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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
6 暗躍する者たち
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85 帝国の分裂

ナレーションの順番は、

ロヴィン ⇒ 神殿騎士のプレイヤー ⇒ リュカリュカ ⇒ 多恵

となっています。

 帝国軍が所持していた鉄鉱石が一つ残らず紛失する、という前代未聞の事件は帝国の各派閥に大きな衝撃と混乱を与えた。

 そのあり得ない状況と、これ見よがしの残されていた犯行声明によって、犯人は召喚術師アフォレ・ボウント――アホボン氏の本名ね。……ほぼまんまじゃん――の使役していた二体の悪魔であると、すぐに特定された。

 しかし、アフォレが行方不明――古都ナウキの牢屋にいます――となっていたため、その行先は分からずじまい――古都ナウキの倉庫に分割して仕舞われています――となった。


 この責任を負わされたのが、彼を雇っていた王弟派だった。ナウキ侵攻失敗後に解雇、手配されたことに対する恨みによる犯行だとされたためだ。

 この降って湧いたチャンスに宰相を中心とした現皇帝派が一気に攻勢に出て、高まりつつあった王弟派の気勢を潰すことに成功した。


 起死回生を狙ったのか、それともそうするように仕向けられたのか。一転して危機に陥った王弟派は所管する地にあるロピア大洞掘への関所を掌握して、その通行を規制し始める。

 だけど、これは悪手だった。

 転移門を管理する『神殿』と『賢人の集い』から、自分たちが定めたルールへの重大な違反であり、挑発行為に値すると、連名で非難されたのだ。結局、関所と通路は『神殿』が臨時で管轄することとなったのだった。




 もう一つ『神殿』は帝国に対して大きな一手を打っていた。帝都を中心とした帝国南部にある神殿にいるほぼ全ての聖職者たちを破門としたのだ。

 表向きは最高指導者である『代弁者』からの招聘(しょうへい)に応じなかったためとしているが、実際は権力に取り入って私腹を増やしていたことへの粛清だったと言える。

 帝都の大神殿の司祭たちには捕縛命令が下り、同僚の神殿騎士たちが相当数派遣されたという。

 また、聖職者たちを堕落の道へと誘ったとして、帝都の貴族たちを名指しで非難する声明も発表した。これによって帝都官僚派は衰退していき、現皇帝派と王弟派に吸収される形で消滅することになるのだった。


 そして事ここに至って、宰相は勝負に出た。いつまでも帰国の目途のつかない現皇帝に見切りをつけ、第一子を新しい皇帝として擁立したのである。

 ところが、これに異を唱える存在が現れた。現皇帝の正室でもある第二子の母である。彼女は自らを皇后と名乗り、自らの子こそが正統な皇帝だと説いて回り始めたのだ。

 帝都官僚派を取り込んでいたことも災いし、現皇帝派は、第一子を旗印にする宰相派と、第二子を担ぎ上げた皇后派へと分裂することになった。


 さらには王弟派も自分たちの頭である現皇帝の弟こそが新しい皇帝にふさわしいと参戦してきて、帝国南部での新皇帝争いは三つ巴の様相を呈していくことになる。




 こうした動きに驚き、慌てたのがアルス君を含む地方の領主たちだ。彼らは最初『賢人の集い』との関係を強めようと動いていたのだけれど、帝都官僚派が『神殿』から非難されたことでその考えを改めさせられる――超国家的な集団を相手取って同等の立場を得るのは、一派閥の自分たちでは無理だと思ったみたい――ことになった。


 そして、新たな後ろ盾を模索しているところに現皇帝派の分裂の報が届くことになった。これに飛び付いたのが南東部の領主だった。皇后はこの地の出身、つまり彼の娘だったのだ。

 彼は皇后派を受け入れて、その本拠地にすることを申し出たのだ。一方、王弟派の管理する地に隣接する西部、南西部の二人の領主たちは、王弟派と接触、その一派に加わることになった。


 こうして地方領主の連合はあっさりと瓦解してしまい、北部にあるズウォー領と、大塩湖畔のある北東部、そしてグレイト大地柱のある東部の三つだけがどこの派閥にも属さない中立となってしまった。

 そして残る三つの領の動向によっては、新しい皇帝が誰になるのかが決まる可能性もある。どの派閥も自陣に取り込もうと画策していて、従わなければ暗殺もありうるという危険な状況に突き落とされてしまっていた。


 さて、この三つの領だけど、一つ共通点がある。それは冒険者、つまりはプレイヤーと関わりが深いということだ。

 実は大塩湖だけではなく、グレイト大地柱もプレイヤーの拠点として人気が高い場所で、多くのプレイヤーが活動している。

 そしてズウォー領は古都ナウキを中心とした特別自治区域で必要となる物資購入の窓口となってくれていた。


 そうした縁や繋がり、さらにはプレイヤー間の縁故なども総動員して、ボクたちは三つの領の領主たちを古都ナウキへと招待することに成功したのだった。




「ねえ、一つ聞いてもいい?」


 隣に座るマイっちにウチが小声で呼びかると、彼女は「何?」と目で問い返してきた。


「どうしてウチらがここにいる訳?ユージロやみなみちゃんがいればよくない?」

「向こうからの要望なんだから仕方がないでしょ。本場のラーメンが食べてみたいって言われたんだから、私と多恵がいなきゃ始まらないわよ。それとも『美味倶楽部』の出すラーメンが本場の正しいものだって思われたいの?」

「それは困る。すっごく困る」


 海岡たちが超高級食材で作るラーメンが本物だと勘違いされでもしたら、リアルでの行きつけのラーメン屋の店長さんたちに総スカンされてしまう!


「それじゃあ、あきらめて座っていなさい。難しい話し合いや調整は副市長さんたちNPCや、それこそユージロやみなみちゃんがやってくれるわよ」


 それならいいんだけど。いや、それなら最初から厨房でスタンバイさせてもらいたいのだけど。

 ウチらがいるのはナウキの議事堂の会議室だ。もうすぐここに帝国の三つの領の領主たちがやってくることになっていた。

 少し離れた席では、ウチらの話声が聞こえたのだろう海岡は苦笑いを浮かべていた。その隣にいる山原は……、リュカリュカちゃんが所用で来られないからなのか、ムスッとした不機嫌な顔をしていた。


 そうそう、リュカリュカちゃんと言えば、ズウォー領のアルス領主も彼女に会えないと分かって盛大に落ち込んだらしい。

 前々からいろんな層にファンがいる子だとは思っていたけど、年下の、しかもNPCまで魅了しちゃうとは……。なにか不思議フェロモンでも出ているんじゃないかって思えるほどだわね。


 そんなことを考えている間に時間となったのか、続々とこの会議に参加する残りの面々が案内に従って部屋へとやってくる。

 その中にはまだまだ少年といった外見のアルス・ズウォー領主も含まれていた。


 そして一方、ナウキ側のウッケン市長や副市長と一緒に、捕らえているはずのモーン帝国皇帝が堂々と入ってきたのだった。


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