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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
7 冒険者たちの躍進
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88 策謀の搦め手

「こら。まだ潜んでいる敵がいるかもしれないから、油断しないように」


 襲撃しようとしていた敵を倒して浮かれているゼロたちに注意する。特に、ゼロとカズキは必殺技――技の名前を叫ぶのはロマンです――まで繰り出していたので、いつも以上にテンションが高くなっていた。

 魔物相手であれば問題ないのだけれど、複数を相手にした対人戦の場合はこのタイミングが一番危険な時でもある。

 『闇ギルド』に代表されるPKギルドや非合法ギルドの連中だと、他のパーティーを囮にするということを平気でやってくるからだ。勝って気が緩んでいるところを、後ろからブスリとやるわけだね。


 ゼロたちもそうした一通りのことはバックスさんから教わっているはずなのだけど、時々こうしてそれが頭から抜けてしまうことがあるみたいだ。

 こればっかりは実際に痛い目に会って身に沁みないと難しいのかもしれない。余談だけど、僕はほとんどソロで通してきたために、戦闘終了と同時に周囲の警戒をするのが癖になってしまっていた。


「バックス殿が相手をしたあの大盾使い以外は、大した実力ではなかったように見えました」

「寄せ集めで急造した一団だったのか?」

「それで間違いないと思われます。故に互いに連携取った集団戦ではなく、個人戦の延長となる形で包囲戦を挑んできたのではないかと考えられます」


 一方、アルスと二人の配下は、さっきの襲撃について話し合っていた。確かにせっかくの六人フルメンバーのパーティーだったのに、全く連携を取ろうという様子が見られなかった。そして同時に、仲間がやられたことに何の関心も示していなかったことから、彼らの予想は正しいのではないかと思う。

 それにしても、アルスって本当にゼロたちと同年代なの?僕なんかよりもよほど落ち着いているように見えるんだけど……。


「どこの一派の差し金かは知らないが、様子見に警告、時間稼ぎと様々な思惑が絡んでいたんだろう」


 そこへ周囲の確認にでていたバックスさんとハリューさんが帰ってきた。


「追加戦力も魔物の影もありませんでした」

「そうか、ご苦労。それで、今挙げた三つの中で、向こうが一番重要視していたのはどれになると思う?」

「なんといっても時間稼ぎでしょう。我々が立ち止まっている時間が長ければ長いほど、あちらの本隊が追い着き易くなるのですから」

「やはり狙いはそこになるか……」

「はい。何分アルス様がこれから赴くのは最果ての地。不慮の事故が起こっても不思議はないと考える者ばかりでしょう」


 随分と悪意にまみれた不慮の事故があったもんだ。


「大丈夫だって!どんな敵だって俺たちがやっつけてやるよ!」

「そうそう!泥船に乗ったつもりでいてくれていいぜ!」

「泥船だと沈んじゃうから!それを言うなら大船だから!」


 能天気ともいえる底抜けの明るさと気楽さでゼロたちが会話に飛び込んでくると、張り詰めていたアルスの表情がふっと緩んだ。

 狙ってやっているのなら大したものだけど、どうもその気配は薄そうだ。多分、友人の不安を本能的に察知したのだろう。この子たちにはそういう敏感な嗅覚が備わっているように感じられる。

 ただし、泥船と大船のくだりはボケとツッコミではなくて素だ。リアルでも勉強も、もう少し頑張りましょう。


 何はともあれ、気分転換もできた僕らは、目的地である皇帝となるための試練の地へ向けての歩みを再開させた。

 だけど、この試練というのもあやふやだ。ナウキにいる現皇帝いわく、皇帝となるべき者の資質を問うもので、どんなものになるのかは当人次第だというのだ。


 しかもアルスの場合、現在向かっている大洞掘北西端のものを含めて三つも試練をクリアしなくてはいけないらしい。血筋としては問題ないけれど、皇帝の一族として育てられてきたわけじゃない。

 言ってみれば、流行り病や政争によって皇帝一族が途絶えた時のための保険といった意味合いが強かった。アルスの母がズウォー領という帝都から遠く離れた地に降嫁したのは、そういう点もあってのことだった。

 そのズウォー領で起きた流行り病でアルスを除く領主一族が死に絶えてしまった――運営さん、彼の背景きつ過ぎない?――のは皮肉な話だけど。

 そういう裏事情から、権力争いを始めたあの連中よりもよりも優れていることを証明する必要があるという訳。


 なのだけど、聞けばあの大規模イベントの時に、アルスはレベル四のゼロと同等の戦いを繰り広げたそうだ。あれから約二か月、領主の彼が鍛錬にそれほど多くの時間を割くことができたとは思えない。だから、もしも個人の武力を図るような試練だったとしたら……。はっきり言って絶望的だ。

 反対に、政治力や統治能力、判断力に指揮能力などはかなり高い――それこそ、現皇帝が次期皇帝にと推すくらい――ので、そっち系統の試練なら、まず失敗することはないはずだ。

 もしも試練の内容がランダムで決まるのだとしたら、後は彼の運に期待ということになりそう。休憩中に、稽古と称してゼロたちと一緒になってチャンチャンバラバラと遊んでいる――本人たちいわく稽古とのこと――アルスの姿を見ていると、それが一番成功する確率が高いように思えた。




 そして最初の襲撃から三日が経った。あれ以来一度の待ち伏せも襲撃もなく、旅は順調に進んではいた。しかし、それまで以上に周囲の警戒に気を配っていたため、その速度は落ちてしまった。心理的な圧迫感もかなり強く、今日などはゼロたちですら口を開こうとしない有様だ。


「この分だと、トスドノに着くのは数日後ということになりそうだな……」


 その姿を見て、アルスが心配そうに呟く。当初の予定では、トスドノには今日到着するはずだった。そして一日準備と休養の日を挟んで明後日には直轄地に入るつもりでいた。


「仕方ない。不用意に進んで背後から襲われたり、罠に嵌められたりするよりはマシだ」


 バックスさんの言う通り、なのだけど、どうにも気に食わない。ここにきて、何か大きな見落としをしているような、思い違いをしているような気がしてならなかった。


「こうして我々が消耗することが狙いだったのかもしれませんな」


 ハリューさんの言葉がストンと僕の中に入ってきた。


「つまり我らは、知らず知らずのうちに相手の策に落ちていたのかもしれない、ということですか!?」


 本人にそのつもりはなかったのだろうが、アルス配下の一人が出した声は悲痛に満ちていた。

そしてそれは疲労となって周りに広がっていった。

 アルス、そしてゼロたちが次々と膝から崩れ落ちていったのだ。


「アルス様!?大丈夫ですか?」

「……ああ、平気だ。少し目まいがしただけだ……」


 かろうじて倒れ込む直前で抱き留めたハリューさんが心配そうに覗き込むと、アルスは青い顔をしていた。とてもじゃないけど、平気なようには見えない。ゼロたち六人も同様だ。いや、空元気が出せない分、深刻かもしれない。


「少し休憩にしよう。ハリューさん、俺とロヴィンで周りを見回ってきますので皆のことを頼みます」

「分かりました。我々の予想が正しいとするならば危険はないはずですが……、お気をつけて」


 その台詞に複雑な思いになりながら、道から外れて木立の生い茂る小さな林へと足を踏み入れていく。


「すまない、向こうの意図を読み切れなかった俺の責任だ」

「それを言うなら僕もですよ。それに、ハリューさんだって気が付かなかったんですから、思い詰めないで下さい」


 僕の言葉にバックスさんはゆっくりと首を横に振った。


「いや、そうじゃない。それだけじゃなくこの展開にはもう一つ、隠された意味があるんだ」

「隠された意味?」

「ああ。ありもしない襲撃に対して、俺たちはどうなった?」


 警戒しすぎて、その緊張感から自滅してしまった。しかし、バックスさんが言いたいのはそれじゃないはずだ。襲撃を警戒して僕らは


「移動速度が落ちた」

「そうだ。つまり、襲撃を企む連中に準備をする時間を与えてしまったんだ」


必殺技を叫ぶのはロマンなんです!


ちなみにゼロの方が『エターナルクラッシュ!(暫定)』で、カズキの方が『翔・滅・斬!(仮)』です。


どちらも今考えました(笑)。

ちゃんと中二病っぽくなっているでしょうか?

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