75 伝えるべき事柄は?
「問題は、誰にまで真実を知らせるのか、ということだ」
結局、ティンクちゃんは他の魔物に襲われて弱っていたところを助けたらフレンドモンスターになってくれた、という説明でいくことになった。ありえそうだし、妥当なところだと思う。
考えてくれたみなみちゃんさんと遥さん、バックスさんには感謝だね。その上で誰にどこまでの話をするのか、ということが次の議題となった。
「ティンクさんと、シュレイさんだっけ?二人の事情は私たちだけに留めておくべきだと思うわ」
「はいはーい!異議なし!」
みなみちゃんさんの提案にすぐさま同意すると、
「そうですね。知らせたところで二人に不利益になるだけですし」
「彼女の動きを邪魔することができるのなら公開してもいいが、どちらかと言えば追い詰められて無茶をするということになりそうだし、それで構わないだろう」
と、残る二人も賛成してくれた。ちなみに遥さんは、バックスさんとティンクちゃんというギルドのメンバー以外の人がいるので、丁寧語で通している。ボクからすれば二人ともほとんど身内なんだけど、遥さんとしては礼儀を重視したみたい。
そんなボクたちにティンクちゃんが静かに一礼して、イーノたち四匹――ワトとビィが分離していた――が彼女の真似をしてぶんぶんと頭を振っていた。
な、和むにゃあ……。
「残るは……、魔王と事を構えようとしていた、という部分か」
ボクと同じく、魔王という存在に心当たりのあるバックスさんは苦々しい顔つきでそう言ったところに、遥さんが手を挙げた。
「それなのですが、一つ質問してもよろしいですか?」
「にゃんでしょう?」
「リュカリュカ、茶化さない」
「ごめんなさい」
怒られた。ああ!ティンクちゃん、そんな呆れたような目で見ないで!
〈リュカリュカのフレンドポイントが上昇しましたが、ご主人様ポイントは低下しました〉
毎度お馴染み、突然のインフォが流れ――
「ちょっと待って!そんなものがあるなんて聞いていないんですけど!?」
その内容に思わず立ち上がって叫んでしまった。そして、さらに冷ややかになる皆の視線……。
「ごめんなさい。話を続けてください……」
〈リュカリュカのご主人様ポイントが低下しました〉
!?なんという理不尽!!シュレイちゃん、君の言う通りこの世界の神様たちは嫌なやつだったよ……。
「魔王と戦おうとしているということは、現段階ではティンクさんやリュカリュカちゃんの予想、ということになるのですよね?」
「はい。ですが、かなり高い確率だと思っています」
放置となったボクの代わりにティンクちゃんが遥さんの質問に答える。
「そのつもりで対応していくことには賛成です。しかし、情報が確定しているのではない以上、こちらからそのことを話して回る必要はないのではないでしょうか」
「市長たちや『神殿騎士団』が行っている詰問の結果を待ってから、話す内容を決めるべきだということか」
「臣下に持ち上げられて侵攻してきたような皇帝に、そこまでのことが知らされているのかしら?」
みなみちゃんさん、その評価はきっついです。同感だけど。
「その辺りは五分五分といったところでしょうか。どちらかと言えば『神殿騎士団』の方が何かを知っているような気がします」
「確かに神殿騎士たちは世界中で活動していますから、独自の情報網を持っていたとしても不思議ではありませんね。それに彼らは秘密主義なところがありますから、魔王について既に何らかのことを知りえているのかもしれません」
さすがは特殊なNPCだけあって、ティンクちゃんは色々なことを知っているね。
「ふうむ……。だとすると、無節操にこちらの情報を開示するのは危険だな。人々の不安を煽ったとか難癖付けられるかもしれない」
「十分にあり得そうなことよね」
そうなんだ?ボクが祭りの最中に会った神殿騎士の人たちは皆、ちょっと堅物そうなところはあるけれど、真面目で親切なクラス委員長っぽい人たちばかりだったけど。
「それじゃあ、帝国の目的が魔王かもしれない、という点はこちらからは話さないということでいいかしら?」
みなみちゃんさんの確認の言葉に、ボクたちは揃って首を縦に振ったのだった。
「結局、全部秘密にすることになっちゃったわね」
「ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「いやいや!ティンクさんが気にすることじゃないよ!私たちだけでも知っていることで対策を練ったり、準備をしたりすることができるんだから。むしろ仲間内で情報を共有する体制が整っていない私たちの方が謝るべきことよ」
魔王らしき人物を知っているのに秘密にしているボクやバックスさんには耳に痛い言葉だ。だけど本人からはっきりとしたことを聞いていない以上、これもまたボクたちの推測に過ぎないものでもある。
実は人とはちょっと違ったプレイルートに入っているだけという可能性も……、ないね。ボクの中では彼イコール魔王で定着しきっている。
「……もしも魔王と戦うとなると、勝ち目はあるのでしょうか?」
遥さんのそれは質問というよりは、思わず口をついて出てきたといった方が正しいような一言だった。
「帝国の抱えている戦力がどの程度か分からないから、正確なことは言えないが……、まず無理だろう」
相手はレベルが百を超えている、正真正銘のとんでもキャラだ。一対一はもちろんのこと、数で押そうとしても上手くいくかどうか。
それに彼には仲間がいるようなことも言っていた。実際の戦力は彼一人の時とは比べ物にならないだろう。
そして何より忘れてはいけないのが、その仲間のために大量の食糧を求めていたということだ。下手に彼の仲間に手を出してしまうと、彼を怒らせてしまうことにもなりかねない。
「対話で相互不可侵の約束を取り付ける方が、まだ現実味があると思います」
「バックスもリュカリュカも随分弱気ね?」
そりゃあ、空間魔法なんていうチート級の技能を使いこなす人が相手なのだから、弱気にもなるというものだ。
「魔王っていう名前ばっかりが独り歩きしているような気がするんですよね。だから今は情報を集めることが大事だと思いますよ」
「闇雲に突っ込めばいいというものではない。戦力で劣るなら、それ以外の方法に持ち込むのも一つの手だろう」
二人してそれらしく聞こえる慎重論を展開していく。あらかじめバックスさんと、魔王と戦うことになりそうな時はどうするか、と打ち合わせしておいて良かったよ。
その後、ボクたちは魔王対策をどうするかと話し合ったのだけど、名案や妙案が浮かぶことはなかったのだった。
こちら側の動きその一。
でも、暗躍というよりは水面下の動きと言った方が正しそうですね。




