二 大規模イベントの裏側
第三期のプレイヤーの加入もあり、祭りの真っ最中である古都ナウキの大通りは大勢の人でごった返していた。そしてそんな人々を見下ろす二人の姿があった。
「盛況、盛況。本当に今回のプレイヤーたちはこういうイベントごとを企画して、こなすのが上手いわねー。リアルでイベントプロデュース業をしている人間が、何人か混じっているんじゃないの?」
「その可能性は否定できないわ。特にラーメン騒動の時に中心で動いていた『二大美食ギルド』の幹部辺りに、そういった経験者が含まれているような気がする」
フッと、景色が移り変わったかと思うと、二人は活気のある声が響く屋台通りの上に来ていた。
「あー。あそこね。私はテイマーギルドのみなみちゃんとか怪しいと思うけどね。まあ、あの人たちだけじゃなく、規模が大きめのギルドの幹部の人たちはリアルで何をしているのか、気になる部分はあるわよね。半端ない人心掌握術とか持っている人もいるし」
「こらこら。お客様のプライベートを探るようなことはしちゃいけないわよ」
本当にやりかねない相方に釘を刺しておく。
「ちょっと、いくら私でもそんなことはしな――」
「絶対にやらないって誓える?」
「……人間魔が差しちゃうってこともあるよねー」
「やっぱりやりかねないんじゃない……。あのね、一歩間違えなくても完全に犯罪なんだからね!魔が差しそうになったら誰かに言って止めてもらいなさいよ」
「わ、分かっているわよ。……っていうか冗談だからね!?やらないよ!?」
長年の付き合いという気安さもあって、二人はじゃれあいながらナウキの至る所を飛び回っていた。
誰一人、地上にいる人たちからは気が付かれないままに。
「東門の戦闘開始。誘導通りプレイヤー、NPCともに神殿騎士が来ている。大半はレベル十五から二十のプレイヤーだが、全滅はないだろう」
「南門はレベルの高いプレイヤーがそろってしまったな。対抗措置のPKとイリーガルギルドの参入を早めることにする」
「西門は……、うわ!魔女レイの主力メンバーが揃ってる!?……これは一方的になりそう。マジで悪魔召喚も使わないといけないかな」
「北門もダメそうよ。こっちには『わんダー・テイみゃー』の主力がいるわ。第三期の低レベルな子もちらほらいるようだけど、戦況が覆ることはないでしょうね。その分、隠しイベントには気付かれない可能性が高いわ」
とあるビルの一室で、数人の男女がモニター越しに状況を確認していた。
今は『アイなき世界』での初の大規模イベントが始まったところだ。できるだけ不備やミス、バグは取り除いてきたけれど、プレイヤーという不確定要素が混ざるとどう転がるかはつかめなくなる。
極端な状態に陥らないように、適宜手を入れてやる必要があるかもしれないのだ。
「まずい!帝国軍が転移の魔法具を持っていることがバレた!伝達役が伝え始めている!」
「伝達きた!情報拡散中!」
「やばいなあ。これで容赦も油断も何もかもがなくなるかもしれない」
「その予想当たり。こっちではテイムモンスターが一気に解き放たれたわ。……触れ合い動物ランドみたいになっちゃった。猛獣だけど」
「なにそれ怖い」
対人戦ということで、プレイヤーが攻撃を躊躇ってしまうかもしれないという予想は早くから上がっていた。その救護策として相手が死なずに逃げる魔道具を持たせることにしたのだが……、効果があり過ぎたようだ。帝国軍がやられていくスピードが目に見えて早くなった。
「防衛戦になるって予測されていたのが痛いな」
「それを言うなら、こっちのほとんどが低レベルで構成されているってばらしてしまったのも大きなミスよ」
「その辺は次回の課題ということにしよ。まだ隠しイベントも見つかってないことだし……。って嘘でしょ!?」
「どうしたの!?」
「西門の悪魔召喚士が……、やられちゃった」
「もう前線に出していたのか?」
「いいえ。陣からは出ていたけど、最後尾にいたわ。ちょっと待ってね、今データの確認をしてるから……。でた!はあ!?矢が飛んできたあ!?めちゃくちゃ遠距離じゃないの!どんなプレイヤースキルしてるのよこの子!?」
敵味方合わせても数百人程度などで、それほど離れてはいなかったとはいえ、それでも距離にしておよそ八百メートル。
通常では考えられない飛距離と精度だった。
「ロヴィン?確かそのプレイヤー、無限弾の発見者だぞ」
そしてそれをやってのけたのは要注意プレイヤーの一人だった。
彼らの言う要注意とは一般的に用いられている危険人物という意味合いではなく、注視しておく必要があるというものだ。
それというのも『アイなき世界』では行動によってNPCからの好感度や名声値とでもいうべき隠し数値が変動するようになっている。そしてそれらが一定以上になると、そのプレイヤーの近辺でイベント等が発生し易くなるのである。
リュカリュカなどはその最たる例と言えるのであるが、今回の大規模イベントでも彼女はやらかしていた。
「どうしてこの子だけが対応できているの!?」
アルスの暗殺を阻止したのだ。
「他のプレイヤーはまるで気付いていなかった……。もしかすると私たちが知らない間に、一部のプレイヤーに隠しスキルが発生しているのかもしれない。今度のメンテナンスで見直しておいた方がいいかもしれないわ」
プレイヤーのスタイルに合わせた『隠れた成長』というものも――文字通りこっそりと――搭載されているのだが、それが極端な効果を発揮しているのかもしれない。
「東門の隠しイベントも高司祭を捕縛して成功した。こっちは予定通りと言える範囲内だけどな。後は南門か。どうなっている?」
「大勢は決したな。あとは『闇ギルド』行きになる連中の頑張り次第だ」
「『闇ギルド』かあ。進んで犯罪行為をしたがる心境っていうのがよく分かんないわ。どうしてPKとか有りにしたの?」
「それは上の一存だからなあ。ただ、犯罪者の心理を知るためにやっている人もいるかもしれないし、リスクも理解している。ゲームなんだし、あまり目くじら立てなくてもいいだろう。もちろん『新人いじめ』のような連中は取り締まっていくけどな」
せっかくのVRという、いわばもう一つの世界なのだから、できるだけ自由度は高くしておきたい。それが『アイなき世界』の基本方針である。
「ここで『閃光』を使うか!?おいおい、下手をすれば味方も巻き込むことになるぞ……」
「だけどその分効果は抜群みたいよ。あ、これは決まったわ。『闇ギルド』行きの皆さん、全滅コースです」
それからほどなくして、南門の隠しクエストも達成条件を満たすことになる。
「結局全部の隠しイベントを成功させられちゃったわね」
「仕方ない。特別報酬を出すしかないだろう」
「それより、皇帝も捕まっているんだけど。この先のシナリオどうするの?」
「帝国の分裂っていう大きな流れは変更しないつもりだ。一応腹案として考えていたものがこれ。改善点があったら言ってくれ」
「今からやるの!?……はあ、今日も徹夜かあ」
その日、煌々とした明かりはいつまでも消えることがなかったという。
裏情報・裏設定の小出し、二回目でした。
次回から新章に移ります。




