67 外部交渉
大規模イベントから一週間が経ち、第三陣の新規プレイヤーが着々と増えていくなか、古都ナウキはかつてないほどの危機に直面していた。
ナウキを中心とした特別自治区から、帝国領内への移動ができなくなったのだ。当然その逆も同じで、ラジア大洞掘の中央部、モーン帝国のど真ん中に位置する古都ナウキでは、物流がほぼ全て止まってしまっていた。
どうしてそんなことになってしまっているのかって?それはもちろん、ナウキと帝国のお話合いが上手くいっていないからだ。
イベントの翌日、ナウキ側は帝国へと使者を出して、帝国軍が突然街を包囲して戦いを仕掛けてきたことを非難し、謝罪と賠償を要求した。それに対して帝国側は、そんな事実はないと知らぬ存ぜぬを貫いてきたのだ。
さらに皇帝の身柄を預かっていることについても同様で、皇帝の名を語る大罪人なのですぐに身柄を引き渡せと、逆に要求してくるという始末だった。
そんな物別れに近い状態で話し合いが終わった結果、今度は物流や経済面での帝国の攻撃が始まったのだった。
「帝国内の状況は、はっきり言って最悪に近い。元々臣下の者たちは皇帝陛下の強大な力によって半ば無理矢理まとめあげられていたから、その頸木がなくなったことで、権力争いや後継者争いが起こり始めている。特に寄って立つための土地を持たない帝都を拠点とする者たちにその傾向が強くなっている」
そしてさらに一週間後、ボクたち『わんダー・テイみゃー』のメンバーの約半数に、ゼロ君たちパーティーを加えた一行は、数日をかけて――急ぎなのでそれぞれのテイムモンスターたちに乗ったり、荷車や台車を曳かせたりしていたけど、結構疲れた。空を飛べる子が仲間に欲しいかも。成長したワトに期待?――古都ナウキから北方の、帝国ズウォー領にあるウェノトの町へと来ていた。
イベント終了時にもらった、称号『ズウォー名誉領民』の効果で、ボクたちだけはズウォー領に限り、帝国との行き来が可能だったためだ。
「混乱しているなら、逆に付け込むチャンスなんじゃないの?」
帝都での様子を語ってくれていたアルス君にギルドメンバーの一人、昌さんが尋ねた。
「統括できる者がいないから、下手に接触すると、その先の派閥に取り込まれてしまうことになる。当然他の派閥は敵対視して潰しにかかってくるだろう」
怖っ!超本格的な権力争いだよね、それ!?
ゲームの世界でまでそんなものに巻き込まれたくないよ。いや、リアルでも近寄りたくはないけどさ。
「焦って動くと取り返しのつかないことになりそうね」
「でも、ナウキにはもうあんまり余裕はないよ。転移門も止められているから、冒険者の間にも不満は広がってきているし」
副ギルド長の遥さんの呟きに、棗さんが返す。
大半が外部からの購入に頼っていた物品もそろそろ品薄感が出始めている。食べ物関係でなら農作物がそれに当たるかな。
幸い、食用にできる魔物が多いので、食糧不足になることはないだろうけれど、ラーメン騒動や、この間のお祭りで舌が肥えてしまった人が多いから、楽観視はできない問題だ。
ちなみに、帝国の領外――一部の辺境の町や、お隣のロピア大洞掘にある町など――への転移門での移動は可能だった。だけど距離が遠いので使用料がステキな額となってしまい、とてもじゃないけど普段使いできるものじゃなかったらしい。
ついでに説明しておくと、人気の狩り場の混雑具合はこれまでとそう変わらないけれど、その他の場所でも人が増えていて、横入りしたーだの、魔物をたくさん連れてきたーだのとトラブルがちょこちょこと起きているそうだ。やっぱり移動が制限されている分、人口過密になっているみたい。
街中でも、ログインしている人が多い時間帯だと、冒険者協会がある西地区の広場や東地区の屋台通りなどの人気のスポットは、身動きが取れないほどの人で溢れ返っている。
まあ、警護隊や引き続き警備を手伝ってくれている神殿騎士の人たちが目を光らせているので、外に比べるとトラブルは少なかったりする。
「昌ちゃん、イナッハ会長が持ってきた書類を出してちょうだい」
「遥姉、はい」
「あ、ウッケンさんたちから預かった書類がこれね」
遥さんの指示に何やら紙束を取り出した昌さんに便乗する形で、棗さんも紙の束を渡していた。
あ、この三人はリアルで姉妹なのだそうだ。
「こちらがナウキの『商業組合』から預かった、最低限確保したい物資のリストになります。量は全て一カ月分となっています。そしてこちらが交渉で譲歩できる項目とその条件を記載しています」
そう、ズウォーに来たのは帝国の様子を知るためと、もう一つ、不足し始めている物資を確保するためだった。
アルス君は元々ナウキを攻めることには反対の立場だったこともあり、あの暗殺計画を阻止したことの借りを返すために――という名目で――、物資調達役を買ってでてくれていたのだ。
「拝見しよう」
難しい書類の束に目を通していくアルス君の姿は、とてもローティーンだとは思えない貫禄があった。遥さんから手渡される時に、彼女の手に触っちゃったのか、頬っぺたが赤くなっているのは年齢相応に見えたけどね。
「交渉に関しては、根回しをしてできるだけそちらの意に沿うように努力するとしか言えない」
「十分です」
「物資の方は、錬金や鍛冶の素材以外は何とかなるだろう。早急に手配しておく。五日、いや四日後までには揃えておこう。それと、ここに書かれている金額だと、我々の取り分が多過ぎる。一割程度は安く提供できるだろう」
「ご配慮ありがとうございます。それでは四日後にまた参りますのでよろしくお願いします」
アルス君の粋な計らいに、遥さんが頭を下げるのに続いてボクたちも慌てて頭を下げた。
「あー、貴方たちが来るということは、リュカリュカ殿やゼロたちも来るのだろうか?」
ほえ?ボク?どうなんだろう?
遥さんを見ると、任せるといった感じで小さく頷いていた。
「えっと、ボクはしばらくの間ズウォー領内の町を行き来するつもりだったから、四日後にいた方が良いのなら、そうするよ」
「俺たちも問題な――」
「それならぜひ立ち会ってもらいたい!」
す、すごい勢いでお願いされてしまった。
それにしてもゼロ君の言葉を食い気味になるくらい彼らに会えるのが楽しみなんだね。アルス君は貴族の当主だから、自由に友達と会うこともできなくて寂しい思いをしているのかもしれない。
そしてギルドの皆からアルス君の後ろに控えていた人たちに至るまで、ボクやゼロ君たち以外全員が、微笑ましいものを見るような目で彼やボク――え?どうして?――のことを見ていた。
リュカリュカちゃんはアルス君のことをローティーンだと思っています。
本当の年齢?だから秘密ですってば!




