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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
6 暗躍する者たち
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83 アホボンと悪魔たち

「ぐわっはっはっは!燃えろ!すべて燃やし尽くしてしまえ!!」


 巨大な火柱を前にして、男は完全にトリップしていた。

 ちなみに大通りのちょうど中央部分であり、周囲に延焼してしまうようなものは一つもない。しかも魔法で作られたものであるためか、火の粉も落ちてこないので燃やし尽くされてしまう心配は今のところない。

 実際、後から聞いた話だと、すぐ近くにいた人たち以外では「アトラクションかド派手な大道芸だと思っていた」という人も結構多かった。


 それはともかく、どうしたものかと困惑する僕らの耳に、聞き馴染みのない声が飛び込んできた。


「あー、今のは(あん)ちゃんが悪いで」

「そうやなー。倒した相手くらい覚えておいてやりいな」


 随分とのんびりとした口調でそう投げかけてきたのは、なんと二体の化物だった!


「え?倒したあいて――」

「あ、あなたたち!喋れるのですか!?」


 僕の台詞を遮ってミラさんが尋ねる。

 そうですよねー、普通はそっちの方がまず気になりますよねー。


「おう。喋れるで」

「このくらいは朝飯前や」


 彼女の丁寧な口調に気を良くしたのか化物たちは上機嫌で口々にそう答えた。しかし、スライムやハエの頭のどこにそんな発声器官があるのだろうか?


「あ!兄ちゃん、どうやって喋ってるんやって考えたやろ。よう見てみ。兄ちゃんなら分かるはずやで」


 ???言っている意味がよく分からないんだけど……。とにかく集中して見ればいいのかな?

 それにしても、多少耐性があると言ってもあまりじっくりと見たい絵面ではないなあ。


「んー?うええ!?」


 ハエ男の姿がぼやけたかと思うと、そこにはいたずら好きそうな顔をした若者の姿があった。そしてもう一体のスライムの方はと言えば、少年があぐらをかいて座っていた。

 どちらもかなりの美形だ。

 どのくらいかというと「ただしイケメンに限る」という定型文のイケメン枠に毎回必ずエントリーされているくらいと言えば分かり易いだろうか。


「兄ちゃんが今見ているその姿が、ワイらのこの世界での本来の姿っちゅうやつや」

「どういうことだ?……この世界?」


 突然重要ワードっぽいものが出てきたぞ。


「ほんまは秘密なんやけどなー。アホボンもトリップしたままやし、他に聞き耳立てとるやつもおらんみたいやから、兄ちゃんたち二人には特別に教えといたるわ」

「ワイらはな、悪魔や。ちゅうてもこの世界の神さんたちみたいに創られたものとは違うで。異世界にある悪魔の国からやってきた、正真正銘純粋培養の悪魔や」


 ポカーン……。


 重要ワードどころか、超重要な世界設定が聞こえてきた気がするんですけど!?

 ほら!ミラさんなんてびっくりしすぎて停止しちゃっているよ!


「まあ、そんな素敵で不敵な悪魔のワイらでも召喚の縛りには勝てんかってんな。ひっじょーに不愉快かつ不本意ながらも、あのアホボンがマスターっちゅうことになるな。あ、攻撃の心配はせんでもええで。今はこの姿で待機していろってしか言われてへんから」


 待機中なの!?どうりでのんびりしていると思った。それにしても悪魔?で、召喚?……どこかで聞いたことがあるような?

 うっ!封印された記憶が!?


「兄ちゃん、中二病っぽいポーズで誤魔化そうとしてもあかんで。はあ……。まさかここまでヒント出しても気が付いてもらわれんとは思わんかったわ」

「あのな、兄ちゃん。ワイらとは初めましてやけど、うちのアホボンとは会うたことがあるはずなんやで。その証拠に、ワイらの本当のカッコエエ姿を見ることができた『不可視発見』の力な、あれはこのアホボンの持つ能力やってん」


 そこまで説明されれば、さすがに何のことか分かった。


「帝国が侵攻してきたときに一発で倒した魔法使い風の人?」


 僕の言葉に二人は顔を見合わせた。


「あー、ワイらが聞いた話とずいぶん違うんやけど、その時のことを詳しく説明してもろてもええかな?」


 彼らの要望に応えて当時の様子、遠距離からそれぞれワンショットで二人の魔法使いを倒したことを話した。


「ああ。間違いなく兄ちゃんの説明が正しいな」

「なんでこんな濃いいアホボンの顔を覚えとらんのか不思議やったんやけど、納得したわ」


 なんでも二人はアホボン氏から、伏兵に至近距離からやられたと説明を受けていた。だから召喚する暇もなかったのだ、ということにしていたらしい。

 ちなみにもう一人の魔法使いは、帝国のお偉いさんが視察用に変装していた姿で、アホボン氏はその人の護衛でもあったそうだ。

 それがあっさりとやられて、しかもお偉いさんまで大ダメージを受けて魔道具で逃げ帰るという大失態を犯してしまったので、解雇な上、帝国内では手配までされてしまったのだとか。


「それで、単身このナウキに乗り込んできたのか」

「そや。騒ぎを起こせば自分を倒した兄ちゃんがやってきて、復讐できると思ったみたいやな」


 僕は警護隊でも何でもない、ただの冒険者なので、狩りや何かの用事でいなかった可能性もあったんだけど……。

 こうして遭遇してしまったのはアホボン氏の執念なのか、それとも神様たち(運営)の介入があったのか。


「それで話を戻すと、何の因果かそれとも神さんの嫌がらせか、アホボンを倒した兄ちゃんたちに『不可視発見』の能力が移ってしまったんや」

「悪魔はその力がないと見えん。そんでトチ狂ったアホボンは、ワイらにこんな気持ちの悪い格好をさせとるんや」

「え?でも、この世界での本来の姿があるんでしょう?」

「ああ、それはワイらの元の世界での情報をこの世界用に変換しているっていう意味や。一応、元の世界のものに準じとるから普通の人では見えんようになっとる」


 二人とも美形過ぎるから見えなくて正解かもしれない。主に廃人プレイヤーたちの精神の安定を保つ意味で。

 そうか!イケメン過ぎるからその腹いせに、見えないことを口実にわざと化物の姿にさせているのかもしれない。そのことを伝えると、


「アホボンの考えそうなことやな」

「美形の知り合いや言うて上手く立ち回ればモテモテになれるのにな。劣等感しかないところが、アホボンのアホボンたる所以(ゆえん)ちゅうべきか」


 やたら納得していた。そして彼らの本当の姿を見ることができないミラさんは不思議そうな顔をしていた。


「さて、相変わらずトリップしたままのアホボンは放置しておくとして。兄ちゃん、ワイらと取引せんか?」

「絶対に損はさせんで」


 そう言う悪魔たちの顔には、リアルの詐欺師や悪徳業者も真っ青になるほど恐ろしくも魅力的な微笑みが浮かんでいた。


分かり易いように、関西弁風なキャラにしました。

不快に思われる方がいたら、ごめんなさい。

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