覧じろ』という言葉は、いつか使ってみたいと思っていたものの一つです。
ルビは僕の解釈なので、正式なものとは少し異なるかもしれません。




