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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
6 暗躍する者たち
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74 騒ぎの種

 フレンドモンスターの機能は、テイマーやサモナー以外のプレイヤーの「自分たちもモンスターと一緒に冒険したい!」という熱い要望に応えて実装されたものだ。

 ペット的な存在や相棒的な存在が欲しいという声自体はサービス開始直後からあったのだが、モンスターと共に戦う専用の職が存在することから、導入は難しいだろうと考えられていた。


 ところが、コッカトリスの卵が孵化する動画が公開されたことにより、一気にこの熱が再発することになる。多い日にはなんと千件を超える要望のメールが運営に届いていた――公式の見解なので間違いないだろう――という。

 これに運営が、早急に対応しなければ!と思ったのかどうかは不明だが、結果として第三期プレイヤーの参入と、時を同じくして実装されることになったのだった。


 しかし、そのことに気が付いた者はほとんどいなかった。なぜなら、実装したことを大々的に告知しなかったためだ。『アイなき世界』の公式ホームページの、アップデート内容一覧の項目をスクロールさせていった先に小さな字で記されていただけだった。

 運営が何を意図していたのかはともかく、その後に起きた大規模イベントが話題をさらうことになったのは間違いない。


 そして極めつけが、帝国による情報と物流の封鎖だった。特に外部サイトまで見られなくなったのは厳しかった。

 高レベルのプレイヤーほど、こうした新しいシステムを目ざとく発見するという傾向がある。そして、そうした高レベルプレイヤーの多くは『始まりの地』である古都ナウキから離れて、帝都や大塩湖周辺へと拠点を移していたのだ。

 加えて、俺たちナウキに残っていたプレイヤーは祭りの開催でそれどころではなかった、という点もある。気が付けば、新システムは謎だらけのままになっていたという訳だ。


「そんな状態のところに、話題のフレンドモンスターを連れて帰ってきたら、大騒ぎになっても仕方がないわな」


 こめかみを揉み解しながら、俺は目の前の少女に経緯を説明していた。彼女には悪いが、口調が説教じみたものになってしまったことは大目に見てもらいたい。


「うう……。そんなこと言われても知らなかったんですよぅ」


 俺の向かいでテーブルにぐったりと突っ伏しているのは、誰であろうリュカリュカだ。

 『わんダー・テイみゃー』の面々と一緒にズウォー領から大量の物資を持って帰ってきたのが、今から二時間前のことだ。その際、居合わせたプレイヤーたちにフレンドモンスターを連れていることがバレてしまい、大騒ぎになってしまったのだ。

 それを宥めたりすかしたりしながら、特定のメンバーしか入ることのできない彼女たちのギルドの奥へ――なぜ俺が入ることができたのかは謎だ――と逃げ込んだのが、一時間ほど前のことになる。


 今でも入口すぐのホールでは、騒ぎを誤魔化すために所属している大勢のテイマーたちが自身のテイムモンスターたちを放して、触れ合い動物広場と化したままだろう。


「バックス、そのくらいにしておいてあげて。フレンドモンスターについては私たちも認識が甘いところがあったから」

「うわーん!みなみちゃんさーん!」


 救いの手を差し伸べたギルド長のみなみちゃん――いつまで経っても言い馴れないな……――にリュカリュカが縋り付く。

 その拍子に大きな胸が揺れて大変よろしい。おっと、ジロジロと見るのは失礼だからすぐに視線を外しているぞ。まあ、女性は敏感だという話だから、今のでも感付かれているのだろうが。


「私もあそこまで話が大きくなっているとは思ってもいませんでした……」


 そう言って項垂(うなだ)れたのは、物資買い付けの責任者でもあった副ギルド長の遥だ。


「元々テイマーやサモナー以外のプレイヤーのためのシステムという面が強かったからな。そういう意味では何の警告もしてこなかった俺たちにだって責任というものはある。反省するのは結構だが、あまり深刻に捉え過ぎると思考の泥沼にはまるぞ」


 確かに騒ぎにはなったが、それ以上のことには波及していない。暴動が起きたわけでもなければ、怪我人が出た訳でもないのだ。失態ではあるが、十分に取り戻せるだろう。

 そして、当のフレンドモンスターである黒猫も現在は隣の部屋で落ち着いているそうだ。リュカリュカのテイムモンスターたちが守るようにその周りを囲んでいるのが印象的だった。


「しかし、騒ぎがこれ以上大きくならないように、フレンドモンスターが仲間になった時のことを詳しく説明する必要はあるだろうな」

「……それ、やらないとダメですかね?」

「何か言い辛いことでもあるのか?」

「どうもイベントに関わってきているような感じなんです。それと、ちょっと説明が難しいデリケートな部分もありまして……。ボクだけで決められるものじゃないかな」


 リュカリュカは向こうでもまた、何かに巻き込まれていたようだな。イベントごとが発生しやすくなる隠しパラメータでもあるのかもしれない。


「だが、沈黙はまずいぞ。リュカリュカは大規模イベントの時にも活躍しているから、運営から贔屓されているんじゃないかと邪推する者が現れかねない」


 あの動画の撮影者として知られているし、それ以前の『ウリ坊ちゃん』の頃から人目を惹くプレイスタイルだった――本人にその気が全くないのが困ったところだ――からな。


「称号関連で優遇されているプレイヤーがいると、騒ぎ立てている人たちがいるくらいですからね……」

「今のところ文句の矛先は運営に向かっているようだけど、それが特定のプレイヤーに変わる可能性もある、ということね」


 俺たちの指摘を受けて、リュカリュカはげんなりとした顔になっていた。


「……何と言われてもあの子のことを詳しく説明することはできません。フレンドになってもいいというあの子の信頼を裏切ることになるから」


 それでもそう言い切ることができるのがこいつの良いところだな。仕方がない。適当な話をでっちあげるとするか。みなみちゃんと遥の二人も同じようなことを考えていたのか苦笑いを浮かべていた。


「リュカリュカさん。気持ちは嬉しいですが、私のせいであなたに迷惑がかかるというのは嫌です」

「ティンクちゃん!」


 そこに隣室から割って入ってきたのはリュカリュカのテイムモンスターたち三匹と、二足歩行する黒猫だった。


「ね、猫がしゃべ――」

「二足歩行アンド喋るにゃんこキターーーー!!!!」


 俺の台詞を遮って歓喜の叫び声をあげたのは、ギルド長と副ギルド長のコンビだった。


「やっぱりテイマーにゃら、そういう反応ににゃりますよね」


 キーンと耳鳴りがする中で、リュカリュカが感慨深そうに――猫語で――呟くのが微かに聞こえてきた。


 その後、しばらく経って落ち着きを取り戻した二人と一緒に、彼女たちの出会いについて聞いた俺たちは、改めて適当な話をでっちあげるしかないと心の底から思ったのだった。


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