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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
5 帝国との抗戦
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68 それぞれの旅立ち

 アルス君との会談が終わると、ボクたちはそれぞれ自分の役割を果たすために一旦お別れすることになった。

 まず、ゼロ君たちは数人の男性テイマーと一緒にこの街を拠点にしてレベルアップを図るそうだ。そのため、町の外に行く前に冒険者協会へ寄って簡単なクエストを受けておくとのこと。


「リュカリュカ姉ちゃん、また四日後になー」

「はいはい。気を付けてレベル上げをするんだよ」


 元気に手を振りながら歩いて行く彼らに、ボクは手を振り返した。


「アルス君もそうだけど、リュカリュカちゃん、あの子たちにも随分と懐かれたわね」


 苦笑しながら遥さんが近づいてくる。遥さんたち姉妹はこの後、転移門を使って――試しに起動させてみると問題なく使えることが分かった。『ズウォー名誉領民』の称号効果が便利すぎる!――古都ナウキへと戻ることになっている。

 アルス君の言葉を伝えたり、四日後の物資買い付けのための調整をしたりと色々忙しくなるみたいだ。


 それにしても、遥さんの美しいはずのその瞳が微かに怪しい色に光っているような気がするのはどうしてなのでしょう?


「あはは。なんだかやんちゃで目が離せない弟がたくさんできたような気分です」


 そう言った途端、あちこちから「あちゃー……」という声が上がったのだけど、なに?


「リュカリュカちゃん。アルス君やゼロ君たちの前でその言葉は禁句だからね。いいわね」

「あ、はい」


 良く分からないけれど、遥さんに釘を刺されてしまった。


 さて、残るメンバーはアルス君と一緒に、ズウォー領の都であるズフォークに行くことになっている。道中のアルス君の護衛と、何かあった時に手早く連絡ができるようにするためだ。

 話を聞いていると、どうやらアルス君や地方に領地を持つ貴族たちは、帝都にいる貴族や官僚たちと仲が悪いみたい。大規模イベントでの――ボクが阻止したことになっている――暗殺計画もそうした背景があってのことだった。

 いわゆる政敵が妙な動きをみせた時、すぐに対処できるように、ズフォークに派遣されるのは『わんダー・テイみゃー』でも選りすぐりの戦闘能力の高いプレイヤーたちだ。


 そういえば大事なことを説明していなかったような気がする。テイマーギルドと言いながらも我らが『わんダー・テイみゃー』はテイマーだけが所属している訳じゃない。

 加入条件は動物が好きなことと、無暗に動物を傷つけたりしないこと。

 後は、みなみちゃんさんを始めとした何人かのギルド幹部と面接して合格がもらえれば、晴れてあなたもギルドメンバーです!という流れだ。


 実際、棗さんは商人系上位職である交渉人(ネゴシエーター)だし、昌さんも同じく商人系上位職の仲買人(ブローカー)だ。

 ゼロ君たちも戦士、格闘家、魔法使いという職業だけど、将来的にはうちのギルドに入る予定――今のところはね――となっている。


「それじゃあ、私たちはこれで戻るけど、リュカリュカちゃん。無理はしないでね。何かあったらすぐにメールしてね」

「了解です。遥さんたちも気を付けて」


 大規模イベントが終わってからかれこれ二週間になるので、運営さんが突発的に何か関連するようなイベントを発生させてくるかもしれないからね。

 遥さんたちを見送ると、今度はアルス君たちとズフォークへ行くメンバーとも別れの挨拶を済ませて、ボクは一人で町の入口へ向かった。


 門の脇にあるズウォー領軍の詰所から懐かしい――わずか数時間とか言ってはいけない――鳴き声が聞こえてくる。


「すいませーん!リュカリュカですけれど、テイムモンスターたちを引き取りに来ました!」

「おお!早かったな」


 何人かの兵士たちと一緒に、体格変化の技能で小さくなったうちの子たちがいそいそと出てきた。

 古都ナウキならいざ知らず、他の町の中にテイムモンスターを連れて行くことはできないので、この詰所で預かってもらっていたのだ。

 テイムしているとは言っても、魔物であることに変わりはないからダメなんだって。聞いた時には「え、何そのいまさらな設定……」と思わず口に出しちゃったよ。


 他の人たち?ボク以外のテイマーのプレイヤーはもれなくテイムモンスター専用の収納ボックスを持っていたのでした!

 おにょれ、金持ちどもめ!

 道理で皆、テイムモンスターのサイズのことを気にしない訳だよ。


「みんないい子にしてた?うちの子たちを預かってくれてありがとうございました」


 後半は兵士の皆さんに向けてものものだ。


「なに、アルス様の命を救ってくれたことに比べればどれほどのことでもない」

「それに、さすがはテイマーが躾けた魔物たちだ。暴れるようなこともなく、全員大人しく待っていたよ」


 小さくなっていたこともあって、すっかり兵士の人たちにも気に入られていたみたい。

 褒められているのが分かったようで、イーノたちがエッヘンと胸を張っている――飼い主視点ではそう見えるのです!――。

 ボクもなんだか嬉しくなってくる。でも、あげないからね。


 さて、もうお気づきのことだとは思うけど、色々ととっても優秀なアルス君――時々泣いちゃうのもご愛嬌なのです――は領内の兵士さんたちや住民の人たちからの人気が高い。そしてボクはそんなアルス君を暗殺の魔の手から救ったことになっている。

 つまり、こっちに来てからすっごく敬われているのだ。『わんダー・テイみゃー』の仲間と別れてから町の入り口につくまでの間にも、町の人たちから何度も拝まれてしまった。


 ボクにそんな大層なご利益はないですよ?


「何度も言っていますけど、アルス君を助けることができたのは偶然だったんです。だからそんなに(かしこ)まらないで下さい」


 何回も何回も繰り返しているやり取りなので、今回もきっと無駄なんだろうな、と思いながらも。もしかすると今回こそは、という微かな希望を胸にそう言ってみる。


「あー、リュカリュカ嬢ちゃんが大仰にされるのが苦手だということは分かってはいるんだが、町の者たちに感謝をするなとは言えなくてな……」

「この砕けた口調も、実は我々にとってはかなり無理をしていてな」


 うわお!既に譲歩してくれていたってこと!?

 はあ、これは自然に落ち着くに任せるしかないのかな……。邪険にされる訳じゃないから、良しとしよう。……そう思っていないとやっていられないよ。


「ところで、嬢ちゃんはこれからどうするつもりなんだ?あの新米冒険者の小僧たちのように狩りに出かけるなら、色々と教えられるが?」


 あからさまに話題を変えたね。まあ、ボクもこれ以上引っ張るつもりはないけど。


「すごく魅力的なお話ですけど、帝都がある南方に向かいながら冒険者たちの様子を見て回ろうと思ってます」


 みなみちゃんさんからだけでなく、多恵さんたちやロヴィン君たちからも、無理をしない程度で情報を集めて欲しいとお願いされているのだ。

 それに、西門外に現れたという悪魔召喚士とか、いくつか個人的に気になることもある。


「そうか。我らがズウォー領内であれば、それほど危険はないとは思うが……。帝都に近づくのであれば、用心だけはしておくようにな。嬢ちゃんの旅の無事を祈っている」


 そんな温かい言葉を背に、ボクたちは南へと向けて歩きだしたのだった。


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