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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
6 暗躍する者たち
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84 悪魔との取引

昨日、一昨日と一日のアクセス数が五百人を超えていました。

読んでくれている方、覗きにきてくれた方、どうもありがとうございます!

 悪魔との取引なんて、一度上げておいてそこから叩き落されるという碌でもないもの、と相場が決まっている。耳を貸すべきじゃないというのが一般的な答えだろう。

 それでも自分なら出し抜ける!と思っていたけれど、結局最後は破滅。なんていうのは――物語ではだけどね。リアルに悪魔なんていないし。……いないよね?――よくある話だ。

 だけど考えてみて欲しい。そんな狡猾な悪魔が、果たしてイエスという以外の選択肢を残しているだろうか?


「取引ねえ……。条件とその内容によるかな」


 無碍(むげ)に断ろうとすると、どんな悲劇や不幸を引き起こされるか分かったものじゃない。消極的と取られるかもしれないけれど、様子を見るというのが今の僕には最善策に思えた。


「兄ちゃんならサクッと終わらせることができることやから心配いらへん」

「そうそう。そんなに警戒戦でも大丈夫やで」

「いいから、詳しく話して」


 聞けば聞くほど胡散臭く感じる彼ら台詞を遮って、本題を話すように促す。

 実は時間稼ぎが目的だった、という可能性も考えられるからね。


「つれんお人やなあ……。まあ、ええわ。取引の内容やけど、まず兄ちゃんにしてもらいたいんは、ワイらの解放や」

「ええ加減、このアホボンに付き合うのも嫌気がさしてきたんや」


 当のアホボン氏は未だにトリップを続けている。その姿を見て、僕とミラさんは思わず二人に同情の視線を向けていた。


「理解してもらえて何より、なんかなあ……」

「人間に同情されるやなんて、悪魔としては最大級の恥なはずなんやけど、嬉しゅう思えてしまうわ……」


 遠い目をする二人。僕が想像していた以上に過酷な日々だったのかもしれない。


「話を戻すけど、その対価としてあなたたちが出せるものは何?」

「そりゃあ、兄ちゃんが欲しいものなら何でも出せるで。そうやなあ……、武器や防具の補修に使う鉄鉱石なんてどうや?」


 うっわ。確実に今こちらが欲しいものを提示してきたな。

 だけどこれは話を詰めておかないと、後で痛い目に合うパターンのやつだ。


「鉄鉱石というのはいいね。だけど問題は量かな。知っての通り、帝国を相手に大きな戦いがいつ起こってもおかしくない状態だからね。百個くらいじゃあ、とてもじゃないけど足りないよ」

「……悪魔を相手に報酬を要求しようやなんて、兄ちゃん、ええ性格しとるな」


 常日頃からリアルで悪魔よりも怖い姉様妹様を相手にしている――う……、さ、寒気が!?――からこのくらいは序の口だ。


「鉄鉱石一万個。これが最低条件だ」

「はあ!?帝国軍が保管しとる全部の鉄鉱石よりも多いやんけ!?」


 ほほう、それはいいことを聞いた。


「兄ちゃん、そりゃ無茶っちゅうもんや!半分の五千でも多すぎや!」

「ダメ。九千」

「五千五百で!」

「話にならない。九千二百」

「増えとるやないか!?ええい、七千二百!これ以上はほんまに無理や。ない袖は振れへん!」


 さっきの話からして、帝国軍の蓄えがそれで全てといった感じかな。相手の力も削ぐことができれば、本来の数以上の益にもなる。


「仕方ないなあ。鉄鉱石については(・・・・・・・・)はそれで勘弁してあげるよ」

「ちょっ!?鉄鉱石については(・・・・・・・・)ってどういうことや!?」

「まさか、まだ条件付ける気かいな!?」

「そりゃあ、そうだよ。最初に言ったろ、鉄鉱石一万個が最低条件だって。足りない分は他の条件を追加させてもらうよ」


 サー、っと顔が青ざめていく二人。


「悪魔から搾り取ろうとするやなんて!?この人でなし!」

「お、鬼や!兄ちゃんは人の姿をした鬼や!」


 失敬な。ただちょっとリアルでは悪魔よりも怖い以下略な人たちを相手にしているから鍛えられているだけの話だ。これでも彼女たちに比べたら優しい方なんだぞ?


「追加の条件は、鉄鉱石を運び終わったら、すぐにあちらの世界に帰ること。そして向こう十年はこちらの世界からの呼びかけには応えないこと」

「はえ?そんなことでええの?」


 よほど予想外の答えだったのか、二人して呆けていた。


「一緒に悪だくみをした仲間とは戦いたくないからね」

「その割には、ワイらの方がえらい損してるみたいやけど……」


 文句を言いながらも、仲間と言われてどことなく嬉しそうな顔をしている。実は寂しがり屋なのかもしれない。


「それはそれ、これはこれだよ。で、どうする?嫌なら別の条件に変えるけど?」

「ぜひこの条件でお願いします!」


 あ、標準語になった。そして二人の悪魔は綺麗に四十五度の角度で頭を下げている。まあ、僕にしか見えていないのだけど。


「それじゃあ、先生。早速お願いしやすぜ」


 人を悪党の用心棒の先生みたいに言うのは止めて。そして揉み手をするな。いきなり三下の小悪党みたいになったな。


「ささ!その弓矢でアホボンをぶすっと貫いてやってくだせえ」


 は?貫く?それって殺すってこと?


 二人を見ると、ニヤニヤと素敵な笑みを浮かべている。


 ははあ。これが落とし穴、ね。人を殺すことに僕の心が耐えきれないか、耐え切れたとしてもなんらかのマイナスの称号を得ることが、彼らの狙いだったという訳だ。

 だけど、残念。向こうが出した条件は、二人の解放だ。そしてそれは、アホボン氏を殺すこととイコールではないのだ。


 フッと不敵に笑ってやると、案の定二人はいぶかしげな表情になった。そして僕はおもむろにアホボン氏に向かって歩き出した。


「ロヴィンさん!?」


 驚いたミラさんに片手を振って大丈夫だと告げると、そのまま近づいていく。相変わらずトリップしたままだけど、よく見ると、火柱の勢いが若干落ちてきているのが分かる。

 じきに魔力が尽きてしまうことだろう。……この人は本当に何がしたかったんだろうか?まあ、被害が出なかったとプラスに考えようか。今なら大した反撃もできなくなっていることだろうし。


 彼の背後に回り込み、ちょんちょんとその肩をつつく。


「ふはははははあ!もえろー!もえろー!」


 ペシペシと叩く。


「もえつきるのだー!」


 イラッ。むかついたのでその後頭部にチョップをぶち込む。


「もえげはあ!?な、なにをすごほお!?」


 振り返った男の腹に思いっきり拳をねじ込ませる。おお、さすが?は魔法使い。これだけでHPが半減したよ。

 膝立ちになってげほげほとむせ返る男の髪を掴み、持ち上げる。視線を合わせると、「ひっ!?」という情けない声が上がった。


「一回しか言わないし、反論も受け付けない。死にたくなければ言うことを聞け」


 バックスさんやユージロさんを真似て、できるだけ低くて恐ろしげな声を出す――出ていたと思う。出ていたんじゃないかな?出ているといいな。出ていたかもしれない――と、涙と鼻水でぐっちゃぐちゃになった顔で懸命に頷いていた。


「あんたが使役している魔族の二人を解放しろ」

「じょ、じょれは――」

「反論は受け付けないと言ったはずだ。あんたの答えは「はい」か「イエス」だけだ。分かったか」

「はいぃ!」

「よし。理解したところで、悪魔を解放してもらおうか」

「う、ぐう……!」


 もたもたしていたので、もう一度凄んでやると、渋々といった感じで何やら呟きだした。ところどころに「悪魔」や「解き放つ」、「盟約」といった単語が散りばめられていたので、召喚による契約を破棄するための祝詞のようなものなのだろう。

 一応全部聞こえていたのだけど、詳しく記述するのは勘弁してもらいたい。なぜなら、その中二病テイストあふれる言葉の数々が、僕の心の古傷をえぐっていたからだ。

 そして、二人の悪魔が解放される頃には、僕は満身創痍となっていた。


「ミラさん、こいつの身柄をお願いします」


 男を預けて、僕はふらふらとした足取りで二人の元に向かった。


「……兄ちゃん、最初から裏があるって分かってたな?」

「どうかな。とにかくこちらは言われた通りやったよ。今度はそちらが約束を守る番だ」

「腹立つわー。でも、理由がよく分からんけど兄ちゃんもヘロヘロになっとるし、今日のところは引いたる」


 そして二人の悪魔は去っていった。約束した通り、大量の鉄鉱石を残して。


もしも断っていた場合、悪魔たちはアホボンをけしかけて大規模戦闘にするつもりでした。

しかしその場合、彼が逃げてしまうことも考えられたので、確実性のあるロヴィン君に取引を持ち掛けたのでした。

あんなに絞り取られることになるのは完全な想定外でしたが(笑)。

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