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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
6 暗躍する者たち
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81 黒幕は名無し猫

「どうしてこんなに忙しいのよー!!」


 今日もまた猫っ娘の叫び声がイグルポックの街に響き渡っていた。


「これ、新名物にならないかな?」

「無理でしょう」

「どうして?」


 アリィが返したのは予測のような曖昧なものではなく完全な断定だった。その自信満々というか、当然だとする根拠が気になったので尋ねてみる。


「もうしばらくすれば慣れるでしょうから、叫ぶこともなくなります」

「……もしも慣れることができなかったら?」

「その場合でも疲れて叫ぶ気力がなくなっているでしょうから、どちらにしても静かになっていると思われます」


 ニポンのブラックな企業も真っ青――黒い上に青い?……痣みたいで痛そうな色合いだな――の労働条件ですね!


「それよりも、彼女の名前は決まりましたか?」

「それが……、悪い。さっぱり思いつかない」

「はあ……。マスターのポンコツぶりも相変わらずですね」

「それはちょっと酷くないかな!?」


 ため息を吐きながら、とある趣味の人なら大喜びしそうな冷ややかな目でこちらを見るアリィ。普段なら甘んじて受け入れるが、今回はさすがに非難の声を上げさせてもらった。

 なぜなら本当は、思いつかないのではなく、名付けることができなくなっていたからだ。




 事の起こりは五日前に遡る。毎日のように叫び声が聞こえていることからも分かる通り、猫っ娘はいぢめかと言いたくなるようなアリィの試験を見事クリアーした。


「お見事です。これからよろしくお願いします。……そういえば名前を聞いていませんでしたね」

「はあ、はあ、はあ……。な、名前は、ないわ……」

「名前がない?どういうことですか?」

「言葉通りよ。私には名前がない……。そんなもの、いらない……!」

「あなたの想いを尊重してあげたいところですが、実際名前がないと私が(・・)不便です。マスター、出番ですよ」

「そこでオレに振るの!?」


 自分が不便だと強調したり、主人であるオレに指示を出したりと、最近ちょっと自由過ぎない!?ほら、彼女も驚いて固まっているよ。


「それにかかる手間の分の仕事を代わってもらえるのであれば、私が名付けるのもやぶさかではありませんが?」

「はい。頑張って名前を考えます」


 アリィの仕事を代わったりしたら死んでしまうよ!多少大袈裟に言ったけど、少なくともゲームを楽しめる状況ではなくなるのは確かだ。


「うーん、どんな名前がいいかな?」


 と猫っ娘に向き直った時にそれは表示された。


〈こちらのキャラクターに名前を付けることはできません〉


 ……はあ?どういうことだ?

 だが、どんな操作をしてもそれ以上の情報は出てこなかった。




 そんなゲーム的なことを二人に説明するわけにもいかず、ずるずると時間だけが過ぎてしまっている、という訳だ。

 一応ナウキの大図書館に行ったり、ジイにそれとなく尋ねてみたりとその原因を探ってはいるのだけど、(かんば)しい成果は得られていない。


 そして、オレとしても彼女の名付けにばかり従事することもできない。今日も魔獣の森近くの村で、帝国やナウキの動きについての報告を受けていた。


「ふうん。どの『闇ギルド』もナウキの情報をリークすると言って接触を図ったけれど、どこの派閥からもけんもほろろに断られたということか」

「はい。帝国側は当初見積もっていたほど『闇ギルド』側が内部から崩すことができなかったことが先の敗北の一因と見ているようです」


 その辺りは相手に責任を押し付けるための建前的な部分もありそうだな。前回は帝国が協力を要請する形だったけど、今回はその逆だ。できるだけ有利な条件にしようとしているのかもしれない。


「オレたちやナウキ側の目を誤魔化すための演技という線もある。もうしばらくは監視を続けておこう」

「ははっ!」

「ところで例の謎の人物だが、動きはないままなのか?」

「侵攻後二週間ほどは活発に各派閥を扇動していたようなのですが、我らの監視に感付いたのか姿を隠すようになり、五日前を最後に完全に足取りが途絶えてしまいました」


 ……誰かさんがうちにやってきたのと、時期的にはばっちり合うな。


「それじゃあ、その人物が現れるときに、人形を持っていたとか、猫の使い魔がいたとかいう話はないか?」

「ご存じだったのですか!?ミロク様の仰るとおり、使い魔らしきものを連れていたそうです。ただ、本人ともども大きな布を頭から被っていたらしく、姿形ははっきりしていません」


 これはもうビンゴというしかないだろう。謎の人物とは、その使い魔だとされていた方が本体であり、その正体は現在イグルポックでアリィにこき使われている猫っ娘だったのだ。


「既にこの地にいないのであれば、動きがないのも当然のことですか……」


 そのことを伝えると、全員納得したように頷いていた。


「しかし、そんな者を引き入れてしまって大丈夫なのですか?」


 そしてその不安も当然のものだ。オレだって彼女のことを完全に信じ切っている訳でもない。


「その意見はもっともだ。だから件の猫っ娘には、アリィの下で働いてもらっている」


 そう説明すると、納得したのか「ああ……」という声がそこかしこで上がる。その声にもれなく憐みの色が付いていたのは、ここにいる全員アリィに鍛えられた経験があるからだろう。


「もしもアリィ様が出し抜かれるようなことがあったとすれば、その時は他の誰にも止められないでしょうな」


 うん。確かにその通りだと思うけど、そういうことはオレのいないところで言おうか。

 君たちのトップは傷つきやすいガラスのハートだから、大事に扱ってもらいたい。


「それにしても、攻めるつもりでいた相手のところに潜り込むなど、その娘は何が目的なのでしょうか?」

「さあな。もしかすると世界を混沌とさせることだったりしてな」


 などと冗談で言っていたら、当たらずも遠からずの内容だったので驚くことになるのだが、それはまだ先の話。


「彼女の方はオレやジイ、アリィで何とかするから、皆は引き続きこちらで情報の収集と操作を頼む。

 黒幕がいなくなったから、すぐにオレたちの方にまで火の粉が降りかかってくることはないはずだけど、魔王を倒すために一致団結して、なんて流れができたら面倒だ。

 領土と世界的な発言力を増そうとした帝国の暴走といった感じに落ち着くように仕向けてくれ」

「委細、承りました。派閥争いに見せかけて連中の力も削いで御覧に入れます」

「頼んだ。だけど『神殿』と『賢人の集い』にはくれぐれも気を付けるように」

「ははっ!」


 そしてそれぞれの持ち場へと向かっていく部下たち。

 しかし、時々やるあのわざとらしい口調はなんとかならないものかな?時代劇に出てくる隠密か忍者の棟梁にでもなったような気分だ。

 まあ、遊びを挟む余裕があって頼もしい限りだ、と思っておくか。そう頭を切り替えると、オレは猫っ娘に名付けのできない理由を探るため、『転移』の魔法で聖地ホルリアへと向かうのだった。


お気付きとは思いますが、猫っ娘はにゃんこさん一号のシュレイちゃんです。

なぜ名前が付けられないのかというと、リュカリュカちゃんにロックオンされているからです。

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