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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
6 暗躍する者たち
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73 ご主人様になりたい

 泣きやんだティンクちゃんは、恥ずかしそうに、だけどどこかすっきりした顔ではにかんでいた。そんな彼女にボクは固めたばかりの決意を伝えることにした。


「ねえ、ティンクちゃん。ボクを二人のご主人さまにしてもらえないかな?」

「ええ!?」

「もちろん、今すぐにっていう話じゃないよ。それこそ今はボクの方が弱っちいし。ボクが強くなって、いつか二人が認めてもいいと思えるようになったら、その時はボクをご主人様にして欲しい」

「私で……、私たちで良いんですか?」

「うん。二人がいい」


 ボクが頷くのに合わせて、イーノたち三匹が跳びはねる。ボクと同じ気持ちだということを表現しているみたいだ。

 その様子を見てティンクちゃんがクスリと笑っていた。これは、オッケーをもらえたと思ってもいいかな。


「シュレイちゃんにも認めてもらえるように、まずは何としても帝国の陰謀を阻止しないとね」


 彼女は利用すると言っていた。つまり今回の一件の首謀者は別にいるということになる。

 もしかすると、シュレイちゃん以外にも帝国を利用しようとしているやつがいるかもしれない。そう考えると、攻める側の大将であるはずの皇帝が、攻められる側のナウキのど真ん中にいたのもしっくりくる。

 攻め寄せたどさくさに紛れて皇帝を亡き者にして、代わりに自分が新しい皇帝になろうと企んでいたのだろう。ありがちな良くあるパターンだよね。

 ところが、侵攻は失敗して皇帝もナウキに捕らえられてしまって、強引に即位することもできなくなっちゃった。だからアルス君が言っていたように、帝都での権力争いが激しくなってしまったんじゃないかな。


「リュカリュカさんの考えであっていると思います」


 ティンクちゃんも賛成してくれたから、大きく間違っているということはないはずだ。それじゃあ、一体誰が皇帝を裏から操っていたのだろう?


「うーん……、分からない!情報が少な過ぎるよ……」


 実は帝国への行き来ができなくなったのと同時に、データベースや外部のサイトなどにアクセスに制限が設けられていたのだ。

 リアル経由――直接会うってこと――で分かったのは、どうやら、――物理的に――ナウキ側にいるプレイヤーはナウキ関係の情報だけ、そして帝国側にいるプレイヤーは帝国関係の情報だけしか入手できなくなっているらしい、とのこと。


 一応、大図書館には帝国の偉人列伝的な本が置いてあったのだけど、その内容は過去の人物ばかりで、「使えるか?」と問われれば「微妙」としか答えられないようなものだった。


「明後日、アルス君に会う時に詳しく聞くしかないかな。……そういえば、シュレイちゃんは帝国を利用して、どうやって神様たちを滅ぼそうとしていたの?」

「はっきりとしたことは分かりませんが、帝国の軍備を増強して、何処かに攻め入らせるつもりだったようです」

「それって、ナウキ以外ってこと?」

「はい。ナウキへの侵攻はその前段階で、冒険者達を取り込んで戦力を強化するつもりでした」


 うわ!もしも負けていたら、強制的に兵士にされていたかもしれなかったんだ!?


「帝国内の町を拠点にしているプレイヤー(冒険者)とかは大丈夫なのかな?」

「帝国内でも『冒険者協会』に魔物への対処を一任しているところがほとんどですから、いきなり徴兵されるということは今のところ起きてはいませんでしたね。ただ、兵士を募集する看板は至る所に立てられていましたけれど」


 あれ?ボクは一度もそんな看板を見ていないよ……?

 ああ!アルス君がなんとかしてくれているのか。まあ、このズウォー領にプレイヤーがほとんどいないということもあるんだろうけど。


 ズウォー領は帝都から見ると、ちょうど古都ナウキを中心とした特別自治区を挟んだ反対側にある。そのせいか広大な土地を所有している割に開発は遅れ気味になっている。さらに、大塩湖までそれほど遠くもないから、多くのプレイヤーが素通りしてしまっていたのだ。


「随分と詳しいですね」

「うん。領主のアルス君に会うから勉強させられたの……」


 この勉強は、こちらに来ることになった全員が受けさせられた。一部の人は嬉々として話を聞いていたけれど、ほとんどの人は目が死にかけていたよ。

 耐えられたのは、小さくなったうちの子たちが教室代わりの部屋で遊んだり、眠ったりしていたからだね。皆、ボクにたっぷり感謝するといいよ!


 ズウォー領のことは置いておくとして、どこを攻めさせるつもりだったんだろう?一番可能性が高いのは、


「『神国』?」


 このラジア大洞掘で帝国の所有となっていない――ナウキの場合、名目上は帝国の支配地域です――のは、亜人たちの住むあの国だけだ。だけど、ティンクちゃんは首を横に振った。


「私も最初はそう考えていたのですが、どうも違うようなのです」


 あれ?神様たちのお告げで国を動かしている、なんて条件的にもばっちりだと思ったんだけどにゃ?だとすると、他の大洞掘――といっても実装されていないから、ロピア大洞掘一択だけど――にある国?


「聖地を攻める、のはさすがに無謀だよね……」

「いくらなんでもそれはないと思いますけど……」


 ティンクちゃんの顔が引きつっている。ちょっとばかり発想が極端すぎたかな。でも絶対にありえない、とは言い切れないんだよね。

 例えば織田信長好きが突き抜けちゃっているようなプレイヤーなら、彼のやった比叡山の焼き打ちを真似して、聖地を攻めるようなことをしてもおかしくはない。

 さらに、魔王と名乗っちゃうかもしれない。


「うん……?魔王?」


 その時、ボクの脳裏にあるプレイヤーの顔が浮かんだ。


「!!もしかして、魔王と戦わせるつもりなんじゃないかな!?」

「ええ!?魔王とですか!?」

「そう!魔王討伐っていう名目なら戦力を強化しても非難され難いし!」

「…………魔王との戦いを呼び水にして、神々を引きずり出す。ありえますね……。もしも神々が現れなければ、私たちを見捨てたと吹聴して、今度はそれを口実に堂々と敵対することができるようになる。どちらに転んだとしてもシュレイの目的に一歩近づくということですか……」


 そ、そうだったんだ。そんなことまで考えていたんだね……。シュレイちゃん――そのことが分かっちゃうティンクちゃんも――、恐ろしい子!

 まあ、今は彼女の狙いが読めたことを、喜んでおこうかな。将来のご主人さまとしては、そのくらいはできないとね。


「ティンクちゃん、聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」


 話が一段落したところで、気になっていたことを尋ねることにした。


「なんでしょうか?」

「二人の名前って、もしかしてあの男が付けたものなの?」

「……はい」


 シュレイちゃんが強く拒絶していたから、もしかすると、と思ったんだけど当たりだったみたい。


「ですが、ほとんど名前で呼ばれたことはありませんでした。あの男にとって、私たちの名前とは自分の所有物であることを周囲に知らしめるためだけのものだったのです」


 目を伏せる彼女を再びギュッと抱きしめる。いなくなってからも二人を苦しめ続けるなんて、本当に最低な男だよね。


「決めた。ボクが二人のご主人さまになった時に、新しい名前をプレゼントしてあげる」

「……はい。楽しみに待っていますね」


 そしていつも通り突然、インフォメーションが流れ始めた。


〈『迷い猫(ストレイ・キャット)』のティンクがフレンドモンスターになりました〉


 フレンドモンスターってなに!?


〈フレンドモンスターは一緒に行動してくれますが、パーティーに入ることはなく、得た経験値も反映されません。ドロップアイテムのみ、互いの了承があれば融通しあうことができます〉


 あ、珍しく追加の説明があった。

 ふむふむ。つまり一番大事なことは、これ、だね。


「これからよろしくね!」

「ごごっ!」

「ふごっ!」

「しゃぴっ!」


 ボクたちの歓迎の言葉に、新しい仲間はとびっきりの笑顔を見せてくれた。


シュレイ、ティンクという名前も個人的には気に入っていたのですが、話の流れでそういうことになりました。

……新しい名前、どないしよ。


それと、シュレイ、ティンクという名前には元ネタがあります。何か分かるかな?

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